その理は誰のため
竜宮の来訪者たち(三):旅立ちの理由と仙界での使命
徳彦の頭の中には、この世界の法則が流れ込んできていた。龍理の法則を極限まで高めるための「修練の場」。そして、1500年周期の「あれ」を鎮圧するという、彼らの新たな使命。徳彦にとって、これは最も合理的な結論だった。
「王は、俺たちを逃がすために、あえて崑崙山ではない、ここを選んだのか」徳彦が静かに呟いた。
「おそらくね」ジンが同意した。「崑崙山に行けば、君たちの特異な力を危険視され、能力を制限されただろう。王は、君たちに自由な成長を望んだんだ」
「自由か」徳彦は、鼻で笑った。それは、彼が最も重視しなかった、しかし葵が最も体現していた概念だった。
「ノリ、難しいことはいいからさ。とりあえず、俺の宝貝と龍理の具現化と仲直りしなきゃ。お前みたいに、俺の理性を乱すって言ってるんだぜ」
葵は、テンマヤコウと応龍に向かって言った。二人は、やはり葵とそっくりな顔で、しかし全く異なる理屈を述べていた。
「ボクは宝貝として、君の意識に干渉し、天魔の理を効率的に運用するように誘導する。それがボクの存在理由だ」テンマヤコウが冷静に言った。
「ワタシは応龍の龍理そのものだ。キミの直感と感情に最も近い存在。キミが龍理を操る上で、ワタシは不可欠な力だ」応龍が言い返した。
「ほら見ろ! オレを挟んで喧嘩してんじゃねーよ!」
その時、徳彦の背後で、氷の鬣を持つ龍が静かに立ち上がり、徳彦とそっくりな姿の少年へと変化した。彼は一言も発さず、ただ銀色の瞳で徳彦を見つめた。それが、徳彦の氷龍の龍理の具現化だった。
「お前は……」徳彦が、初めてそのそっくりさんへと声をかけた。
「私は、あなただ。ただし、感情や血縁といった非合理的な要素を、完全に排除した、純粋な龍理の法則としての、速水徳彦だ」
龍理の具現化は、徳彦の心を突き刺した。王の言葉、「血は繋がっていない」という事実が、彼の龍理の具現化によって、更に強調された。
「さて、四人の仙骨持ちよ」ジンが、皆の緊張を解くように手を叩いた。「君たちには、しばらくこの竜宮で基礎的な修練を積んでもらう。君たちの力は強力だが、まだこの世界の龍理の法則には馴染んでいない」
インが、社の裏手を指し示した。
「竜宮の暮らしは、人界とは比べ物にならないほど厳しい。まずは、君たちが仙骨持ちとして、この世界で生きていくための最低限の知識と力を得ることから始まる。君たちの宿舎は、あちらだ」
葵は、最後の瞬間まで博多のラーメンを忘れられないでいたが、新しい使命を前に、その顔に決意の笑みを浮かべた。
「わかったぜ、ジン。この竜宮で、俺は最強の仙骨持ちになってやる。そして、一五〇〇年周期の『あれ』なんて、ラーメンを食べる前にぶっ飛ばしてやる!」
徳彦は、氷龍の龍理の具現化と、そっと目配せをした。彼の表情は、相変わらず冷徹だったが、その心は、この新たな試練を、自らの出生の謎を解き明かすための「最善のプロトコル」として受け入れていた。
彼らの仙界での、長く厳しい修練の日々が、今、始まった。




