天羅地網
七瀬七海が示した紋様を辿り、葵と徳彦は崑崙山の最深部、龍理の奔流が最も不安定な「心臓部」へと辿り着いた。そこは、濃密な龍理の霧に覆われた、時間の流れさえも曖昧に感じる場所だった。二人の前には、銀色の光を放つ**『大羅仙主』が立っていた。ジン曰く、かつて龍族でありながら、自らの龍理を破壊し、今は仙界の法則そのものを体現する『コトワリの宝貝 天羅地網』**と一体化した管理者だ。
「排除対象。仙界の理に存在しない、二重具現化。誤差、無効化」
大羅仙主は感情のない声を発する。その体から放たれた波動は、周囲の龍理を瞬時に収束させ、極限まで圧縮された宝貝の攻撃となって二人を襲った。それは物理的な衝撃ではなく、「理」そのものを書き換えるような不可避の攻撃だった。
「ノリ、来るぞ!」葵は応龍の龍理を最大展開させ、天魔夜光剣を構えるが、攻撃は回避不能だと直感した。
徳彦は即座に氷龍の龍理で防御プロトコルを展開するが、間に合わない。大羅仙主の攻撃は、二人の具現化体が生み出す防御障壁を、まるで最初から存在しなかったかのように通過し、彼らの肉体へと迫った。
「馬鹿な……法則そのものを無視しているのか!?」徳彦は冷や汗を流す。彼の合理性をもってしても、敵の行動原理が理解できない。
葵は非合理的な衝動に従い、防御を捨てて突撃を敢行。龍理の奔流を増幅させ、天魔夜光剣で空間ごと切り裂こうとする。しかし、大羅仙主はその攻撃を時間と空間の位相をわずかにずらすことで無効化した。葵の一撃は、敵の姿を捉えることなく、空を切る。
「法則の外にある我々を、法則で捻じ曲げようとしている。アオ、冷静になれ。このままでは、力の出し惜しみで自滅する」徳彦は叫ぶ。
これが、最後の壁。仙界の法則の番人との、絶望的な初戦だった。




