アウシルの左腕
休んだ。整備が終わったあと。具体的に言うと風呂に入って飯を食べてその後めちゃくちゃ寝たんだ。
「ん、おはよう、シュン君」
「何時間くらい寝てた?」
「15時間くらい?」
15時間。最近の睡眠時間が平均5時間くらいだったからいつもの3倍寝た訳だ。そりゃ気持ちいい通り越してちょっと身体が重いまでになるよな。
「ロングスリーパーだもんねシュン」
元来僕はロングスリーパーだ。時間が許すなら10時間とか平気で寝る。
「まぁね。本当は毎日めっちゃ寝てたい」
ただ僕の場合は寝てしまうと言うだけで最低の睡眠時間は8時間あれば十分だ。8時間も寝てれないけど。
「さて今日はあれだよな、着けるんだよな?」
「うん。どうする?私達はいつでもいいけど、シュン君がどうするかを優先したいんだけど。その、痛いから」
「ご飯を食べた後が良いかな。その後すぐにでちゃうから」
「そう、じゃあそうなるように準備するよ」
「ありがとう」
その後朝食、と言うよりも昼ご飯を食べる。カレーとナンである。僕は自分でナンを千切ることも口に運ぶ事も出来ないので2人にちぎってカレーつけて運んでもらう。
「美味いなやっぱ。城の味が薄い料理よりもこっちの方が好きだ」
バターチキンカレー。スパイシーな辛さと甘さが絶妙なバランスを保って舌を唸らせる。
「ねぇ、シュン君。格納庫で整備士さんとお話ししてた話さ。あの私たちに特別な時間を沢山過ごして欲しいみたいな話」
聞いてたのか、いや聞こえてたのかな?だって獣人の聴力って凄いし
「やっぱ地獄耳じゃんね。言ったよ、僕はそう思ってる」
「その、あんま考えたくないし言いたくもないんだけどさ、私もアイシスちゃんも。それは私たちの時間が短いから?」
獣人は人間の1.5倍かそれ以上の筋力を持つし、平熱は39℃近くある。つまり人間に近いけど人間ではないって話であり、その命の長さと言うのも人とは大きく異なる。
「そうだよ。2人は僕の人生の半分も生きれない。その上で王妃って形で大きく時間を潰してしまっている。ならせめて出来るだけ濃い人生を歩んで欲しいって思うのは当然の事だろ」
「……シュン。確かに私は30とか35とかで死ぬよ。短いって自分でも思う」
獣人の平均寿命は30から35である。故に美しいまま死ぬ種族だとか言われてる。バリバリに差別的だから面と向かって言う人は居ないけどね。
「でもこれは私たちの問題だよ」
「違う、政略とは言え僕らは夫婦だ。これは僕の問題でもある」
スビアは僕の後ろに回って抱き付く。スパイスの匂いと甘い匂いが混ざってなんだか不思議な感じだ。
「解決できない事だよ。それよりも貴方には自分の人生を考えて欲しいかな。私達は50年も80年も貴方を支えてあげられる訳じゃないからね」
「2人はこんな役割を押し付けられてるんだ。自分が死んだ後なんてどうでも良い、ちょっとはそう思っても許されると思うけど」
自然と放った僕の言葉、アイシスはその言葉に口をムッとさせた。
「シュン貴方自分で自分の事大人だって言った癖に私たちの事は子供扱いする訳?それは言葉を便利に使い過ぎでしょ」
ため息を吐くアイシス、相当に僕の言葉が嫌だったらしい。
「それと貴方は私たちがこの役割をやらされてるって表現したけど、それは違う。私たちはこの役割を選んだんだ、貴方といる為にね。だから後悔させないで」
鋭い目、イカ耳。アイシスは怒っている。
「ごめん、考えれてなかった」
「いいよ、今から考えてくれれば。ただ、忘れないで。貴方は責任を取らなくちゃならない立場だよ」
「分かってる。大人なんだもんな、僕ら」
飯を食べ終えてしばらくして立ち上がる。
「さて、あれを付けてくれ」
頷く2人、その瞬間に真剣な顔に、医師の顔に変わった。
3人で医務室に行き、鉄の手術台に寝る。手足を拘束され、口の中に食い縛る雑巾を口に入れられる。
「やるよ」
僕の左目、失った時に宝具が付けられるように治された。でも左腕は違う。宝具をつける事を想定していなかった。だからまず開く必要があるんだ。
「ぐっ……」
目を瞑ってただ痛みに耐える。閉ざされた筈だった傷が開いていく、血が抜けていく。
「堪えて」
激痛、次にやってきたのは熱さ。宝具が、オシリスの聖腕が僕の左腕に付いている。アウシルの腕が、アウシルの魔力が僕と繋がる。
「あがっ!!!」
ドクン!!
心臓が破裂するような感覚。有り余る魔力が肉体に流れて体中で爆発する。
「シュン君……」
アウシルの魔力。持って生まれた身体があの人とは違うからあまりにも痛い。だからなんとか魔力を操作して外に向かう魔力と内に向かう魔力をぶつけて相殺しないと……
「くっ……ッッたぁ!!」
魔力が相殺される。身体の中で。相殺された魔力は熱となる。
「熱い、はやく巻いてくれ!」
左目に巻かれているのと同じ布が左腕に巻かれる。魔力の収まり、痛みは消えるが熱はそのままだ。
「終わったよ、シュン」
右手を握ってくれるアイシスの手。いつもよりも格段に冷たく感じる。




