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怪しいとは心外だ





 「若い意見を知りたくてね、君に来て貰った」


 馬車のキャビンにてアヴダヴは軍人として金髪の美男子にして陸軍一の色男、あるいは問題児、つまりイズィバーラと語らっている。


 「嬉しいものですが、私で良かったのです?」


 イズィバーラと陸戦研究室による近未来野戦研究。アヴダヴもこれは気になっていたし、イズィバーラ本人に宜しければ私にもと請願しようとしていた。何故なら彼自身がそれに興味があったってのもあるし、ファラオから言われた仕事だっていうのもあるのだから。それでイズィバーラはこれを感じとったのだろう、片方か両方を。


 「むしろ君でなくては困る。君はバランスに優れた人間で派閥という物を上手く使っている。それでいて陸軍士官学校の主席卒業者となれば君よりも公正な判断を下すに相応しい者は居ないよ」


 アヴダヴは訝しんだ。だが彼は他人に興味を持たない人間故、言い返す事はしなかった。無駄なのである、こういう信念ある人に言い返すのは。


 「ありがたきお言葉に御座います、閣下」


 ただ、アヴダヴも陛下なら言い返していただろうとは考えていた。だって負けず嫌いなんだ、あの人、案外。

 馬車は進み、やがて少し高い丘に辿り着く。アヴダヴはそこで降ろされ、丘の下に広がる平野を見下ろした。


 「なんです?これ」


 平野には何重にも穴が掘られ、兵士がその穴の中で待機している。また敵の陣地と思わしき場所も同じような構造をしている。穴と穴が向かい合っているのだ。


 「魔法の無い戦争の想定だよ」


 イズィバーラはこれにモグラの戦争と名付けていた。頭を出したモグラのように兵士が撃ち合うからだ。


 「このままでは膠着するだけの戦いだ。そこで私は一つ秘密兵器を考案した」


 しばらく歩いて平野へ。穴の陣地の手前、これまたアヴダヴにとって不可解な物があった。


 「鉄の車だ」


 金属の箱にタイヤをつけて、タイヤに帯が這うような形状。アヴダヴは純粋になんだこの珍妙な物はと訝しんだ。


 「ライフル、アトランティスではそう呼んでいるらしいが、とにかくライフルだとかの一撃に耐えうる装甲を備えた車だ。これで穴の陣地を突破する」


 「あんなもの、魔法使いの火球で壊されませんか?」


 アヴダヴの指摘は正論である。実際、八尺瓊勾弾の登場によって魔法使いの近接戦闘が廃れたとしても遠距離は依然として魔法使いの戦場である。


 「少なくともこの戦場ではそうだろう。しかし、戦場の長さが3kmの戦場はどうする?5kmの戦場は?10kmの戦場は?国中の魔法使いを総動員したとしても対応は出来ない」


 「アヴダヴ君。そういうものなのだ、私や陛下の見ている世界は。もはや魔法は人間の能力ではなく機械を動かすエンジンにしかならなくなる」


 イズィバーラは袖を捲って腕時計を確認する。キラリ、太陽の輝きの反射する材質。あまり持ち物に金をかけない彼が唯一金をかけている道具である。決して壊れず、決して乱れない腕時計、旧時代の産物だ。


 「さて、そろそろ時間か」


 イズィバーラは黒の外套の中からある物を取り出した。


 「陛下はガスマスクとかおっしゃられていたな。さぁ、アヴダヴ君。この仮面を付けろ、さもなくば死ぬぞ」


 小ホルスはアトランティス事変において以下の物を持ち帰った。

 一つ、アトランティスとの外交。

 二つ、ライフル、野戦砲の設計図。

 三つ、ハーバーボッシュ法。

 瘴気、人が死に至る邪悪な空気とは三つ目を利用して造られた物である。


 「こんな物、いつの間に……」


 ガスマスクのベルトを固く閉める二人、あっという間に周りは白い霧に包まれた。深夜、大雨が降った日の翌日の朝のような景色である。


 「すまんな、アヴダヴ君」


 イズィバーラは突如アヴダヴを組み伏せた。地面に押し付けられるアヴダヴ、両手はイズィバーラの足と左手によって拘束され、イズィバーラの右手はアヴダヴのガスマスクのベルトにあった。


 「瘴気の中にまでは密偵も来ないだろう。話してもらおうか、全て」

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