守護霊の呪い
一方、夏希は再び湖底に戻り、武士の手首を引きちぎり、千両箱の鎖を武士から外した。片手で千両箱を抱え、水中を上昇し始めた。千両箱が重いので、かなり激しくバタ足と片手で水を押し出す必要があった。
途中まで進んだ時に、千両箱の木材が脆いため、端の方に穴が開き、そこから小判が漏れ出した。小判は次々と水中深く沈んでいった。
彼女は、千両箱の鎖を体に巻き、それで箱全体を支え、空いた両手で穴を塞ごうとした。するとバタ足だけでは推進力が足りないので、上に進まなくなり、じわじわと沈み始めた。
穴から手を離すと小判が流れ出て、穴を塞ぐと沈んでしまう。
それを繰り返しているうちに、エアーが少なくなってきたので、一度湖底に千両箱を置き、船上でエアーを補充後また潜ってこようと、湖底に降り立ち、千両箱を置いた。
上昇しようとしたら、体が上がらない。振り返ると、鎖が背中の酸素ボンベに絡まっていた。解こうとしても、鎖は錆びついているし、重みでギュッと絡まっていて、外れない。仕方がないので、酸素ボンベを外し、自分だけでも浮上しようとしたら、酸素ボンベのベルトにも鎖に絡まっていて、ベルトが外れない。頭のライトのみが頼りで、視野が狭いので効率が悪く、焦れば焦るほど鎖は絡まっていった。だんだんエアーがなくなり、苦しくなってきた。そして、ついにエアーが切れてしまい、夏希は湖底の冷水の中で、意識が遠くなっていった。
私は、船を操作し、さっき二人で水中に潜った辺りへ戻った。
夏希はまだ浮上していなかった。
「夏希ー、なつきー」
私は大声で、彼女を呼んだ。返事はなかった。漆黒の闇と静寂のみがそこにはあった。
当然私は、その時すでに、彼女が武士の死体と一緒に湖底に漂っているとは、知りもしなかった。
もしかしたら、泳いで帰ったかもしれない。
限りなく有り得ない希望的なことに、一途の望みをつないで、私はその場から船を進めた。もう部隊に帰らなければならない時間だった。船で岸に向かいながら、私は再び後ろを振り返った。
友達なんかいらない、という彼女の言葉を思い出した。どうしても信じられなかった。張本さんは、私が人と知り合う能力があると言ったけど、私は結局、夏希とは知り合えなかった。
一体、夏希が何を考えていたのか、今でも全く分からない。
岸に上陸後、原チャリを取りに戻り、山道の裏道をうねうねと部隊へ戻った。
部隊は、第3師団の配置図をもとに、作戦を立案した。
夜の間に、自治体連合軍は敵の主力部隊の背後に回り込み、日の出とともに、背後から攻撃を開始した。第3師団は大混乱に陥り、装備を捨てて敗走した。
主力部隊を失った第3師団の防衛線は、関西のあちこちで突破され、自治体連合軍が大阪を占領、関西各県の知事は、自治体連合に加わることに合意し、降伏した。




