【閑話】ミルトン王家の顛末
やや胸糞な表現があります
ミルトン王の容体が峠を越えたとの連絡がスフォルツァ城に届いたのは救出から三日経った日だった。
同じ時に首都の幽閉場所から救出された者達の健康状態も概ね良好であるとのこと。
少しずつなら話もできるほどに回復したので一度話をしたいとのご要望もあるとのことで、その日の夜半にジョヴァンナ、ロドリーゴ、そしてジャンフランコがそれぞれ護衛を一〜二名連れて療養場所へ【転移】する。
ジャンフランコの護衛はフレデリカに加えシビエロ領出身のティツィアーノも伴う。コレはシビエロ侯爵とティツィアーノへの配慮でもある。
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「スフォルツァ辺境伯。此度のこと、まことに大儀であった。」
少しだけ背もたれを起こしたベッドに横になったまま、正面に跪くスフォルツァ家一行に声を掛けると、ミルトン王は暫しの間を掛けて息を調えていた。
まだ意識が戻り会話ができるだけであるので、やせ衰えた見た目は変わらない。本来の年齢は四十代半ばのはずだが、外見だけ見れば六十を超えた老人と言っても疑われないくらいに老け込んでいる。
「余はあのまま朽ち果てる定めと半ば諦めておった。よくぞあの地獄から救い出してくれた。礼を言うぞ」
「いえ、陛下におかれましては、あのような苦行に耐え抜かれたとのこと。お救いするのが遅れ、何とも心苦しく思います」
「それ自体は余の不徳の致すところである。卿が気に病むことなどではない」
あの政変は徹頭徹尾、急進主義者らの企みである。それを止められなかった咎を背負おうとするミルトン王をジョヴァンナが慰める。
「陛下の気の迷いに付け込んだ悪辣極まりない所業と聞いておりますれば。それもようやく正す目処がつきましてございます」
「シビエロ侯爵と、それに」一瞬誰もいない傍らを振り返った後
「前スフォルツァ辺境伯から聞いておるぞ。既に首都ミルトン以外の国土を急進主義者の手から奪還し、更に領民の生活基盤を整えておるとか。余が不甲斐ないばかりに卿には苦労を掛けたな」
王が振り返った先には、これはジャンフランコにしか見えていないが、フランチェスコの死霊が佇んでいる。見えないとはいえ、王の傍らに前辺境伯の死霊がいることはジャンフランコから共有済みであるので、誰も王の発言を不自然に思うことはない。
「勿体なきお言葉にございます」
「ミルトン王家の血筋も余のほかはここにいる王女二人だけとなってしまった。そして、王女二人の身も既に急進主義者どもに汚され、おそらくは次代に王家の血筋を伝えることは叶わぬであろうな」
そこで王が咳き込む。
「そして、余も娘二人もこのような有り様よ。とても国の舵取りなど叶わぬ」
「陛下、その先はお話しになりませぬよう」ジョヴァンナが王を制する。
「その先は、せめて今暫くお身体を休められた後、そして憎っくき急進主義者どもを殲滅してから、改めてお考え下さい。臣も今はそのことにのみ専心しておりますれば」
王が目を瞑り、暫し何事かを考えているように見える。
「そうだな。卿の言う通りやもしれぬな。だが、卿であればあるいは、『人の理』だけでなく、『神の理』によっても王として認められるのではないかな。久しく現れなかった『真の王』の誕生も...」
そこで王が激しく咳き込み、周囲に控える者が駆け寄り【治癒】魔法をかける。暫くして王の容体は落ち着くが、それ以上は現状の回復具合では厳しいと判断されて本日の面会は終わりとなった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ジジよ、今この場でジョヴァンナと話す方法はないか』
『ありますよ、お祖父様』そう言って、ジャンフランコは懐から【死】の女神から賜った【魔法陣】の複製を取り出す。
王の病室を退出し別室に移動する途上、シビエロ侯爵に頼んで別室を調えてもらう。そのままジョヴァンナに何事か耳打ちし、先程の【魔法陣】を渡す。
ジョヴァンナが一人別室に向かうのを見送り、フランチェスコに目で合図を送る。今の二人であれば【魔法陣】を介して会話が可能だと思う。
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ジョヴァンナがフランチェスコとの父娘の語らいから戻ると、一同は会議室に集まり医師から所見を聞く。
「まず、ご報告いたしますのは、今回お救いした五名のお方に共通することです。皆様、天恵封じの【魔法陣】を入れ墨されております」
「それは皮膚の表面に入れ墨されていると?」
「いえ、皮膚の奥、ほぼ筋肉に近い層に入れ墨されておりまして、除くにはかなり深くから皮膚を剥がさなければなりません。今の皆様の体力では耐えられるかどうか」
「何と悪辣な。ほかは?」
「永年栄養失調状態が続いたことによる骨格・筋肉の衰え、内臓の機能障害など自力で生活できるまで回復するには何年も要するでしょう」
そして、と続ける。
「陛下のお言葉にもありましたが、皆様、等しく男性・女性としての機能を破壊されております。手口は暴行あるいは人為的な手術など様々ではありましたが...」
あまりのことに皆が言葉を失う。
「お二人の王女も含め、お身体が回復した後もお子を成すことは望めません。つまりは、ミルトン王家は断絶することが分かっております」
暫くその場を沈黙が支配する。
「分かりました。王のおっしゃった『神の理』については何かわかりますか?」
「これはお祖父様にお教えいただきましたが、ミルトン王家に伝わる『禁呪』のことと思われます。全属性であり魔力量が豊かであることを条件に入れる部屋に安置されているとか」横からジャンフランコが口を挟む。
「つまりは、『禁呪』を唱えられることが王の条件であると」
「そのようです。ここ何代かはそれが叶わなかったためか、『劣った王』と陰口を叩かれることが多かったようですが」
いずれにせよ、首都ミルトンを攻略してそれで終わり、とはならないことを踏まえて今後のスフォルツァ家の行く末を考えなければならないことが確定した。
ミルトン攻略からミルトン解放へ、そして王家が持続可能でないと分かった今は、ミルトン王国と呼ばれた国の行く末まで。スフォルツァ家の舵取りが相当重くなったことだけは確かである。
『ただ僕はミルトン攻略に集中しなければ。政治向きのことは母様や父様にお任せして、まずは目の前のことを乗り越えるさ』
今回の新要素:
・ ミルトン王家断絶確定
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