回転が遅いぞ
パフォーマンスの終わり、ウヌスことロベルピエルは楽屋にさっきの素人を呼び出した。
「陛下がどうしてそんなに踊れるのか、その話はしないでおきましょう」
前に立つ素人は大きなサングラスを外す。そこにはロベルピエルにとって見慣れた顔があった。眼帯をした顔、国の指導者にしては少々優しい顔である。
「キング・オブ・ポップ。その名に聞き覚えがないとは言わせないぞ」
キング・オブ・ポップ。旧時代において最高とされたエンターテイナーである。
「えぇ、もちろん。私が芸の道を志していた時に愛した男の名です」
「私も私の父も憧れた、貴方の同じく。だからこそ言うが、貴方は回転が遅い。手足に振り回されるのを恐れている。キックも低いな。体幹が足りてない」
「それは陛下もでしょう」
小ホルスもまたロベルピエルと同じ問題を抱えている。王の回転を再現するには体幹が足りていないのだ。具体的に言えば腹横筋や背筋が十分ではないのである。
「そうだな。さて、ロベルピエル。お前はワンだろ」
「はい」
「案外あっさりと言ったじゃないか」
当然である。ワンの正体がロベルピエルである。それに何の意味がない事は両者分かっている。何故なら一般の人達にとってワンの正体を証明する物はスキルしかないのだから。つまり、ロベルピエルが自分がワンであると高らかに宣言しても小ホルスがワンであると被せるように宣言すれば、スキルが優れている方がワンになる、それだけの話であり、政治の戦いのダンスを戦いにしてしまう必要などないのである。
何より重要なのはここからだ。
「ワンはお前。ワンとお前の動きはキング・オブ・ポップの動きを劣化コピーしている。この認識で間違いないな?」
「えぇ、間違いありません」
「ならば、聞こう。お前はどうしてキング・オブ・ポップを知っている?アルファベットを翻訳するのならばまだしも映像を見るには法律専攻のお前では難しい筈だ」
ロベルピエルはメンフィス神学校神学部法学科である。法の勉強をしながら考古学分野の一番難しい部分である旧時代のシステム解読をするのは不可能である、現実的に。そう小ホルスは考えた。
「一生懸命に勉強しました、それではいけないですか?」
「誰に勉強を手伝ってもらった?」
システムを解読し映像を見る。それが出来るのは考古学会でも上澄も上澄。それこそロベルピエルの時代であったならばセトにしか出来なかった。しかしセトはその時他国へ遠征中だった。つまりロベルピエルはセト以外から教えてもらった可能性が高い。そうなると1人しかいないだろう。セトの唯一の弟子である奴だ。
「アペプで御座います」
「そうか。やっぱ凄いな、あの人。なぁその貴方が見た映像を見る事は叶わないだろうか」
小ホルスから帰ってきた返答はロベルピエルの予想する所ではなかった。彼はここから色々聞かれるだろうと考えていて、どう誤魔化すかと理屈をこねくり回していたので少し間の抜けた顔をする。
「やろうと思えば可能です」
小ホルスが何故根掘り葉掘り聞かなかったのか。何故なら小ホルスの中ではロベルピエルとアペプが関わりがある事については半分確定かなくらいの認識だったからである。
「そうか、頼むよ」
以前、小ホルスはアイシス伝手でアペプがメンフィス神学校を学力が青天井だから学力差の激しい学校であると言っていた事を知っていた。そこで小ホルスはこう考えたのだ。
あのアペプにして学力が青天井と言わせたのだ。それならばきっと、言わせた相手はロベルピエルのような人間であると。ならばロベルピエルとアペプに関わりがあったとしても不思議ではないと。
「では私はここで去らせてもらうよ、ロベルピエル。色々と忙しいしあの2人にご褒美あげなきゃだから」
去って行く直前、小ホルスは一つこう言った。
「私と同じく彼を愛しているのなら、謀略よりも先にやるべき事があるだろう。正直失望したよ」
ロベルピエルは何も言い返せない。だって正論だったから。だから彼が去ったたった1人の楽屋で静かに呟く。
「ひとまず負けか」
舌打ち。彼もまた負けず嫌い、幼い男なのだから。




