夢のつづき
竜宮の来訪者たち(一):情報収集と再会
徳彦は社の外に出て、周囲の異様な景色を眺めていた。どこまでも広がり、社の上からなら手を伸ばせば届きそうな近さで波打つ海面。地球の重力や空気の理から外れた、不思議な空間だった。夜明け前の博多湾で見た銀色の柱が、まさかこのような場所へ通じていたとは。
「おい、ノリ。王の言った崑崙山じゃなくて、反抗拠点ってのは、どういうことだ?」
毛皮の胴着をまとい、本堂から出てきた葵が、湯呑みを傾ける徳彦に尋ねた。湯呑みの中には、わずかに薬草のような香りのする温かい液体が入っていた。
「そのままの意味だろう。王は、俺たちを安全に仙骨を鍛える場所へ送ると言ったが、崑崙山とは別の勢力圏に送り込んだ、ということだ」
徳彦は冷静に分析した。彼の氷龍の龍理は、極度の冷気を纏わせ、思考を極めてクリアにする。しかし、今の彼の心には、王から告げられた「血は繋がっていない」という事実が、重く圧し掛かっていた。
「七瀬七海の姿が見えないな」葵が周囲を見渡す。「俺たちより先に柱に入ったはずだ」
「七海の霧龍の龍理は、情報と誘導に特化している。彼女は、王の超高速伝達の経路を、即座に合理的な最速ルートへと誘導し、この竜宮を通り越して、より効率的な場所へ向かった可能性が高い」
徳彦は、目の前の海の中央に輝く光球――精陽をじっと見つめながら言った。彼は、七海の行動原理を最も理解している一人だった。彼女にとっては、常に「合理的な最善の結果」が最優先される。
「合理的な最善の結果かよ。まあ、アイツらしいけどな」
葵はため息をついた。すると、横合いから声が割り込んできた。
「合理的な最善の結果を求めるなら、ボクたち宝貝の理を学ぶのが一番だよ」
葵が振り返ると、そこに立っていたのは、自分と瓜二つの姿を持つ少年、テンマヤコウだった。彼は今しがた、徳彦の持ってきた毛皮の胴着を纏い、涼しい顔をしている。
自分のそっくりさんが、丸出しで歩いているのは羞恥心が刺激される とは徳彦の弁。
もう、温泉やシャワーで散々見たろうが葵の意見だ。
「うるさい、天魔夜光。お前はオレの宝貝だろ? 勝手に人間みたいに振る舞うなよ」
「ワタシは応龍。天魔夜光の理は理解できんが、ワタシはキミの龍理が具現化したものだ。主人とは離れられん」
応龍、すなわち鷲の翼を持つ龍の姿から変身した少年が、テンマヤコウの隣に立っていた。彼もまた、葵とそっくりな姿をしていた。彼らの周囲には、徳彦と瓜二つの二人の少年が、まだ意識を失い、龍の姿に戻りながら横たわっている。徳彦の宝貝、そして彼の龍理の具現化だろう。
「宝貝も龍理も、気が満ちるとひと型を取る……か」
徳彦は、自分のそっくりさんたちを一瞥した。彼らは、王の言う「仙骨」の完成を示す、生きた証拠だった。彼は静かに湯呑みを地面に置くと、ジンとインが待つ本堂へと向き直った。
「ノリ、どこ行くんだよ」
「情報を整理する。この竜宮が何なのか、そして俺たちの体が何故こんなことになっているのか、だ」
徳彦は、極めて冷静だった。彼の心は、龍理の具現化という奇妙な現象と、王の言葉の真意という二つの難問に集中していた。この異界に来て、彼は初めて、自らの出生の謎に正面から向き合う機会を得たのかもしれなかった。




