倒壊
首相をバーラギリス・モンドゥー元陸軍大将とし、外務大臣をロベルピエル、法務大臣をラムセスという形で内閣は組閣された。記念すべきバーラギリス内閣初めての議会、事件は起こったのである。
「大恐慌から続く、いや、スエズ鉄道から続く一連の流れより……」
議会。あの事件で破損した天井はそのまま。小雨が演説するバーラギリスに振っていた。
「平時は著しく脅かされ、戦時一歩手前となりました」
議会に熱は篭らない。いつもならば人の熱によって熱くなってしまうが、天井の穴から熱気が逃げていくから少し肌寒いくらいの温度なのだ。だから熱狂はしない。理性的に話を聞いてる、皆。
「しかし我らの偉大なるファラオ、小ホルス陛下とラーの祝福、万雷の如きアヌンナキの加護によって事態は何とか一命を取り留めました」
演説としては上の中だろう。所作も貴族然とした美しい所作と戦場の男の顔の厳しさが印象的なコントラストを作っている。だが僕の予想と裏腹その演説は続いた。よくない方向へ。
「ですが終わりよければ全て良し、結果こそ全て、これでは寂し過ぎます。よって私はここに軍部に対して一つ警告をしたいのです」
演説の終わり、座る彼。唖然とする皆。僕とて例外ではない。このタイミングで軍部を口撃するなんて正気じゃないだろう。その証拠にイズィバーラは笑って、そして立ち上がっている。
「遺憾である!!」
イズィバーラは叫ぶ。彼に向かって。カウンターをしようと、そういう訳なのだ。
「我らは軍としてメンフィスの平和を護ってきた。その仕打ちがこれか?誰がアトランティスから国境を守ったと?誰がシュメルから国境を守ったと?怒れる民主を理性的に沈めたのは誰だ?なぜ我らが貶められなければならない?」
「軍を貶めただと?速記者、確認しろ。もし私の発言の中で彼が言うように軍部を貶めるものがあったのなら私が割腹しよう。だが無いのであればイズィバーラ、お前が割腹しろ」
意図が分からない。意味不明。僕の口から自然と溢れる一言。
「は?」
ラムセスと顔を見つめる。彼もまた口を小さく開けて唖然としていた。
「良いだろう!私にはその覚悟がある。当然、お前にもあるんだろうな!?じゃあこの場で投票を取ろう!」
投票?この場で?イズィバーラかバーラギリスが腹切りするかの?
「何言ってんだ??」
再び漏れる困惑。その裏腹、議会は野次の嵐となっていた。
「バカヤロー!」
「馬鹿とは何だ貴様!」
荒れる議会。困惑する僕とラムセス。ロベルピエルですらこの状況を理解しきれていない。イズィバーラは何を考えている?何で貴方は議会の中心で顔を赤くして罵詈雑言を叫ばれ叫んでるんだ?らしく無いじゃ無いか、貴方らしく無い。冷静に俯瞰的に物事を見ている貴方なら怒鳴り散らす真似なんてしないだろう。何で?どう言う意図があって?どんなパフォーマンス?
「不信任!不信任!不信任!」
不信任コールが鳴り響く。何が何だかわからない。でも今の状況が非常に不味い事だけははっきりとわかる。
「陛下、ここは一旦議会を閉じるが先決かと」
「そ、そうだな。あぁそうしよう。これじゃ話し合いにはならない」
立ち上がり議会を一瞥する。取っ組み合いの喧嘩。中心で乱闘騒ぎ。胸元を大男に掴まれたイズィバーラ、僕を見ている。何を考えているのかわからない顔。
本当にここで議会を閉会しちゃって良いのか?これは罠なんじゃないのか?わからない、でも今は取り敢えず議会を閉会させて考える時間を得るべきだ。何よりこんな乱闘騒ぎ見たくない。
拳を大きく掲げて振り下ろし、手すりを破壊する。木片が下に落ち、乱闘騒ぎに向かう視線は全て僕に向けられた。
「議会は閉会とする」
短く告げて去る。僕本人としては嫌だなくらいにしか思ってないけれど、それでもファラオという存在の大きさは彼にとって無視できない物だ。ファラオを怒らせたという事実がいい方向に作用する事を願うばかりである。
「ラムセス、あとは頼んだ」
翌日、議会が開かれる。内閣不信任決議によって。
新たに生まれた内閣は初日の割腹事件によって倒れ、再び内閣を立て直す必要が出来てしまった。次から次へと、問題が産まれてくる。まるで何者かが手引きしているかの如く。




