ペントハウス
ある日、食堂の厨房に、幹部らしき人が来て、私を探していた。
私は彼に連れられて、本部事務所へ行った。会議室のようなところに通されると、物資調達担当の幹部と名乗る人が、入ってきた。彼は私の前に座ると、口を開いた。
「我々の、ある納入業者が、ぜひ君に会いたいと言ってね」
彼によると、その納入業者はかなり有力、というより大企業で、自治体連合のスポンサー的役割を果たしており、その企業のある幹部が私に会いたがっているという。
私は、偵察衛星の制御装置の奪還の件だろう、と思ったので、会うくらいなら構わない。はい、と了承した。
「西園寺会長と言って、我々にとって、絶対に、いや死活的に必要な企業で、燃料やいろんな装備品の調達、あと財政面で県債の引受とか、とにかく大事なお客さんだから。絶対に気分を害さないように」
自治体連合軍の予算は、埼玉県の県債を民間の金融機関に引き受けてもらい、埼玉県から予算の交付を受けていた。自治体連合の支配地域が増えると、それらの地域の税務署はみな、埼玉県に県税という形で納税し、それを県債の償還資金に当てていた。
私は、車で指定の場所まで送ってもらった。都内の、崩れかけ斜めに傾いた東京タワーが間近に見える、高層ビルだった。
そのビルは全く無傷で、敷地内も周辺とは場違いのように、きれいに手入れされていた。
中に入ると、受付の女性に、階数を指定され、エレベーターで最上階に向かった。
エレベーターを出ると、そこは見晴らしの良い、展望室のような感じだったが、調度品から公開されていない、個人宅の一部の雰囲気があった。いわゆるペントハウスだ。
執事のような人に、窓越しのテーブルに案内された。そこに、一人の高齢の男性が座っていた。私は促されるままに座に着いた。
「久しぶりじゃの、覚えておるか?」
彼の顔をまじまじと見て、思い出した。先日都内へ来た時に、六本木でナンパしてきたおじいちゃんだ。
はっきりしない答えを返した。
彼が西園寺会長だった。
会長は、ナンパした日以来、私のことが気になり、あちこちに手を回して、私のことを調べて、居場所を突き止めたのだという。
ストーカーに対して、私は怖れよりも、その努力に感心してしまった。ほとんどの人は食べるのに精一杯で、家や家族がなくなった人もいる。今でも関西より向こうは中国軍の支配下で、これから自治体連合軍による軍事作戦が始まるという時期なのに、私一人を探し出すために、いろいろ動き回るなんて、浮世離れしている。
よく会長を見てみると、服は高そうなものを着ているが、肌はしわくちゃで、年を隠しようも無かった。多分70代後半くらいだろう。髪の毛もほぼ真っ白で、更にかなり薄くなっていた。
会長は私が大宮の駐屯地でバイトしていることを見つけ、私について調べ上げ、親のこととか、学校のこと、その後バイトを初めて、仙台や岐阜での作戦、琵琶湖での任務など、一通り知っていた。
「本当に、すごいよ、君は」
会長は私をべた褒めだった。私は適当に相槌をうって、聞かれたことに答えたりして、適当に話を合わせた。
会長はこのビルのオーナーで、このペントハウスに住んでいるとか、企業グループの総帥で、総資産はいくらだとか、旧日本政府の政治家の、誰々と知り合いとか、女優の誰々とつきあっていたとか、そんな話をした。
会長と話していて、苦痛ではないが、楽しくもなかった。あまりにも世界が違いすぎて、全く共感できるところがなかったし、私が求めているものを彼は持っていなかった。
私は、もっと素朴に、自分に釣り合った、損得勘定のない、友達が欲しかった。
昼食後、別荘に行こうと誘われた。私は購買担当の幹部の、大事なお客さんだから気分を害さないように、という言葉を思い出し、断れなかった。




