【閑話】婚約者が秘していたこと Side レイチェル
「ジャンフランコ様、本当におよろしいのですか?」
心配顔で諫言するのはジャンフランコ様が常に伴っている護衛です。
確か、名前はフレデリカと紹介されたはず。
以前調べた限りでは母親はフローレンス・ロイックス。
かつての教会の護り、教会騎士団でも相当高位の騎士だったはずです。身元がハッキリしている護衛ということで安心した覚えがあります。
それにしても、ジャンフランコ様が秘されていたご自身の天恵について婚約者であるわたくしにお伝えいただく場ですのに、当たり前のような顔で同席するのを見ると心がザワツキますね。
ジャンフランコ様が護衛を身辺から離すことが出来ないお立場であると分かってはいるのですが…
「レイチェルにはいずれ間違いなくスフォルツァに嫁いでいただくことになるんだ。今後はむしろ僕の天恵を知っておいてもらわないと困る場面が増えると思う」
あら、ジャンフランコ様からこのように言っていただくと何だか面映ゆいです。
「そのようにお考えならばよいのですが」
「レイチェルにもお願いしたい。僕の天恵については当面の間は可能な限り内密にしてほしい。場合によってはこの王宮に入ることすら禁じられかねないからね」
これほど慎重に進めなければ婚約者にも明かせないとはジャンフランコ様の天恵とはどのようなものなのでしょうか。少なくともありきたりな【剣】や【杖】であるはずがありません。
もしかしたら、スフォルツァ辺境伯ジョヴァンナ様のように、お一人で一軍に相当するような強大な力を思う様振るわれる天恵なのでしょうか。
いずれにせよ、いよいよ婚約者として扱っていただけると言うのなら、わたくしにも否やはありません。
「正直に本音を言ってくださいましたわね。かしこまりました。ジャンフランコ様の天恵についてはリモーネの王族としてではなく貴方の婚約者でありいずれ伴侶となる者としてお話を伺うことにいたします」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「僕の天恵【神測】の基本は、あらゆる物を読み取り把握し、分析する天恵なんだ」
「あら、そうお伺いした限りでは王宮の出入りを禁じられる程に危険な天恵ではないように思いますが」
「うん。基本はね。市場の動きを読んだり国のお金の動きを追ったりといったことに長けた天恵だから、商人や役人に向いていると言えるね」
少々拍子抜けです。
王宮に出入りすることを忌避するほどの特別な天恵のようには聞こえません。ですが、ジャンフランコ様を大商人、あるいは一国を切り盛りする為政者足らしめる天恵には違いありません。
少なくとも家臣の報告を聞くよりも剣を振るう方がお好きなローレンスお兄様では太刀打ち出来そうにはありませんね。
「ただ、それはあくまで『基本』なんだ」
あくまで『基本』、とはどういうことでしょう?
「【神測】がヤバいのは、読み取り把握し分析したものを完全に記録して、寸分違わず『再現』できるところだね」
やはりそれ程危険な天恵とは思えません。読んだ文書の写しを作ることができる?何だかピンときません。
それよりも、横でフレデリカが頷いているのを見るのは、彼女が訳知り顔で「自分は理解している」と主張しているようで嫌です。
「違いが分かりませんけれど」
「そうかい?分かりやすく見せるとこういうことだよ」
ジャンフランコ様の手の平の上で光が灯る。まるで手の中に【照明】の魔道具があるかのように。あるいは【照明】の魔法を使ったかのように。
「以前、魔法の基本には【魔法陣】があるという話をしたことがあると思うけれど、僕はあらゆる魔力の流れを【魔法陣】の形で読み取って再現できるんだ。魔法もその一つだね」
何ですって?!「あらゆる物」に魔法が含まれるなんて想像を超えています!目で見た文字や耳で聞いた言葉ならまだ理解できますが、魔法を読み取れるなんて!
魔法を読み取って、それを再現できるなんて、それではまるで...
「お待ちください。それは杖の天恵持ちと同じことができるということではないですか?」
「うん。おそらく使える魔法や魔術の種類だけだったら母様、ああスフォルツァ辺境伯を上回るんじゃないかな。もっと言うと、【魔導書】を読まなくても発動している魔法を見るだけで使えるようになるから、未知の魔法にもその場で反撃できる。どう?危険視されそうだと考える理由が理解できたんじゃないかな?」
ああ!今のお話で納得がいきました。
知らぬこととはいえ、どうやら「一騎当万」=お一人で一万の軍勢に相当すると評されたスフォルツァ辺境伯に相当するお力を持つ方を無警戒に王宮にお招きしていたことに気づき、今更ながら冷や汗が出ます。
「ええ。目の前で静かにお話されてる方の逆鱗に触れれば、今座っているこの部屋を含めて王宮が丸ごと更地になってしまうわけですね」
「まぁ、そんなことをする予定は今のところないけどね。
ついでに言うと剣の天恵持ちの戦技も基本は魔力を使うから、同じように【魔法陣】として読み取って再現できるよ」
体力がないからまったく同じことはできないけれどね、とジャンフランコ様はおっしゃいますが、そんなの規格外に過ぎます。
強力な杖の天恵持ちの唯一の弱点が戦技を駆使する剣の天恵持ちによる接近戦なのに、それが対策できるとなると、もう、殺せない魔法使いの誕生です。
「それでも、例えば【パリィ】や【身体強化】で剣の天恵持ちと渡り合える杖の天恵持ちがいたら、それは十分に常識破りのように思いますけれど」
「僕の天恵についてはそんなところ、かな?あとは応用次第で色々なことができて、正直スフォルツァの発展にも随分と寄与したと思うよ」
今目の前にいらっしゃるのは平時の治世において全知の神のように振る舞われるだけではなく、戦場においても鬼神の如き働きができる方なのですね。
場合によっては、王宮どころかリモーネ王国の国内にお招きすることすら危険視され禁じられることが目に見えています。
加えて「応用次第で」ですか。「応用次第」という言葉がこんなに不穏に聞こえるなんて、わたくし思ってもみませんでした。
「応用次第...ですか?そんなことは、剣の天恵持ちからも杖の天恵持ちからも聞いたことがありません」
「それはそうだろうね。剣の天恵持ちや杖の天恵持ちと同じことができる、というのは神測の応用の例でしかないからね。
本質はあくまで把握と分析だよ。だから、僕はリモーネで今一番稼ぎまくってる商会が何処かも分かるし、近日中に破綻する貴族家を精度高く発見することもできるんだ」
「そんな...この国の誰もそんなことはできないと思いますけれど」
ジャンフランコ様ご自身は、剣の天恵持ちや杖の天恵持ちと同等のことができることをあまり高くは評価してらっしゃらないのでしょうか。
それでも、例えとして挙げられている例が不穏すぎます。
これがジャンフランコ様が数年でこの国を牛耳れるだけの資産を築かれた秘密なのでしょうけれど、そこまでいくと天恵の枠を超えて、まさしく神の権能と言っても過言ではありません。
「そうかな?メディギーニ商会にはこの国のありとあらゆる取引の情報を集めるために日夜走り回っているチームがいて、僕の天恵による分析や投資判断は彼らありきなんだけれど、
彼らは少しずつ僕が天恵でやってることを学んで、時間は掛かるけどほぼ同じ精度で分析や予測ができるようになってるよ」
「取引の情報とおっしゃいますと?」
「そうだね。多くは手形交換所での取引の状況や先物取引の市況、各地の新聞記事や使用人の求人の状況などなど。公開情報からだけでも十分な情報を得られるし、そこから先は、まぁ、蛇の道は蛇、ということで。
異常に設備投資が増えたり求人に力が入っている商会とか、逆に手形の決済が滞る回数の増えた貴族家とかは、定常的な取引の動きから逸脱するので見つけやすいしね」
何ということでしょう!この方はご自身が神がかったお力を振るうだけでないのです!ジャンフランコ様の手足となって動く商会までもがその力を使えるようになっているなんて!
おそらく、メディギーニ商会だけではなく同じことがスフォルツァ家のご家中でも起きているに相違ありません。
ジャンフランコ様がそこにいらっしゃるだけで、無敵の大商会、無敵の大領地が出来上がってしまうのです!
一度はリモーネとの国境近くまで追いやられたスフォルツァ家が十年にも満たない間に力をつけ、一国を支配下に置くまでに強くなったのは、間違いなくジャンフランコ様のお力あってのことなのでしょう。
「そうやってお話を伺ってると、ジャンフランコ様の天恵も規格外と言えば規格外ですけれど、それを使いこなすジャンフランコ様ご自身が一番規格外なのではと思えてきました」
「そうすると、レイチェルはそんな僕を警戒するのでしょうか?」
何だか急に警戒されたようでお言葉から気安さが抜けています。
この問い掛けに対する答えは一つしかありません。
リモーネ中、いえ、世界の何処を探しても目の前の方以上の殿方を探し当てることは不可能でしょう!
わたくしはこの方と娶せられる年回りに産まれ、婚約者という立場に収まることのできた幸運に感謝します!
「ジャンフランコ様ご自身は領地経営に非常に長けた領主あるいは君主となる資質をお持ちなのではと思います。
【神測】という天恵は、そのジャンフランコ様の能力に非常に親和性の高いものなのでしょう。
叶うならば、そんなジャンフランコ様を末永くお側でお支えしたく存じます」
今回の新要素:
・ 特になし
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