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怪しいのは誰?





 演説の終わり、地下図書館にてロベルピエルと話す。二人は奥の方で本の翻訳をさせている。


 「先程の演説、心打たれましたよ」


 「あまり思ってないだろ。あんな陳腐な内容」


 「ですが貴方はファラオです。ここの学生は皆利口ですから、奴隷の如く不自由な御方が他者に自由である事を説く、その徳を理解している」


 徳、こいつの好きな言葉だ。事あるごとにロベルピエルは徳と発する。徳は正義である、正義は正義である、この男はそういうインテリジェンスで動いている。


 「そうだったなら良いと思うよ。でも私はそんな高尚な人間じゃない。ただ、最近になって親に言われるがままにプレッシャーをかけられて俺を越えせゆけなんて言われるのが嫌だったんだって思い始めた。だからあんな事を言ったんだ」


 スビアもアイシスも彼女達は僕の功績だけでなく僕個人を愛してくれてる。僕にはそれがとても心地よかったし、僕も彼女達の全てを愛したいと思えた。だからその分、あの父親が小さく見えたんだ。所詮、自分の才能の至らなさを自分の子供で無理やり埋めようとした男。芸は凄まじかったが、ちっぽけな一人の人間だ。僕にはもう、そうとしか見えない。


 「やはり徳のある王ですよ、貴方は」


 「辞めてくれって言ってるだろ。私は出来た人間ではない、何度言えば分かるんだ」


 「陛下が何度ご謙遜なさっても陛下が徳のあるファラオを演じられる限り徳のある王というのは変わりますまい」


 ならば僕は彼に取って永遠に徳のあるファラオのまんまだろうな。だって僕が素晴らしいファラオを演じる事をやめたらどうなる?軍部は間違いなく好き勝手にやるだろう。それはメンフィスにとって好ましくないし、何よりだ。二人はどうなる?二人は僕がこんな人生を歩んで、自分たちもこうなると知っていて、それでも僕を愛してくれていたから着いてきてくれたんだ。そんな二人を危険に晒すなんて、たとえ僕が死んでもあってはならないだろ。


 「そう、だな。何も言い返せないよ。ただ一つだけ聞かせてくれ、徳のあるファラオとは貴方の最終目的、つまりブルトンクラブ党の宿願にとって邪魔なものではないのか」


 「そうですね。貴方のカリスマは確かにファラオを廃するという我らの目的にとって邪魔なものです、と言いたいところですが昨今の政情を鑑みるとそは言えません」


 「というと?」


 彼は一つため息を吐いた。苦労してるんだろうな、僕のせいで。だってイズィバーラにぶつけたの僕だし。


 「貴方の存在そのものが牽制になっている。私にとっての、あるいは軍部にとっての。つまりです、毒をもって毒を制しているような状態なのですよ」


 「不正義ではないのか?それは」


 「大きな悪の前にして一定の不正義は許容されねばなりません。残念ながら」


 貴方の尺度ではないか、それは。でも何より大きな問題を解決する為に小さな問題を起こしてるとは僕もそうだし、それを正義と喧伝して偉大なるファラオとプロパガンダやってるのは僕も同じだよ。僕が善悪を語れる立場ではないんだ。


 「大きな悪とは?」


 「イズィバーラです。あの男は巨悪ですよ。本気で世界征服をやろうとしている」


 言う所まで言ったな、ロベルピエル。私は貴方だって警戒してるんだ、イズィバーラと同じくらいに。だから貴方がどんなにイズィバーラを危険だって言っても、それを信じ切る事はしない。


 「根拠は?何を見て、何を知ってそう思った?情報元は何処なんだ」


 「普段の態度、鉄道の件、スエズ派の自称、情報元に関しては娼館ですよ」


 娼館。僕とて知ってる。情報が市中に漏れにくいから神官達が情報交換のために、あるいは純粋な快楽のために使っている。だからファラオなんだったら本来繋がりを持っておくべき場所だ。それこそ公妾をとってでも。しかしそれは誠実じゃないだろ、二人に対して。


 「わかっている。僕だって娼館に人を送りつけては居るんだぞ。その上で言うけれど、僕にとっては貴方も怖いんだ。貴方は有能過ぎる、少なくとも僕の目からはそう見える。だから利用はするけど警戒するし信用しない。それをわかってくれ、いや、わかってはくれているか」


 「理解しております、良く。ただ私とて見た目だけの木偶の坊ですよ、貴方と同じくね」


 「返すような言葉になってすまないが、貴方がファラオを廃するブルトンクラブ党のカリスマ的リーダーを演じる限り、私は貴方を信用できないよ、ロベルピエル」


 この話はこれで終わりにしよう。だってこれ以上続けても意味がない。並行性なんだ、僕がファラオで、彼がブルトンクラブ党の党首である限り。ただイズィバーラの件は強く受け止めておこう。個人的にあいつは本当の本当に信用を置けない男だと思うんだ。

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