不本意にも強いられた最善手
「待たせたね。『禁呪』関係はクリア。現状について報告を」
ジャンフランコには天津甕星と接触してからの時間経過と作戦の進捗が分からないため、伝言の魔道具を通じて呼び掛ける。
「上空からの確認結果です。城壁は完全に沈黙。宿舎などから出てくる兵士も皆無。動いているのは宮廷魔導師団のみ、で間違いありません」
ピエレッタからの報告は更に続く。
「その宮廷魔導師団ですが、王宮周辺に集結中。どうやら王宮が本命と気づいた模様。先程、数名が突入を試みてティツィアーノの罠に掛かりましたね」
「では、その王宮周辺ですが、主要な入り口への罠の設置は完了。今回は後始末考えて【氷】にしました。罠が発動した出入り口は塞がったと見ていいですね」
「罠の内側への騎士団の配置は完了。殴り合いは大人にお任せください」
報告から状況をあらかた把握したジャンフランコが次の一手に向けて思案を始める。
「ピエレッタ。【自律飛行する魔道具】のうち何機かを攻撃魔法仕様に換装して上空で待機。合図で射程距離ギリギリの高度から宮廷魔導師団を攻撃して。直接対峙する前になるべく数を減らしたい」
「了解。【自律飛行する魔道具】は三機が攻撃魔法仕様に換装済み。離陸の準備に入らせます。」
「仕事が早いね。目標空域に到達したら一報を」
「了解」
「ダラヴィッラ城代。騎士団は地下一階まで後退。各所の階段付近で待ち伏せできるよう展開を」
「お任せあれ。一階部分は放棄しますかな?」
「そっちはティツィアーノの罠に任せたい。中央の広間に向けての経路に底意地悪く配置は可能?」
「一人では無理なので、できたらサポートが欲しいです」
「では、ダラヴィッラ城代。何名かをティツィアーノの支援につけて下さい。ティツィアーノも罠設置が終わったらダラヴィッラ城代と合流を」
「了解。若様はどうされるおつもりですかな?」
「僕は暫く『禁呪』の部屋の前で待機。護衛にはフレデリカとアンドレアもいますし、危なくなったら【転移】して逃げますよ」
「分かりました。ご武運を」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この時点で指示した作戦は上空からの牽制で宮廷魔導師団を王宮内に追い込み、ティツィアーノの仕掛けた罠で数を減らし、最後は大広間に追い込み地下に潜んだ騎士団が一斉に襲いかかって殲滅する、というもの。
今までのところ、ミルトン攻略は想定の範囲内で進行している。
一通りの指示を終えてジャンフランコが一息つくと、それを待ちかねたかのように身近で死霊の気配が動き出す。
それも二人。
『そこにいるのはジャンフランコで間違いないかえ?』
『母様、先ほどからダラヴィッラの名も聞こえております。スフォルツァの者に間違いはないですよ』
ミルトンの城内で亡くなった親族の残り二人。フランチェスコからは『亡くなった場所から動けない』との話もあった。
『ジョヴァンナ・スフォルツァが一子ジャンフランコに間違いありません。お二方は私のお祖母様と伯父様に当たるお方で間違いございませんか?』
『ええ。わたくしがジョヴァンナの母エリザベッタ。ここにいるのが兄のロベルトです。フランチェスコから聞いてはおりましたが、先ほどから見ておりましたら、まぁ、立派な若武者ぶりですこと』
本来ならここで親族との出会いを喜びたいところだが状況が許してくれそうにない。先ほどからのフレデリカの探るような視線からもそれは自明である。
『お祖母様、伯父様、積もる話もございますが、今はまだ戦の只中にて。ひとまずお二方と縁を結ぶのみとさせて下さい』
『構いませんよ。その件もフランチェスコから聞いています』
【死霊使役の鬼神】の【魔法陣】を呼び出して二人の死霊を使役する対象に加える。二人の姿が血みどろの痛ましいものから、生前はそうであったろう、整った戦装束に変わるのはフランチェスコの時と同じだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
伝言の魔道具が光り、ピエレッタからのメッセージがジャンフランコを現実に引き戻す。
“宮廷魔導師団に動きがあります。一斉に【隠ぺい】の魔法を使用し、王宮から離れる模様”
ジャンフランコが伝言の魔道具に触れ、やり取りを開始する。
「ピエレッタ。どれくらいが動き出した?どちらに向かっている?」
「全員と思われます。王宮周辺には誰も残っていません。方向は......城門を目指していると思われます」
「漏れはない?全員を追えてる?」
「それはもう。ジャンフランコ様による倍量記法の【看破】は伊達ではありませんね」
状況から推測される宮廷魔導師団の意図は何か?ジャンフランコは熟考を始める。
軽口で動揺を誤魔化してはいるが、戦況はマズイ方向に動き始めていると分かっている。
宮廷魔導師団の状況判断が想定よりも早く、「フタ」の役目をするはずの【自律飛行する魔道具】の到着する前に動き出してしまった。
それも全く想定外の方向に。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宮廷魔導師団の視点に立ってこれまでの戦況を振り返る。
何処からともなく弱体化魔法を喰らって無力化され、何とか抵抗・回復した後におそらくは予め定められた通りに防衛対象を順に巡り索敵〜攻撃をするはずだったのだろう。
その途中で彼らは既に二箇所。スフォルツァ家なら押さえに掛かるであろう目標において、先に仕掛けられた罠に掛かった。
特に王宮を先にスフォルツァに押さえられていた場合、彼らにしてみれば最悪の事態だ。彼らがここミルトンで拠って立つもの〜すなわち共和国政府要人〜を失ったことを意味するのだから。
その場合の宮廷魔導師団の行動として想定されていたのは次の二つ。
・ あくまで奪還を企図して王宮に攻め込む
・ 戦闘継続は不可能と判断して投降する
だが、宮廷魔導師団が取ったのはそのいずれでもなく姿を消しての逃亡。
孤立無援の状態で包囲されたミルトンから無事脱出出来るはずがないと、冷静に考えれば理解できるはずなのだ。
どう考えても後先を考えない破れかぶれの状況判断である。
「最悪だ、まったく」ジャンフランコが呟く。
逃亡の先、このまま城門を正面突破しての戦線離脱へと続くのならば、その先にあるのはキーンズの砦。
キーンズの砦が一翼を担う包囲網の外に敵対勢力を逃すことは許されない。おそらくは力押しの正面突破を図る宮廷魔導師団と正面からぶつかることとなる。
要はジャンフランコが絶対に避けたかった、人員の損耗を伴う消耗戦となることが見えている。
「若様。騎士団はどう動きますかな?」
「ダラヴィッラ城代。申し訳ありません。読みが外れました。騎士団はそのまま、敵が反転してきた場合に備えて下さい。」
「構いませんが、敵をみすみす逃すおつもりですかな?」
「そんなわけないでしょ。ピエレッタ、奴らの鼻先に攻撃魔法ぶつけて足止めを。奴らが城門に到達する前に【自律飛行する魔道具】は間に合う?」
「了解です。攻撃魔法積んだ【自律飛行する魔道具】は間もなく現着予定。足止めした後はどうされます?」
「僕が出る。ダラヴィッラ城代、騎士団から十人ほど直衛に下さい。一階への出口で合流を。フレデリカ・アンドレアはついてきて」
【身体強化】を発動して駆け出す。
フレデリカは即座に、アンドレアも少し遅れて【身体強化】を発動して後に続く。二人の差は、普段からジャンフランコの臨機応変に慣れているかいないかの差だろう。
地上階へと階段を駆け上がると、騎士が盾を構えて待ち構えている。
ジャンフランコが駆け抜けると、騎士達も負けじと後を追う。
ジャンフランコにとって優先すべきはスフォルツァ家中の損失を最小限にとどめた上でミルトンを攻略すること。
相手は「倍量記法」の弱体化ですら抵抗した手練れの集団である。再度無力化を試みても無駄に終わるだろうし、生半可な魔法で攻撃しても防御・反撃されるのは目に見えている。
そうなると、現時点の最善手は火力にモノを言わせて一気に敵の生命を刈り取ること。
結局はスフォルツァ家の旧来の基本戦術〜即ち強大な攻撃魔法による一撃必殺の殲滅戦〜を選ばざるを得ない状況に追い込まれてしまったことをジャンフランコは悔しがる。
「どうせならここで試し撃ちしておくのも一興かもね」ジャンフランコが先程【神測】に記憶したばかりの一連の【魔法陣】から最善手を選びにかかる。
今回の新要素:
・ 祖母エリザベッタと伯父ロベルト(の死霊)
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