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「え、え?!」ローランは慌てて、ラーリーの身体を触ってみた。また、ラーリーの息を確かめた後、彼はああっと呻き声を上げながら、手を引き、震えていた。
「なん、なんで……?」
「落ち着け。とりあえず、死因は?結果が一致しているのか確認させてもらいたい。」
「え、ええ。舌を噛んでの窒息死……つまり、自殺です。」
「うん。自殺の部分は俺と同じだな。」
「部分って……」
「自分で縄に絞め殺されたという結果だ。窒息の部分も同じだが……でも、ほら。」会長は一つ一つ、ラーリーの口、また首の部分を示して、ローランに見せた。
何の痕跡もない。出血も、縄のしめ痕も。
「え……」
「面白いよな。“検査”の魔法から“そういう結果”が出たのに、身体の痕跡がそうじゃないと……」会長は言いながら、苦笑いでも言えない微妙な笑顔が浮かべた。まるで「やられた」という意味を伝えている。
魔法の理を突き抜けて、概念をすり替える……昔、そのような奴もいたな。偶然か……?会長は死体を見つめて、考えこんでいた。
「じゃ、じゃあ、会長さん。どうすれば……」
ローランのおどおどしている様子に、会長は仕方ない表情で嘆いた。
「どうするも何も、やるべき事をやれ。とりあえず、死体を――」
「ちょっと待ってください!」と、会長とローラン二人が会話しているところ、一人が口を挟んだ。
ノールだ。
会長はノールの方に向くと、ノールやまた他の人たちはすでに二人の近くに集まっていた。当然二人の会話も聞いていた。
「先生の身体……私に、埋葬させてください。」
「……ええ、元々埋葬するつもりだが。」と会長は一瞬迷ってからノールに言った。
それでも、
「私に、やらせてください。」とノールは譲る気がないようだ。少々弱気な表情だが、かなりの決意を秘めている。何となく芯が強い人だと感じられる。
……いや、あるいは冒険者にだけ当たりが強いかもしれない?と、何となく会長はそう感じた。特に見つめられているだけなのに、なぜか睨まれているような感じがした。
「わかった。いいよ。手間が省けるし……ええと、神官様のお名前は?」
「ノール、です。」
「ノール様ですね。では、この人の死体はあなたに任せます。」
「はい。」とノールはすぐ了承した。
ノールか……ノール、ノール……会長は習慣で人の名前を脳内で人物像と繋がせるために、名前を繰り返しているうちに、突然思考が滞ってしまった。
ノール?神官?獣人?と、会長はハッとなって、昔の記憶が蘇った。彼が思い出したことは15年前くらいのことだった。
あの子は神官だった。見習い神官であり、獣人の子だった。冒険者がクエストをこなしている時に、巻き込まれた存在だ。
あの子の両親は、彼女の両親は、あるクエストの“ヤツ”に殺された。
偶然なのか、運命だろうか。会長は嘘だろうとそう思わずにはいられない。
彼は、ノールからあの子の面影に見えた。
もし、あの子は自分のことを覚えているのなら、その態度と反応は……きっと、間違いないだろう……
会長は思わず目を逸らし、ラーリーの死体に向いた。でも、ラーリーの死体を見ると、更に心が重みを感じた。
なぜなら、よく見ると、ラーリーの面影も少し印象が残っていた。あれは失踪した子のクエストだった……昔のことが一気に蘇って、半端ない罪悪感に苛まれていた。
自分が考えすぎただけかもしれないと思う会長は口を開けて、ノールに確認したいところに、一人が唐突に手を挙げてこう言った。
「では、大体のことはほぼ終わらせましたし。私、自分の目的を告げてもいい?」とモモナーが明るい表情で言った。
「え?あ……ああ!そう、だな……さっき後で言ってくれと自分が言ったんだしな。」ノールのことに気にかけすぎて、反応がおかしくなった会長である。
明らかな反応だが、誰も聞くつもりはない。恐らく自分の事情があると、あえて聞かないようにした。あるいは、すでに事情を知っていて、聞くつもりがない……
モモナーは一回会長とノール二人を見回してから、自分の目的を言った。
「私はね、情報屋を探しているの。」
モモナーの話を聞いて、先に反応したのは会長ではなく、サティマだった。
「情報屋?情報屋を探しているのなら、普通に酒場とか、旅館とかに行くだろう。なぜギルドに来るんだよ?」
これを聞いて、ローランは「あ」と何が言い出そうとしたところだが、モモナーは全然気付かず、次の言葉を言った。
「違う、違う!そんな腐った奴らじゃない!三流の新聞記事みたいな情報なんか、大体揚げ足を取るだけのものだし、参考にならないのよ!それに……私が仕入れた情報では、情報屋は冒険者協会が一番正式だって。」
このことを聞いたら、会長はさっきのことを吹っ切れたように言った。
「ほう。今時こんな事を知っている人がいたとは……」
ここでローランは何が言いたい気持ちを控えた。彼は自分の知識を披露したかったが、会長の言葉でチャンスがなくなった。
そして、たぶん会長は自分のことを褒めているだろうと、モモナーが自信な笑みを浮かべて、嬉しそうな感じだった。
「でしょう?」
「え?まあ……」この子、俺の反応を観察しているのか?なぜかそう感じた会長。
「……だとしてもだ。ここよりもっと首都圏に近い町とか、繁栄のある領主のところに行った方がいいだろう。ここは田舎の町だぞ。」
「だ・か・ら、そんなところもほとんど腐っているの!もし君たちもわけがあってここにいる人間だったら、こんな推理ができなくもないでしょうが!」
「なっ!お前……」サティマとティラエスはすぐモモナーが言った“わけがある”という部分に引っかかった。モモナーが笑っていた笑顔が更に吊り上げた。
「本当にわけがあったんだね。」
二秒を置き、やっとモモナーが何を言ったのが意識できた二人は、は!と言って、「貴様!」と叫んだ。
「待て待て。」会長は剣幕の雰囲気を出している二人を阻止した。
「受付の兼職とはいえ、こういう情報収集の仕方は基本中の基本だぞ。教訓だと思って学べ。」
「「でも会長――」」、「文句はなしだ。」と会長の言うことに、二人はぐっという音しか出なかった。
でも、文句がある人が別にある。
「え。待って。この二人が受付なの?」とモモナーが確かめるように言った。
「あん?何か文句あんのか?」
「いやいや。文句というか……」モモナーは言いながら、一回ノールを見た。
そして、モモナーの言うことに、会長は何気なく肩を竦めながら言った。
「モモナーさんの疑問がわかるよ。残念ながら、人手不足でね。ここにはコイツ以外、冒険者が兼職しているんだ。」“コイツ”に言い及ぶ時、会長はローランに指して言った。
「そうか……いや、でも、私が言いたいのは、ここに入った時、この二人、獣人ちゃん……ノールちゃんをいじめてたじゃん?」
「はあ?!いじめてないわ!神官だから、まず俺らがその“用事”を受けようとするんだよ!」
「何で“神官だから”って君たちがやるの?そのうさちゃんにやらせてもいいじゃない?」
「あのな、神官というヤツらはな――」サティマの話は途中で一人に中断された。
「もしかして……神官も腐っていました?」とノールが言った。
一瞬、静かになった。
だが、サティマはすぐ「ああ」と言って、ゆっくりとノールの前に歩いた。彼女の近くについた後、ノールを見下ろした。
「……そうだよ。神官は悪い奴らだ。もしかしたら腐っている情報屋やつらなんか、あいつらよりもマシだ。」サティマがこの話をしているうち、ノールも見返した。
でも、ダ、ダ、ダ……と、モモナーが強引に二人の間に入れた。
ノールを守っているようにサティマの前に立っている。
「そんなに悪い?」
モモナーの予想外な挙動に二人はお互い一歩を引いて、少し驚いた様子だ。
「あ、ああ……そんなにだ!」
「……そう?」怯まないモモナー。
そして、この状況を注目している会長は、微妙な笑顔を出した。
これも面白い状況だな。古い情報を持っているよその冒険者、現在の神官を知らない神官様……一体何ことやらこうなったんだろう……




