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はぁ……会長は一回深呼吸し、「はい、はい――」と、パチパチと拍手して、全員の注意を引いた。
「ここまでだ。さっき喧嘩したばっかりなんだし、もう一度の殴り合いは勘弁してほしい。」
誰も会長に返事せず、モモナーとサティマが睨み合ってからお互い一歩引いた。
内心で胸をなで下ろした会長は、一回ノールの反応を窺った。特に反応がなかった。
反応を示していなかったものの、会長は緊張で唾を飲み込んでしまってから話す。
「それで、モモナーさんの用事はもうわかった。そこの神官様……いや、獣人の嬢ちゃんは、どんな用事があるんでしょうか?」
ノールはやっと会長を見ていたが、すぐにモモナーの方に見つめて、俯いた。彼女の目的は何なのか会長には、または冒険者協会の人には未だにわからなかった。
だが、彼女の目的は一部が果たせたのだ。だから、
「用事はもう大丈夫です。元々人探しの委託を頼みたかったが、歓迎されてないようですし、それに……」とノールがモモナーを見てこう言った。
単発の“モモナー”。その“モモナー”というのはきっと……彼女は会長とローラン二人が現れた時、ちゃんと二人の会話を聞いていた。
「ああ?そんなことがあったらさっさと言えばいいだろう!勝手に“言っても信じてくれなーい”とか言って舐めやがって……なんの事情があんのかわかんねえが、ここは遊び場じゃねえんだよ!」と大声に出すサティマ。
サティマの言うことがノールの逆鱗に触ったようで、彼女は
「……そんなの承知していますが、君が勝手に威張る場所でもないでしょう。」と言い返した。
「ああ?!」とサティマは近づこうとすると、モモナ―がすぐ阻まって、
「おっと?戦う?戦う?戦うなら私、ノールちゃんの味方にするよ。」と胸を張って堂々と言った。
ぐっと、サティマは悔しそうに足を止めた。自分の実力がモモナーより優れていないことがわかっているから、手を出さなかった。でも、彼は引かずにモモナーを睨んでいる。モモナーが見返す。
二人はお互い見下ろし見返す。視線が交差し、まるでバチバチと火花でも噴き出しているような剣幕だった。
「おいおい、さっき俺が言ったこと、もう忘れたのか?喧嘩はやめろよ。」と会長が言った。
「庇ってくれてありがとう、モモナーさん。でも、争いなんてしたくありません。」とノールがモモナーを阻止した。
モモナーは一回ノールの顔を見て、「わかった」とノールの話に従った。彼女は一歩を引いた。
しかし、サティマの方は全く会長の話を聞かず、逆に「ふん。どの口が言うんだ」と煽ってしまった。
更にモモナーが一歩を引いたことを見て、進もうとした。
「おい……」さすがの会長にもサティマのことを引っ張るつもりだ。調子に乗るなっと。でも、会長より先に行動した人がいた。
会長の側から通って、ド、パタンー。
ティラエスは慈悲なくサティマの頭を叩いて、サティマの身体ごとに床に叩き落とした。床にひびが割れて、彼が力強く叩いたことが誰にでも簡単にわかってしまう。
また、気絶するほどの力であろう。サティマは何も話せなくなり、反応がなくなった。
誰もティラエスのこの挙動に驚愕した。
だが、ティラエスの目的は別に驚かそうとするつもりじゃない。あくまで制御である。
「調子に乗りすぎだ。しばらく夢で反省しろ。」
そして、ティラエスは気絶したサティマをおんぶして、カウンターの裏に運んだ。それを見て、会長が言った。
「これはこれでいいかもな……ローラン!」
「は、はい!」
「大丈夫だと思うが、命に別状があるかどうかチェックして。」
「はい。」三人は少し離れたところで、やるべきことをやっている。
会長はしばらく見ていて、再びモモナーとノールの方に向いた。
「……すまんな。」
「まあ、別に気にしてないよ。私に勝てなさそうだし。」
「……大丈夫です。」
少しの間、静かになった。
「では、特に用事がないので、私は先に帰ります。」とノールは帰ろうとした。
「バイバイ!ノールちゃん。」明るい感じに手を振っているモモナー。
「う、うん……さようなら。」若干調子が狂ってしまうノールだが、まんざらでもない様子だった。
「あの……ノール嬢ちゃん。」そして、会長が話すと、ノールはすぐ無表情に豹変する。
このあからさまな態度は何を意味するか会長がわからないわけではないが、それでも彼は話を続ける。
「冒険者はずっと、民衆の味方です……このことだけは、信じてほしい。」
会長が真摯に言っているのだが、ノールはただ無表情のまま、「……そう」と答えた。
この状況を見ているモモナーは、思いついたことを思わず口にしてしまう。
「昼ドラ……?」
モモナーの話を聞いて、なにそれと、二人が一緒に頭上がハテナマークでも浮かんでいるような顔だった。二人の顔色に気付いたモモナーはすぐああっと手を振っていた。
「あー気にしないで。複雑な事情がありそうだなーという意味。」
「はあ……」とそのまま鵜呑みにする会長である。
同じくモモナーの話に鵜呑みにしたノールだが、気まずい雰囲気をぶち壊したモモナーに、楽しそうに微笑んだ。
調子が狂ってしまうけど、なぜか嫌いにならない子だ。これはこの子の魅力だったかもれしれない……と。
ノールは、重みのある心が少々解放されていた気がした。
「……では、私はそろそろ帰ります。」と、ノールは冒険者協会から出ようとした。
だが、モモナーはノールが踏み出そうとするところ、あっと何かに気付いて、ノールを呼び止めた。
「あ!ノールちゃん、ノールちゃん!」
モモナーの呼び止めに反応して、ノールが振り返った。すると、モモナーがある方向を指していると見えた。
「ノールちゃん、忘れちゃいましたよ!あの人の死体、自分で埋葬するんでしょう?」
あ……
モモナーに気付かせてしまうと、ノールはカーっと、一瞬毛が刺激を感じたように逆立てていた。
でも、怒っているではない。恥ずかしいと思っているのだ。
ノールはダ、ダ、ダと無言で早歩きで、ラーリーの死体を運び、また、ダ、ダ、ダと早歩きで冒険者協会から出た。この間、ずっと顔が赤いままだった。そして、会長とモモナー二人はずっとノールの行動を見送っていた。
ノールちゃん、かわいいな。案外ドジっ子かもしれない……
モモナーとは逆にずっと気が重いであろう、会長は何となく楽になった様子だ。
「はぁ……では、モモナーさん。君は、情報屋が探してほしいですね?」
「あーうん。そうです。」
「そうか……なら、何が聞きたいんだ?」
「うん?それはどういう……」
「ああー言い忘れたが、俺、情報屋でもあるんだ。」
「え?……」
(ちょっと!君、教えてくれなかったんだけど!)




