本音
水面に顔を出すと、船の明かりが点いていた。船の縁に捕まり、体を乗せようと水面から上がると、急に背中のタンクが重く感じ、乗れない。
私は船上を見た。目の前に、夏希の脚の脛から下が2本、こちらを向いているのが視野に入った。
「ちょっとごめん、手、引っ張ってもらえる?」
私は声をかけた。
返事がなかった。
私は上を見上げた。
夏希が黙ってこちらを見ていた。手には私の頭に向けた水中銃があった。
「えっ、冗談でしょ?」
「この宝は私のもの。誰にも渡さない」
「私は宝なんかいらない、本当」
「嘘ばっかし。ずっと丘で湖面で作業している船を見ていたじゃない。そんな戯言、信じられると思う?」
「嘘なんか、言うわけないよ。友達って言ったじゃない」
「友達なんか、いらない。私はお金がほしいの。こんな田舎での、こんな貧乏生活はまっぴら」
私はショックで言葉が出なかった。
「最期に教えておいてあげる。材木倒したのも、丘で矢を射ったのも、漁師を殺したのも、私」
彼女は水中銃の引き金を引いた。
私は避けようとしたが間に合わず、銛は私の頭のライトに当たった。同時に私は水中に潜り、漁船の底に張り付いた。そこなら直接は水中銃で狙われないと思ったからだ。
ライトは頭から外れ、水中深く沈んでいった。
しばらくすると、夏希が再び船から水の中に飛び込んできた。ライトが沈んだのを見て、私が沈んだと思ったのだろう。
そのまま、彼女は潜っていった。
私は水中で酸素ボンベを外し、船に這い上がった。
これからどうしようか、迷った。このまま竹生島へ行き、配置図をもらえば、任務は完了だ。しかし、夏希はどうしよう?
ここで待っていてあげなくても、良いだろうか?私は待っていてあげたい。でも、時間がなかった。
明日の日の出とともに、第3師団への攻撃を開始することになっていて、今日の24時までに、配置図を作戦本部へ持って帰ることになっていた。原チャリで走る時間とか逆算すると、そろそろ配置図をもらい、陸に向かわなければならない時間だった。
先に竹生島へ行き、帰りにここを通り、夏希を拾おう。
私はさっき夏希がしていたのを見様見真似でエンジンを掛け、船を走らせた。
竹生島の港につくと、はしけに一人の男の人がいた。船で近づき、声をかけた。
「ブラックバスは釣れますか?」
男の人はびっくりしたように私の顔をまじまじと見たが、やがて答えた。
「ああ」
「何匹、釣れましたか?」
「3匹。あんたは?」
「0匹です」
男の人は、かばんから紙袋を取り出して、私に渡した。
「あんたみたいな若い人が来るとは思わなかったよ」
私は中身を確認した。配置図らしきものだった。お礼を言って、私は船を出した。




