出港
港へ行くと、夏希がいた。
「竹生島へ行くんだって。私も連れてって」
彼女は、私が竹生島へ行くことを旅館の主人から聞き、自分も前から行きたかったと言った。彼女は潜水服を2着持って来ていた。
困ったなー。
私は財宝目当てに、竹生島周辺で潜りに行くわけではない。竹生島へ上陸し、協力員に会って、配置図をもらうだけだ。
「潜らないよ。単に竹生島に行くだけだから」
「じゃ、何しに行くの?」
それは答えられない。
「私、前から財宝伝説に興味あったんだ。ロマンチックじゃない?」
無理に断ると、夏希に嫌われそうな気がして、なし崩し的に一緒に潜ることになってしまった。どうせ財宝が見つかることはないから、少し潜って気が済めば、そのまま竹生島へ行き、彼女には漁師と一緒に船で待っていてもらおう。
私は、いいよと言い、漁船の近くで漁師を待った。しかし、いつまで経っても彼は来なかった。彼が来たら少しでも早く出港できるように、漁船に乗って待つことにした。
はしけから漁船に乗り移り、空いている場所に座った。漁船は小さく、いくつか荷物が積まれていて、カバーがしてあるものもあった。どんな道具を使って漁をするのかなと、その中の一つの荷物のカバーを、私は何気なく退けた。
そこには、漁の道具ではなく、漁師が三角座りをしたまま横たわっていた。
わっ
私はびっくりして飛び退いた。彼は動かなかった。目を見開いたまま死んでいた。
私と夏希はしばらく呆然と無言でいた。
おもむろに、夏希が船から漁師の死体をはしけに運び上げた。
「帰ってきたら、村の人に、私が言っておくから」
私は夏希の言うままに手伝った。
「私、船操縦できるから」
そう言うと、彼女は漁船のエンジンを掛け、もやいを解き、舵を取って、出港させた。
周囲はかなり暗くなっていた。漁船の船上ライトを点けると、弱い光で、船の上がぼんやりと明るくなった。
昼間出ていた船が集まっていた付近に、近付いた。
私は、この辺りだと思うと言うと、彼女は船を止め、潜水服を着始めた。私も促されるままに、着た。
暗いので水中灯を頭に付け、酸素ボンベと浮力調整用の重りを付けた。ヘッドフォンみたいのを渡された。
「これで水中で会話できるから」
簡単に酸素ボンベの使い方を教わった。
「先行くね」
彼女は乗り気で、準備が終わると、ジャボーンと背中から水中に入った。私も真似をして、後を追った。
始めてのスキューバダイビングだった。面白い感覚で、何もしないと水中で静止しているから、上下左右どこでも手で漕いだ方向へ進む。
「大丈夫?」
ヘッドフォンから彼女の声が聞こえた。私は指を丸めてOKのサインをした。
彼女はどんどん深く潜って行った。




