なんて事をしてくれたんだ
ロベルピエルの事を知った後、僕らは王都に戻る為に馬車に揺られる。
「ねぇシュン。それで一体何が分かったの?」
「ロベルピエルは僕と同じような人種だった。ちょっと安心した」
2人、どういうこと?って言いたいそうな顔をしてる。正直、自分で言っておいてあれだが今のは流石に何と思う。会話になってない。
「あぁ、その、なんて言えばいいかな。僕もロベルピエルもある人に憧れてて。でもその人を知ってる人は僕以外に居ない、そう思ってたからちょっと嬉しかったんだ」
ただ、僕も僕の父も高みの最初にすら至れなかった。それ程の人なのだ彼は。でもそれ程の人間であってもこの長い時間の中に忘れられてしまった。
……分かるかもしれない。今ならば彼の気持ちが。
「味方かもって言いたいの?シュン君は」
「あぁ。もしも彼が僕の想像しているような人ならば信頼のおける人になるかもしれない、おそらく」
本当に人を愛して世界を憂いる人ならばぜひ手を取りたいと思うよ。僕もそんな人にこのメンフィスの舵取りをして貰いたいと思ってるから。
「もう少し接触してみようと思う。彼と。その動機も作ったしね」
「それって現状を壊すことになると思うけど?シュンはその辺大丈夫なの?」
現状、この国の政治は僕とロベルピエルとイズィバーラの三すくみによって成り立っている。ただここで注意しなければならないのは僕だけ地盤が脆いって所だ。ロベルピエルの地盤は自らの手足のように結束したブルトンクラブ党、イズィバーラの地盤は軍部というあまりにも巨大な土台。
対して僕はどうだろうか。ロベルピエルの理想は利益を損なうから、イズィバーラを含む軍部は我々の利益を害するから、そういう集まりだ。つまり現状が一つでも変われば彼らは敵になる。
「ロベルピエルを信じ切れるなら、イズィバーラの2人で抑えるって事も出来るかもしれない。ただ怖いな、ギャンブルなんだ」
こういう時、本当に分からなくなる。自分が正しいのか。それで一つの問題の正しさを失うと僕はどうしても後ろを振り向いてしまうんだ。それで後ろには今までの数々の選択が並んでいて、それも正しかったのかと、まるで霧の中で方向の失ったような感覚に陥ってしまう。
悪い癖なんだ、だからこういう時、とりあえず誰かに聞いてみる。
「スビア、教えてくれ。スビアはどう思う?」
女の勘。根拠はないけど良く当たる奴。こんなものを参考にしたりこんなものに頼ったりする訳じゃないけれど今の僕には必要なものだ。
「昔言ったよね、賭博はダメって」
言ってたな。確かあれはアウシルの遺体探しが始まった時の事だ。冒険者やるか賭博やるかって話でスビアが賭博するのはダメだって言ったっけ。懐かしいな。あの時はカペラさんも居たし。
……もし今カペラさんが居たら僕に正しい道を教えてくれただろうか。いや、ないだろうな。あの人割と適当だから。でも居てほしかったな。ちょっとだけ寂しい時はあるんだ。2人が本の翻訳だとかの時に大学に行ってる時とかさ。
「ねぇそれよりさシュン君。私もアイシスちゃんも頑張ったよね。頑張ってダンスできるようになったよね。結構スパルタな練習だったし、何か褒美があってもいいんじゃない?」
「僕に出来る事ならなんでもするよ。何が欲しいんだ」
2人は顔を合わせて少し頷いた。そして示し合わせたかのように同じ答えを口にする。
「時間」
時間。休めって僕に言いたいんだな。そういや最近は色々忙して全然休めてなかった気がする。うん、せっかくだしちょっと休んでもいいかもしれない。
「そう、だよな。休むか」
よくよく考えればそうだ。この国には色々な問題がある。でも峠はこの前越えただろう。しばらくは安泰なはず。なら今ある問題、大きな数ある問題は解決しなければならないけど必ず僕がやるべき事ではないはずだ。ホエル王のように早急に解決する為に全部を失うではいけないんだ。10年後の世界を救う前にまずはお皿洗いをして部屋の掃除をして、そういう話だろ。
「いいよ。どっかで連休を作ってみるよ」
何より疲れてるんだ、僕。大恐慌の時から、いや王になってから一度も休んでない。こんなでは過労死してしまうよ、冗談抜きで。
「なぁ、ちょっと寝ていいか」
スビアは立ち上がり、僕の隣でこれみよがしに枕にしてと自分の膝を撫でた。
「ん、ありがとう」
柔らかい、良い匂いもする。暖かいな。正直、ずっと眠っていたい。永遠にこのまま。そんな馬鹿な事を考えてしまうよ、これじゃ。
眠りに落ちる、深く。
いつの間にか馬車の揺れは消えて外は暗くなっていた。
「あ、ついた?めっちゃ寝たな、僕」
舗装された道だったらちょうど良い揺れだったってのと、頭を撫でられる感覚が心地よかったからすぐ寝てしまった。
「ありがとうな、スビア」
馬車から降りようと立ち上がる僕ら、スビア座っていた。
「痺れちゃった」
間の抜けた声、クスッと笑いが溢れそうになる。
「僕のせいなんだ、おぶってやるよ」
スピアをおぶって馬車を出る。外はもう完全に夜。と言っても王宮の近くだから王宮の灯りと大きな満月の夜くらいには明るい。
「あ!シュン!!」
アイシスは突然大きく叫んだ。瞬間、僕が周りに張らせていた僕の魔力にも揺らぎがあった。
「覚悟ッ!!!!」
血走った目をした男。ボロ衣の着た。街灯と月明かりがその男の手元の輝くものを照らしている。あれは包丁だ。肉を切る用の。
でもそれが何だって言うんだ。
脚で男の手元を蹴り、ナイフを吹き飛ばす。
「し、死ねェ!!」
初めてだ。こんなまっすぐな殺意を向けられたのは。怖いな、男の目。でも一番怖いのは彼の目に映る僕だ。あんな顔、してるんだな、ファラオって。あんな冷たい顔。わかってはいたけれど、実際に見るのは嫌だ。
「辞めてくれ」
殴りかかる男。でも幸い、彼の腕よりも僕の脚のほうが長い。だから彼の拳は届かず、僕の靴底だけが届いていた。
警備兵に制圧される男。モロに食らったと言うのにまだ強く僕を睨む。瞬間、僕は寒気に襲われた。
この男が怖かったから?それもあるだろう。でも何より怖いのはこの後の事だ。状況が動いてしまう、この男、王を弑虐した不敬者に対する不敬罪、その議論。それには間違いなくぶつかるじゃないか、ブルトンクラブと。ロベルピエルと。そして奴ととぶつかるなら、必ずイズィバーラも出てくる。これは………
「なんて事をしてくれたんだ、貴方は」




