奇跡を起こすだけが神事じゃない
冬が終わり雪が融けて姿を消した春の日
かつて首都ミルトンと呼ばれていた地にスフォルツァ家中の主だった者達、領地の各地を預かる代官が集まっていた
そして隣国の代表として訪問しているローレンス王子の姿も見える
護衛として数人の騎士を率いた騎士団長が所在なげに立っている。
正面、かつて王宮があった場所は周囲から一段高くなったステージの上に、更に段々と高くなっていくモニュメントのような建物に置き換わっている。
半透明の濃緑色の壁面は陽光を反射して七色にきらめき、その中腹ほどには色とりどりの花が供えられた祭壇が設けられている。
今日のこの日に間に合わせるため王宮の建物を取り壊し、この神殿の形に作り替えたのは他でもないジャンフランコである。
単純に取り壊しただけで済む城壁と異なり、さすがにここは一度更地にして、という手段は使えない。
「まぁ、人使い荒いよね」
既存の建物を素材にまったく新しい建物を造る、という作業をこれほど短期間に完遂できるのがジャンフランコしかいないからではあるのだが、神事の有効性を担保するため期日から遅れられない事情があった。
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ジョヴァンナとロドリーゴ、そしてジャンフランコの三人が祭壇の手前まで登る
ジョヴァンナが懐から幾重にも折り畳まれた紙を取り出して拡げ、天に向かって押しいただく。
特別なインクで何事か書きつけられた紙に魔力を流すと、魔力に応えて祝詞の文字が光り浮かび上がる。
「我らが祖神の御座すこの地にて、日を選び時を選びて我が祈りを捧ぐ」
そのまま天津甕星に呼び掛け祝詞を唱え始めると春の日差しがすっと陰り始める。
「何事だ?」ローレンス王子をはじめリモーネからの来客の顔に驚きと焦りがにじむ。騎士団の面々はローレンス王子を囲み、周囲を警戒する態勢をとる。
スフォルツァ家中の者達は驚きはありつつも身じろぎ一つせず視線はジョヴァンナに向けたまま。
その先には淀みなく祝詞を唱え続けるジョヴァンナの姿がある。
「我が祈りおもはしければ神威を以て応えられんことを」
ジョヴァンナが祝詞の結びの言葉を唱えると、陽の光は完全に隠れ、あたりが漆黒の闇に包まれる。
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遡ること数日。ジョヴァンナとジャンフランコは二人天津甕星が封じられた室を訪れていた。
「つまりはこの日時には太陽が隠れてしまうことが分かっているということですね」
「然り。其方らに与えた【魔法陣】の中にも天文を読む魔術のためのものはあろう?この地においては正確に四日後の正午に始まり呼吸百から二百くらいの間だけ太陽が月に隠される」
「確か【星詠み】でしたね。後で確認してみます。それにしても太陽が隠れる日があるのですか。事前に分かっていれば大きな魔術を行わずとも集まる者達に強い印象を与えることができますね」
「知らぬ者は天地が革まったと驚くであろうな。これは何十年かに一度しか起こらぬ事象でな。よほど長く生きている者でなければ、そうそう滅多に太陽が隠れるのを見たことなぞないであろう。治世の移り変わりを印象付けるには間違いなくうってつけよな」
「助かりました。神事を行って新たな治世の始まりを印象付けようとしてもなかなかよい案が浮かばず。やはり祖神様にご相談して正解でしたね」
「うむ。儂に感謝を捧げたいであれば、たまには祀りを行い儂に魔力を奉納するがよいぞ」
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皆既日食は時間にして二分くらいの間続いたであろうか。
ミルトンの祖神である天津甕星がスフォルツァ家の執り行う神事に応えたと印象付けるための謀。
神と共謀して皆既日食にタイミングを合わせて祝詞を唱えただけではあるが、裏事情を知らぬ者には十分すぎるくらい効果的な神事となった。
太陽が月の陰から少しずつ姿を見せ辺りが再び明るくなると、太陽光に照らされた者達の顔は畏怖の念を抱いた者のそれへと変わっていた。
身じろぎもせず祭壇を見つめ続けたスフォルツァ家中の者はもとより、盾を構えて警戒態勢を取り続けるリモーネからの来客もそれは同じ。
祭壇の前に立つジョヴァンナ・ロドリーゴ・ジャンフランコの三人が揃って振り返る。
ジョヴァンナが右手を掲げると、祭壇の下に並ぶ者達が一斉に跪く。
ここからは神々ではなく人に向けての宣誓である。
「これより先、この国の統治はスフォルツァの者が引き継ぐ。国の名はスフォルツァ王国とし、わたくしが初代の統治者となります。」
かつてミルトン王国、そしてミルトン共和国の首都であったこの地の扱いについても宣言する。
「この地もまた、名を『シルヴァストン』と改め、我らが祖神を祀る聖地とします」
壇上からジャンフランコが見下ろすと、跪きジョヴァンナを見つめる家中の者達の後ろにリモーネから呼び寄せた商会長たちの姿も見える。
彼らの多くはかつての政変で荒れるミルトンを逃れリモーネの地で商会を立て直した者達である。
その彼らもスフォルツァ家中の者達と同様、ジョヴァンナに対し跪き恭順の意を示す。数か月前に勧誘したときには家業の軸足はリモーネに移したとしていた彼らが神事を境にスフォルツァの地での事業に積極的になってくれることに期待したくなる。
少し視線をずらすと、居心地悪げに俯くリモーネからの客人達たちの姿も見える。
彼らがこの神事についてどのように報告するかは気になるところであるが、せっかく遠路はるばる献上品の【幽霊馬車】を駆ってここまで来てくれたのである。帰国したらありのままを報告してもらいたいものである。
【身体強化】で視力を強化すると、祭壇から遠く離れた農地のあちこちで領民が跪いているのが見える。
政変の後、この地で急進主義者による圧政を耐え抜いた領民たちに、この神事はどのように受け止められたであろうか。
これより、スフォルツァ家はミルトンの大貴族から一国を統べる王家となる。
その治世の始まりは印象深く神秘的なものとなった。
裏部隊を知るものからすると限りなくペテンに近いものであったが。
根回しやら準備やらが大変でしたが、
ようやくスフォルツァ王国発足です。
今回の新要素:
・ 【星詠み】→天文を占い、星の動きを知る魔術....かな?
・ 「首都ミルトン」改め「聖地シルヴァストン」
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