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銭と神具は使いよう 〜 元WEB屋は魔法陣を解析して異世界を知る 〜  作者: 冬寂
騒乱の気配 ー スフォルツァ領

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「禁呪」と呼ばれるだけのことはある

ミルトン攻略戦、その最終盤てす。

 王宮の外に出ると、既にピエレッタの指揮による足止めが始まっていた。


 王宮から数街区(ブロック)ほど離れた場所に上空から降り注ぐ人一人くらいはありそうな大きさの【氷塊】。


 それは全て不可視の場所から放たれる【火球】により迎撃され、有効打とはなり得ていないようにも見える。


 だが、それでいいのだ。


【火球】はおそらくは姿を消したままの宮廷魔導師団が放つ迎撃であろう。


 不可視の場所から放たれる【火球】は【氷塊】を迎え撃つだけではなく、【氷塊】を生み出す虚空に向けても放たれている。当然、そこには同じく不可視の存在〜【氷塊】を上空からばら撒く【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】〜がいるわけだが、【火球】は高空を飛行する【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】に届かず捉えられず途中で消滅している。


 実体ある【氷塊】を高空から落とすという選択は足止めとして最適解となった。


 大質量の【氷塊】をぶつけるというのは、魔法そのものの威力に加えて、更に高空から「落とす」ことで重力による威力の底上げと射程距離の延長までが加わる。

 要は敵の射程距離外(アウトレンジ)から当たれば必殺の攻撃を与え続けられるのだ。


 対する宮廷魔導師団にしてみれば、落下し命中しさえすれば甚大な被害を被ることが分かっている限り、狙われた側は防御ないしは迎撃することを強いられるわけで、それが間断なく上空から降り注ぐ以上、足を止めて迎撃せざるを得ない。無視して移動することはほぼ不可能である。


 足止めとしてはこれ以上ないくらい優秀な手段である。


 ジャンフランコが王宮を出てすぐの場所で仁王立ちし、後ろに控えるフレデリカを振り返る。


「今から、あそこに一番弱い『禁呪』をぶつける。合図をしたらピエレッタに【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】を退避させるよう伝えて。それで、『禁呪』が発動したら、全員王宮に逃げ込んで扉を閉めて衝撃に備えて。」

『禁呪』が発動した場合の影響が分からないため、巻き添えを喰らわないための回避策を指示する。


 ジャンフランコ自身、戦略級以上の魔術を発動させた経験がないのだ。

 何処までの影響があるかは母親から座学で教えられた以上のことは分からない。ジョヴァンナと戦場を共にした実経験を持つ騎士達は引き攣らせた顔の色を変えながら指示に頷いている。


「『発動』って分かるものなんですか?」

「ああ。分かるよ」

「ピエレッタから作戦について『了解』が返ってきました」

 伝言の魔道具(メッセンジャー)を睨みつけるフレデリカを通じて即席(アドリブ)で指示した準備の完了を知る。


「では、始めるよ」


神測デジタイズ】【投影(プロジェクション)

【神具】に、先ほど天津甕星(アマツカガボシ)から授けられた中で最も威力と効果範囲を絞れると思しき【魔法陣】を呼び出す。

【魔法陣】を発動させるために魔力を流し始める。

 そこから発動まで若干の待機時間(ディレイ)が生じるはずだ。


「ピエレッタに急ぎ回避するように!」

 フレデリカが伝言の魔道具(メッセンジャー)を掴み「緊急回避!」と叫ぶ。


 魔力が【魔法陣】に満ちると魔術が発動し、【氷塊】による攻撃を止めて四方八方に散る【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】よりも高い高空に、七色に光る魔力の塊が顕現(けんげん)する。


 その真下では、間断なく降ってきた【氷塊】が止まったことに安堵したか戸惑ったか、いずれにせよすぐには次の行動に移れない集団がいた。


 【氷塊】迎撃のために放っていた【火球】が空撃ちとなり、空中で霧散する間の抜けた音が暫く続く。

 そのさ中、離れた場所にいるジャンフランコが発した「退避して!」という叫びは宮廷魔導師団の耳にも届かなかっただろう。


 襟首をフレデリカに掴まれて王宮の中に放り込まれるジャンフランコの目には高空の魔力の塊が姿を変える瞬間が映ったかどうか。

 扉が閉まるのと競うように、ジャンフランコから「【耐衝撃防御】と【耐熱】【対閃光】急いで!」と指示が飛び、騎士たちが盾を掲げ防御のための戦技を発動する。


 急旋回して全速力でその場を逃れる【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】の360度の視界を通じて、ピエレッタは高空から次々と降り注ぐ岩塊を目撃する。あらゆる物理法則を無視した落下速度は真下にある空気を易々と圧縮し、想像もできないほどの高熱を帯びた灼熱の塊と化す。


 その真下にいた者たちは落下してくるのが先ほどの【氷塊】とはまったく異なることに即座には対応できないでいた。何名かは迎撃のための【火球】を放つべく【神具】を構えたが、遥かに高速で落下する塊は魔法の発動までの時間を与えなかった。


 ド...ズズズズズズズズ.....

 始めは地面を揺らす振動として、次に王宮の建物を揺らす暴力的な衝撃波として、最後に空気を振動させる音として着弾の衝撃が伝わる。


小隕石群(プチメテオ)】…確かに天津甕星(アマツカガボシ)から()()()()()()()()()()()()()()()魔術であったが、それでもミルトンの大地には強烈なダメージがもたらされた。


 落下・着地の瞬間、大地が高温のプラズマと化して蒸発する。

 宮廷魔導師団が展開していた場所を中心に半径一区画ほどの領域が完全に抉られ、更には直後に発生した爆風が半径十区画ほどの建物に壊滅的な被害を与えた。


 王宮も例外なく爆風の被害を受けるかと思われたが、落下する岩塊が帯びた膨大な魔力が何らかの影響を与えたのであろう、ティツィアーノが侵入者に備えて設置した魔道具が誤作動し、王宮の壁面を頑丈な氷塊が覆ったことで辛うじて深刻な損傷を免れた。 


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 爆風が収まった後も乱流渦巻くミルトンの上空を、それでも必死で【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】を飛ばすピエレッタは眼下の光景に息を呑んだ。

 宮廷魔導師団が展開していた辺りには半径一区画ほどの大きさのクレーターが穿たれ、可視・不可視を問わず動く者は皆無であった。そして更に半径十区画ほどは爆風でなぎ倒され、氷塊に覆われた王宮を除き一面何もない無人の野原と化している。


 元々、政変前は各地の領主が首都に滞在するための屋敷が立ち並ぶ美麗な街区であったのが、現在は共和国政府関係者が接収して趣味の悪い街区へと変貌していた。

 そのすべてを【小隕石群(プチメテオ)】の生んだ爆風と衝撃波がなぎ倒し消し去ってしまっている。

 

 乱流がある程度収まるのを待って、【氷塊】魔道具を装備した【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】を動かすよう指示して、何カ所かで発生している火災に【氷塊】を落し鎮火を試みる。


 広大な首都ミルトンの一角とはいえ、王宮を中心とした中核部分が完全に無人の野と化したこの事件は、「急進主義者への天罰」事件として後々語り継がれることとなる。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 騎士たちが【障壁】を解除すると、支えを失った氷塊の一部が崩れ、落ちて来た欠片が騎士たちの構える盾に当たる。


「ここから出られそうですな」


 ジャンフランコたちが飛び込んだ入り口にも不活性状態とはいえ罠は仕掛られていた。

 それが強烈な魔力の暴発で誤作動した。

 結果から見るとその罠が生み出した巨大な氷塊が【小隕石群(プチメテオ)】の衝撃からジャンフランコ達を護った。


 生成された氷塊は騎士達が咄嗟に張った【障壁】を覆うように成長し、【小隕石群(プチメテオ)】の衝撃を受け止めたせいで所々が脆くなっている。


 盾で氷塊を殴って削り、ある程度の隙間ができると、一人の騎士がその縁に手を掛けてひょいっと外に出る。左右を見回した後に氷塊の穴の奥に向けて手招きすると、続けて五人の騎士が外に出て警戒にあたり、問題がないと確認した時点で残りの騎士が穴から姿を現し、最後にジャンフランコ、フレデリカ、アンドレアの三人が引っ張り上げられる。


「えーと、皆無事かな?」

 おそるおそるジャンフランコが伝言の魔道具(メッセンジャー)に問いかけると、次から次へとメッセージが返ってくる。

 ”こちらダラヴィッラですが、先ほどの地鳴りは何ですかな?”

 “こちらピアネッツォーラですが、何やら天変地異でも起きたような光景がここキーンズからも見えましたぞ”

 “あ~上空から見たら何が起きたか一目瞭然なんだけど、安全が確保出来たら外に出てみるといいよ”

 王宮の奥部から、遠く離れたキーンズの砦からメッセージが届く。最後のメッセージは【自律飛行する魔道具(飛行ドローン)】を操っていたピエレッタか。


「少し離れていただけますかな?」


 年嵩の騎士がそういうと、戦技【シールドバッシュ】を発動し構えた大盾を氷塊に叩きつける。

 二度・三度と繰り返すと出口を覆う氷塊にヒビが入り、更に三度叩きつけると粉々に砕け散る。

 ようやく外に出られると思いきや、その先に現れたのは完全に凍り付いた扉だった。


「これはここから出るのは無理ですな」


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 結局、王宮のすべての出入り口は氷結し、首都ミルトンに侵攻したメンバーは王宮内に閉じ込められた状態となっていたことが判った。

 通常のやり方で外に出ることを諦め、一旦キーンズに【転移】して改めてキーンズから【幽霊馬車】でミルトンに向かう。


 車内ではピエレッタが撮影した宮廷魔導師団との交戦の模様が上映され、大いに盛り上がった。が、こと場面が【小隕石群(プチメテオ)】 発動の瞬間となったときには全員の顔色が土気色となった。


「これは……一人の術者が発動する魔術としてはダメ…でしょう」

 ダラヴィッラの呟きが全員の想いを代表している。

戦姫(いくさひめ)にお付き合いして慣れているつもりでしたが、これはそれどころではありませんな」


 首都ミルトンの城門は、先行したキーンズの守備兵の手によって既に開かれていた。


 あの死霊(ゴースト)“11”が持ち出した城門の鍵が役に立った形ではあるが、それを入手した経緯〜領主夫妻を狙った自爆テロ〜がなければ、そもそも今回のような侵攻を急ぐ必要もなかった。

 そんなジャンフランコの想いも城門を抜けてしばらく進むと目の前に広がった広大な破壊の跡を目にした瞬間に吹き飛んでいた。


「これは......こんなことになるなんて想像もしてなかった」

 一面に広がる瓦礫、その中心にポカリと空いたクレーター、そして二階部分まで氷に覆われた王宮。

 先程の車内で空中からの映像として見せられてはいたが、実際に目の当たりにすると、改めてその破壊の凄まじさに息を呑むしかなかった。

今回の新要素:

・ 【小隕石群(プチメテオ)】...は都市で使っちゃダメ。絶対。


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初めての作品投稿です。


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