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令和の乱  作者: 岡田一本杉
東海
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列車事故

その頃、中本さんは、下呂駅前でバンに乗って待っていた。3人と博士が降りてくるどころか、特急が停車もせず通過していったのを見て、作戦が失敗したと分かった。

この辺りは仕事で何度も行き来しているから地理感覚がある。彼はすぐに車を出し、先回りできる踏切へ急いだ。


私達3人は重苦しい雰囲気の中で、無言だった。下呂駅を通過してからは、外の風景も見なくなった。しばらくそんな状態が続いていたが、突然列車が急ブレーキを掛け、ブオーンと警笛が鳴り響いた。惰性で体が少し前のめりになった。

次の瞬間、ドーンという衝撃で、私の体は前の座席の背もたれに肩からぶつかり、お尻が浮き上がって、1回転して空の前の座席にすっぽりとはまり込んだ。私の意識ではスローモーションの様だったけど、一瞬で私側の窓ガラスを下に列車の車体が傾き、そのまま走りながら90度倒れ込んで、ほぼ全部の窓ガラスが割れ、また車体が45度くらいまで戻ったところで列車は止まった。

周囲を見渡してみると、客室内はめちゃくちゃで、私服の中国兵はあちこちに投げ飛ばされており、一部は割れた窓から外に投げ出された人もいた。佐田倉さんは通路に倒れ込んでいて、張本さんは自席で倒れていた。

シューと空気が漏れているような音がしていた。

私は張本さんと佐田倉さんに声をかけた。二人共、意識はあった。3人で目を合わせて、今逃げようと合図しあった。

その時、少し前の傾いた壁にジュラルミンのアタッシュケースが転がっているのに気付いた。

私は思わず、斜めの壁をつたい、それを後ろ手に掴んだ。そのまま、割れた窓から車外に出た。車内では、中国兵が起き始めて、アタッシュケースがいないと騒ぎ始めていた。

すぐに続いて張本さんが割れた窓から出てきた。その後に、佐田倉さんも出てきた。

私は後ろで手錠をされたままケースを持っているので、走りにくく、何度か転びそうになった。

列車の方を見ると、踏切に大型トレーラーが立ち往生し、そこへ特急が衝突していた。

3人が列車から走って離れていくと、車内の中国兵が気付いたようで、彼らも割れた窓から這い出してきて、銃を構え、数発発砲し、走って追いかけて来た。

すると、一番後ろにいた佐田倉さんが走る向きを変えた。

「絶対、逃げ切れよー」

そう叫びながら、追いかけて来た中国兵に向かって体当りしていった。私と張本さんは一瞬立ち止まったが、そのまま走り続けた。

その時は、逃げることしか考えられなかった。

すると、目の前に急に白いバンが走ってきて、私達の目の前で止まった。

「早く乗れ」

運転席の窓から中本さんが声をかけ、後ろのスライドドアを開けた。

私と張本さんは車に飛び乗り、すぐに車は発車した。みるみる事故現場が小さくなり、もう安全に思われた頃、後ろの方で、数発の発砲音が聞こえた。

私の中では、佐田倉さんは小心者のイメージだった。それがいざとなったら捨て身の行動をとったことが意外だったし、自分にそこまでしてもらう価値があるのか理解できなかった。もちろん私のためでなく、装置のため、作戦のためだけれど、とっさにそんな行動が取れる佐田倉さんを素直に尊敬した。そして、そう伝えることは、もう出来ないとも分かっていた。

中本さんが口を開いた。

「下呂駅で特急が止まらなかった時はびっくりしたよ。失敗したんだなって。だから、踏切に先回りして、近くにあったトレーラーで止めたんだけど、本当、一か八かって感じで」

「博士はいませんでした。装置だけ回収できました」

張本さんが続けた。そして、ワナだったことも説明した。

「そうかー。装置は手に入ったし、このまま長野か静岡に行こうか?そうすれば12旅団の領域だから、中国軍もそう簡単には手が出せないと思う。この辺りの16師団はまだ中国軍の指揮下だから」

私はほっとした。もう大宮に帰りたかった。


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