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ブルトンクラブ





 ブルトンクラブ党の命名由来は公式にはこうされている。ブルトンで結成された秘密結社であり元々は酒場を名乗っていたから。だがこれは真実ではない。

 ブルトン州ブルトンシティのナイトクラブ、地元の人間は結構知ってる普通のクラブ、ロベルピエルにとってはそのクラブこそが実家であり、少し変な言い方すれば実家のような安心感というものを覚える為に自らの党にブルトンクラブと名付けたのだ。これがブルトンクラブ党の由来の真実である。


 「今日も頼むよ、カイネ」


 舞台に上がる前、楽屋にて連れ出したカイネにメイクをさせる。普通のメイクではなく特殊メイクだ。ゾンビのような、スケルトンのような、ともかく、痩せこけた死人をイメージしてメイクをする。


 「えぇ、お安い御用です」


 娼婦を店の外に連れ出す、一見普通の事のように思えるが歴代のファラオも利用するような由緒正しき娼館においては普通の事ではない。では何故彼がそれを出来たのか。それは誰にもわからない。彼が普通でない程にカイネにお金を使っているからなのか、あるいはカイネがロベルピエルを好いているのか。それはロベルピエルにも誰にもわからぬ事なのだから。


 「相変わらず君は手先が器用な人だ。こういう言い方は本当に良くないけれど、失ったのが手でなくて良かった」


 「それは私も同感ですよ。手でなければ、こうして貴方の手を握れませんから」


 ロベルピエルにはわからない。太陽のような、いや月のような笑顔の正体が純粋な感情なのか、札束を見つめているのか。ただ、今は後者について考える必要は無い。考えても不幸になる必要のない事など、考えるだけ損である。


 「なぁ今度はどこに行きたい?カイネ。時間さえ許せば、私は貴方をどこにでも連れて行くよ」


 「では今度は海に行きたいです。一度でいいから砂浜を歩いて見たいんです」


 「連れて行こう、必ず。全ての終わった後に」


 メイクの終わり、ロベルピエルの顔はまさしく死人となった。骨に見える部分、スケルトンとゾンビの中間の顔である。


 「そういえばやれる奴なんだよな、間奏の奴は」


 立ち上がる彼、演出の人に話しかける。


 「相当なやり手だと聞いてますよ。ロベルピ……ウヌスさんの足を引っ張るなんてしないでしょ」


 このクラブでは素人の知名度を上げる為、間奏の時間に素人が出演出来るようになっている。この素人に光るものがあれば売れるし、逆に下手くそならば2度と舞台に上がれない。そういう場所なのだ。


 「そっちじゃない。私の足など素人には引っ張れない。私の方の演出を控えめにしても良いから向こうを派手にしてやれ」


 「相変わらずですね。わかりました、そうします」


 心臓の音、暗い廊下、聞こえてくる声援。舞台裏を歩く最中、ロベルピエルは誰にも聞こえぬ声で呟いた。


 「演じきれ、完璧に。お前ならやれる筈だ。お前はそういう男だろ」


 歩き方が変わる。軽いステップをするような歩き方、子供のような。口を緩ませて口角を上げて無垢な表情、幼児のような。


 「シュッ、シュッシュッ」


 登場前前、リズミカルな音。視点は観客席に映る。

 観客席では彼の登場を今か今かと待ち構える。

 さまざまな色に照らされる舞台、その中心、白い煙が起こった。

 ぼん!

 煙の中心の発射台が作動し、真っ赤のジャケットと髪の毛、深い黒のサングラスをした男が発射される。


 「Hay!!!」


 特徴的な高音、観客はそれに呼応して叫ぶ。男は雄叫びを、女は黄色い声を。

 ドンドン、バックダンサーのゾンビ共。ウヌスの後ろで歩いている。

 ポップな音楽が鳴り始める。音に呼応してウヌスも踊る。ゾンビが歩くような踊りを。正確なダンス、上から操られているように見えるのに、その実胴体は空中に固定されているかのよう。


 「アッ!」


 曲の盛り上がる直前、高い声を上げる。ウヌスにとっての掛け声、観客にとっての掛け声。届けさせる為の声である。


 「Eternal! I am a child at heart!」


 長い足のキック。普通重心が足の方に釣られて胴が動く。だがウヌスのキックは動かない。体幹である。


 「The light of that very moment!! ūnus! ūnus!」


 くるっと3回転、まるでスケートをするようにバレーのように。


 「Eternal! I am a child at heart!」


 「The raging flames at that moment!! ūnus! ūnus!」


 曲の間奏、ウヌスとバックダンサーは後ろに下がって静止して背景となる。素人の為の時間、観客視点では休憩時間である。だが、そうならなかった。


 「ふっ……」


 誰にも聞こえぬ大きさで小さく呟くウヌス、素人にしては完璧なムーンウォークで入場してくる3人組。特にその中央に立つ長身で隻腕の男にウヌスは目を奪われた。


 「アゥ!!」


 男から叫び声、完璧に模倣された高音。ウヌスは目を見開いた。

 4回転、ウヌスと同じく体幹のぶれない完璧な4回転。観客もウヌスも、この会場全ての人間がその男を見ている。

 ワンなのだ。誰の目から見ても完璧なワンなのである。その男の動きは。だが次の動き、それは誰もが予想だにしなかったものだった。


 「は……」


 片手での連続スワイプ。床から噴出される演出用の白い煙がその男の長い足によって渦巻く。嵐だ、まるで。


 「まさか……」


 ウヌスはこの瞬間、ロベルピエルに戻った。だって当然だろう、片手でスワイプ、ブレイキングダンスをするには筋力強化の魔法が必要だ。それでいてあの身長、手足の長さ、一瞬明かりに照らされて見えた端正な顔、連れているのが女2人。ここまで来れば嫌でも確信してしまうだろう。あの男は陛下である。


 「ふふっ」


 自分を真似られた怒りなど無い。ただ、自分の尊敬する男がパフォーマンスという部分においては自分と同じ劣化コピーである事が少しだけ嬉しかった。


 

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