我がカルマ
宿舎の裏手には、社から流れ出た清水が小さな滝となり、海へと注ぎ込む場所があった。この水流こそが、竜宮に満ちる龍理の奔流が最も顕著に現れる場所であり、修練の場と定められていた。
「この滝壺で、体内の仙骨に宿る龍理と、この世界の龍理を同調させる。それが最初の課題だ」
徳彦の具現化体、純粋な氷龍の法則が人型を取った少年は、冷徹に告げた。その銀色の瞳には、わずかな感情の揺らぎもない。
「同調って、具体的にどうすりゃいいんだよ? ノリの具現化体」
葵が問いかけると、彼の具現化体である応龍が、楽しげな笑みを浮かべた。
「簡単だ、アオイ。ワタシが君の龍理の具現化であるように、この滝壺に流れる水も、この世界の龍理が具現化したものだ。君の体内の龍理と、外側の龍理が、何の隔たりもなく繋がればいい。君の直感に任せるがいい」
「直感かよ。ノリみたいに理詰めでやっちゃダメなのか?」
「無駄だ」徳彦の具現化体が遮った。「理詰めで外部の龍理を制御しようとすれば、それは『操作』にしかならない。仙骨持ちが目指すのは、法則との『一体化』だ。理が人として存在するこの仙界では、外の理を内側に取り込むしかない」
徳彦は、その言葉に黙って頷いた。彼の具現化体は、彼の最も合理的で、最も厳しい師となるだろう。
「この仙界の龍理の奔流は、人界のものとは比べ物にならん。抵抗すれば、君たちの仙骨を破壊するほどの圧力を受けることになる」
ジンが、脇から二人に警告を与えた。彼は、龍族としてこの世界の龍理の厳しさを知っている。しかし、龍形を持たない彼らに、この奔流に直接飛び込む術はない。
徳彦は、毛皮の胴着を脱ぎ捨てた。白い肌に冷気が纏わりつき、滝壺の水面には薄い氷の膜が張り始める。
「理詰めでなければ、どうすればいい?」徳彦は、具現化体に向かって問いかけた。
「すべてを捨てろ。あなたを構成する、すべての非合理的な要素を」具現化体は、徳彦の目をまっすぐに見つめた。「特に、あなたと血の繋がりのない『家族』への執着を。あなたの龍理は、冷却と安定を司る。不安定な感情は、法則の純度を濁らせる」
徳彦は、その言葉に一瞬だけ表情を歪ませたが、すぐに冷徹な顔に戻った。彼は、氷晶の槍を滝壺の縁に突き立てると、無言で冷たい水へと足を踏み入れた。
水面に触れた瞬間、徳彦の体から放たれる冷気と、滝壺の龍理が激しく反発し合った。水は一瞬で凍りつき、徳彦の周囲に氷の殻を作り上げたが、それはすぐに、世界の龍理の圧力によって打ち砕かれ、凄まじい轟音を立てて水蒸気と化した。
「くっ……!」徳彦の全身から、白い湯気が立ち昇る。彼の体は、凍結と蒸発を繰り返す、矛盾した法則の渦に巻き込まれていた。




