次から次へと
3時間程ベットに寝っ転がっていようと思った。だがそうは行かないみたいだ。
「陛下、至急で御座います」
僕にとってこの部屋は、3人で居れるこの部屋は家で、優しい世界だ。だからこの扉の外から聞こえる声が最近嫌になってきた。でもそうは言ってられない。
「そこからで良い、要件を申せ」
「クーデターです。山岳派の将校によって議会が占拠されました」
山岳派、地方分権とファラオ親政を目指す人達。その性質上、ファラオが神聖な存在である時にしか存在できない組織だ。つまりこのファラオの神聖さによってこのクーデターを収める事が叶う筈である。
「その行いはファラオの御心に反している。即刻解散せよと知らせいざとなればファラオ自らが議会に突っ込んで制圧する事も辞さないともな」
たとえその上層が首を挿げ替える気があったとしてもその末端は違う筈だ。なら末端の方から崩せる筈。土台がなければ建物が立たないように末端が無ければこのクーデターは成功しないのだ。
「ごめん、行かなくちゃならない、僕」
着替えをして外に出る。その直前、2人は寂しそうな顔をしていた。そうだよな、結婚してんだ、僕。だから今の僕はそう、家庭を顧みない悪い夫に見えるよ。心苦しいな。
「行ってくるよ」
重く感じる扉を開ける。外にはイズィバーラが待機していた。
「貴方だけか?」
艶やかな金髪、されどいつもより艶は少なく少しクシャとなっているし、汗の臭いがする。
「はい、陛下のお気に召す方は皆議会にて拘束かれています」
「そうか。何故貴方だけとは聞かない。今貴方が出来る事を教えてくれ」
正直聞かなくても分かる。イズィバーラに出来るのは軍を率いて議会の制圧をする事、それだけだ。
「陛下の大命とあらば、逆賊を賊滅をも厭いませぬ」
だがそれは駄目だ。軍に全てを任せてロベルピエルやラムセスと言ったイズィバーラに対抗できる人物を事故で失う訳にはいかない。
「そうか、ならば軍を率いて議会を包囲してくれ。決して突撃はさせるな、何があってもだ。厳命しろ」
軍は動かせない。なら軍ではない誰かが鎮圧しなければならない。例えば警察。だが実践経験は山岳派の軍より上とは言え、人員と装備の面で不安が残る。なら警察の戦力不足を補う何かが必要だ。
「警察のA2部を出せ。私がそこに加わる」
「正気ですか?陛下自ら……」
「アトランティスに殴り込みをしたのは誰だ?私だ。他国の土ならばまだしも、自国の土ならば危険はないよ。それに相手は山岳派だ」
山岳派がファラオ親政を目指している以上、ファラオを撃つ事は決して出来ない。やってしまったら山岳派そのものがぐちゃぐちゃに分裂してしまうから。だから私は剣であり盾になれる、無敵の。
「早馬を出せ、直ぐに議会に向かう」
「陛下……」
「今直ぐだ」
早馬に乗り市中を駆ける。後ろに警察を連れて。
やがて辿り着いた議事堂。中央にドームがあって両翼に四角い建物を携えている。
「行こうか」
議事堂へ続く道。後ろに盾とサーベルを装備した警察を連れて歩く。堂々と。
「へ、陛下!?」
警備する山岳派の軍人。先端に赤い石の付いた杖を僕に向ける。火杖である。
「ファラオに弓を引くという事がどのような意味を持つか理解しているのか?」
戸惑う2人の兵士。様子を見るにこの状況について詳しく理解していないんだろう。ならここで取るべき行動は一つしかない。
「ファラオは軍の最高統帥者である。私が命令する、今日は家に帰って暖かくして寝ていろ」
上官の命令は絶対。だから仕方なくこんな事をしている。そうであるのなら上官よりもさらに上の存在の命令を与えて帰ってもらう他ないだろう。
「聞こえなかったのか?家に帰って暖かくして寝ろ」
一度向き合う兵士。小さく敬礼をしてから足早にこの場から去っていた。
「開けてくれ」
固く閉ざされた扉を開ける警察。その間、魔力を右手に込めて剣を作る。レーザーの剣。細い糸のような剣を。
「通してもらうか」
並ぶ数十名の兵士たち。中には火杖を向ける者もいたが決して火の玉が飛んでくる事は無かった。
長い廊下を歩く。戸惑う兵士の視線と小さな敬礼を受けながら。
辿り着いた議会のホール。中央に演説台があって、円の縁に沿うように議席が設置されている。
演説台に立ち辺りを見渡す。困惑する兵士と苦虫を噛み潰した顔をしてる山岳派の将軍。右手側、一番上の席にラムセス。彼は小さく頷いた。
「解散しろ!私の命令が聞けぬのなら貴軍はもはやメンフィスの軍では無いと知れ!」
その時、真ん中の天井が崩れる。落ちてくる石材、火の玉を投げて打ち砕き、風の魔法で無害な場所に吹き飛ばす。
土煙の中、何かが落ちてきた、いや、着地したような音が聞こえた。
「ヴァダ……ヴァダナ……ヴァダナギ」
ヒトガタのマンゴーデスワーム、顔は瞳がなく鼻も無く、唇もなく、ただ人の歯のある口だけがある。かつて戦ったアイツと同じ形をしている。
「何がどうなっている?」
かつての奴はアウシルの腕を持っていたからマンゴーデスワームが奴になった。なら目の前のこいつはなんだ?何がどうなっている?
「あ……あの人、何をやってんだ……」
微かに感じる、感じてしまった魔力。アペプの魔力。まさか人工的に作ったのか?だとするとアヌンナキの技術を使って?
くそ、考えても何も分からない。今はひとまずこいつを倒そう。




