幼年期の終わり
ロベルピエルと僕による死刑制度の改正案、死刑を斬首刑のみとする、斬首刑は難易度的に難しいので絞首刑のみとするという形に修正され無事下院において承認された。あとは上院に承認を待つのみだが、上院は下院よりも王権の影響を強く受けているからほぼほぼ通るはずだ。
「山岳派の動きはどうなっている?」
執務室に呼び出したアヴダヴ。彼はいつもの顔でいつものように執務室に立っている。
「動揺しています、明らかに。今回の陛下の動きはあからさまに弑虐未遂犯を庇う動きでしたから」
「難しくなりそうか?」
「おそらく。過激な意見ではクーデターも辞さないと」
「そうか、大変だな」
アヴダヴは眉を顰める。信じられないものを見たような顔をしていたんだ。
「やけに他人事ですね。らしくない」
他人事、確かに今のは他人事のような生返事だったな。理由は分かってる。ロベルピエルの話を聞いたり自分の親について考えたり、昔の物、シュンではなく有馬隼が生きていた時代の産物を見せられて、僕の中の有馬隼の残骸が刺激された。そのせいでちょっとシュンよりも隼に寄ってるんだ、今の僕は。
「そうだな、よくない傾向だ。治さないとな」
個人的な事、終わってしまった過去に悩んでしまうのは過去と決別しきれてないからだ。
「兄に言われた、お前はくだらない事で悩んでると。だからこんなくだらない事はもう辞めにしないと」
有馬隼は僕だ。有馬隼の性格は僕そのものだ。でもその実彼は僕じゃない。だから僕が彼の歩んできた道のことで悩むのは少し違う気がする。
「ごめん、アヴダヴ。呼び出して悪いけれど席を外させてくれ。僕には謝らなくちゃならない人と許さなくちゃならない人が居るんだ」
執務室を去り自分の部屋へ。いつものようにベットの上は紙だらけ、2人は本の翻訳をしている。
「ん、今日のお仕事は終わったの?」
「いや、ちょっと休憩。3時間くらい休んでからまた仕事するよ」
紙の束を押しのけてベットに寝っ転がる。さっきまでアイシスが座ってた所が暖かい。ふかふかなんだ。
「僕はピザなんだと思う」
顔を覗き込む2人、相変わらず良いんだ。アイシスは凛々しくてスビアは可愛くて。特に耳がぴょこぴょこ動いててさ。
「味はチーズにしとこうか、アイシスが好きな味」
「え、どういう事?」
「何言ってんの?シュン」
悪い癖だ。申し訳ないと思ってる時に意味のわからない事を言ってしまう。
「ピザの一切れをみんなに渡す、その時に2人には一番大きな一切れを渡したいと思ってる。でもそうはいかなくなってしまった」
クーデターの噂がある以上、これからはさらに慎重にならなくてはならない。そんな状況で彼女達に良い物を、そんな個人的な事は出来なくなってしまった。何がなんでも守り切る、そういう段階なのだ。
「簡単に言ってよ」
「休みは取れそうにない。しばらく」
2人の残念そうな顔、申し訳ない、そんな気持ちが大きくなって心を埋め尽くす。
「ごめん、本当に」
「良いよ、シュン君。私たちのとこに帰ってきてくれれば私はそれで良いから」
スビアはアイシスに目配せをする。アイシスは静かに頷いた。優しいんだ、2人。
「ありがとう。愛してる」
胸に飛び込んでくるスビア。良い匂いのする金の髪を撫でる。サラサラで触り心地が良い。
「それとこれは本当に個人的な話なんだけどさ。僕の父親の事、昔話したよな」
「うん。演者さんのお父さん。正直、私は好きじゃないかな」
親から冷遇されてきたスビアがその感覚を持つのは不思議ではない。実際、僕も人ととしては好きではないと最近思うようになった。
「そうだな。でも一つ思ったんだ。あの人が僕の父親じゃなかったら、きっと僕は僕じゃない」
もし自分が普通の家庭で育ったら。一度想像してみたけど、多分僕が普通の家庭で育ったたら本当に普通の人だっただろう。僕はアペプと違って根っからの凄い人じゃないから。
「僕じゃない僕を2人が愛してくれていたか、それは少しわからないだろ」
結局僕が王様をやれてるのも、僕が2人に愛されるきっかけを作れたのも演じる力があったからだ。要は僕は僕じゃないと2人とは居れなかったと思うし、こうとも言える。あの父親にこう育てられたから2人に愛されて2人を愛す事が出来たんじゃないかと。
「だから、そうだな。悩んでも仕方がない事だった」
だから辞めるんだ。決別するんだ。有馬隼の残骸と。
「父親を愛す事はないだろうけど、僕は父親を許したいんだ」
僕はファラオ。ファラオの役を演じている訳ではない。僕はファラオなんだ。だからファラオとして僕は国を守るんだ。今一度それを胸に刻もう。この国とこの2人、両方を守る為に。




