閑話 アンクの冒険譚ー5
もう少し閑話にお付き合い下さい。
<マーリン魔術学院> 入学試験会場 第一体育館
僕は兄弟達の付き添いとして試験に同伴している、だがもちろん手助けなどは許されていない。
そんな事をすれば一発で不合格だ。
みんな緊張していないだろうか、何だかんだで凄く気になる…
僕はさり気なく一人一人の顔を見ていくが誰一人として緊張や気負いなどはなかった。
「取り越し苦労だったかな……みんな頑張って」
僕がみんなの無事を祈っていると体育館の一角で黄色い声が上がった。
何事かと人混みの方へと目を向けるとそこには三人の男女がいた。
一人はキザな仕草がやたらと似合う金髪の男、二人目は凛としてまるで氷の様な雰囲気を持つ黒髪の女、そして三人目は綺麗な金髪の間から長い耳を出すエルフの女だった。
「貴族…か?」
「えぇ〜君そんな事も知らないのかい?」
僕が無意識に呟いた言葉に反応してくる奴がいた、随分と馴れ馴れしい。
「あんた誰だ?」
「嫌だなぁ、そんな睨まないでよー私はセレン宜しくね?君名前は?」
セレンと名乗った少女は恐らく僕と同い年くらいだろう、特徴的なのは蒼空のような水色の髪と右眼にある大きな傷だろう。
随分と生生しい傷…年端もいかない少女が背負うにはなんとも大きい十字架だ。
さて…それはさて置き名前を聞いたのは僕だし名前だけは名乗っておこう。
「僕はアンクだ」
「そう宜しくねアンク、それで話は戻るけどあの三人は君の予想通り貴族……でも一人は王族だよ」
僕は見逃さなかったセレンが発した殺気を、そしてその標的があの中の誰かだと言う事も。
その殺気からは強い憎しみを感じた、何かしらの因縁があるんだろう。
まぁ僕が関わる事じゃないし殺気には触れないでおこう。
「そうか、だけど貴族なんて珍しくないんじゃないか?」
「そうだよ貴族は珍しくない、それに王族もね。だけどあそこにいる三人は特別…なんでも今期の入学生で大賢者マーリン様の後継に最も近い実力者って噂があってね」
「あの三人がね……全くと言っていい程十六夜さんに近しい力を感じないけどなぁ」
あの程度で『大賢者』様の後継に近いのか…過大評価が過ぎると思うんだけど。
『大賢者』そう口にするのは簡単だ、しかし実際の力は凡人の予想を遥かに上回る。
十六夜さんが振るう力がいい例だろう、あんなものを見れば自分がどれだけ愚かで矮小な存在かを思い知る。
「ん?何か言った?」
「いや、なんでも無い。さて…兄弟達は僕がいなくても大丈夫そうだしそろそろ行くよ」
「家族の試験より大事な事でもあるのかい?」
セレンの疑問は最もだが、兄弟達は僕が付き添っていなくてもなんとかするだろう。
「あぁ、冒険者ギルドにちょっとね」
「へぇ、君冒険者なの?」
セレンは顔をズイっと近付けて僕の顔をジロジロ見ながら、君が冒険者?とでも言いたげな表情を作る。
お世辞にも僕は強そうには見えないから当然の反応か。
「今日からなる予定だよ、じゃあねセレンまた会うことがあれば」
「うん、話せて良かったよアンク……ありがとう」
僕はセレンとの会話を終え第一体育館を後にする。一つ気がかりなのは別れ際に見たセレンの寂しそうな顔だ、何故あんな顔をしたのだろうか?少し考えてみたが僕には分からなかった。
★★★
魔力測定 A列 試験番号五 名<ミミ> 性別 女
「次の人前に出なさい」
「はーーい!」
試験官の声に呼ばれ一人の元気な女の子がしっかりとした返事をしながら魔力測定器の前へ出た。その女の子には兎の耳が付いており、それだけで獣人と判断するには充分だった。
それを見ている周りの受験者達は口々に陰口を叩く。
「おい、見ろよ獣がいるぞ」
「魔法が使えねぇ野蛮人が」
「身の程を知れよ」
獣人と言うのは耳がすこぶる良い、この心無い中傷も彼女は全て聴こえているだろう。
「ではさっさと手を測定器に翳して下さい」
獣人と言うだけで試験官の対応も随分と適当になる、特にこの試験官は差別意識が高く実力のある平民にも同じ様な態度である、逆に王族や貴族、大手商会の子息などには実力が無くとも媚びへつらう様だ。
「よいしょっと、これでいいんだよね?おばさん」
「おば…おばさん……えぇ!そのままじっとしていなさい!」
無垢な表情でおばさんと呼ばれた試験官はイライラしながらも測定を開始する。
因みに魔力量は色で表される、赤を最上位とし青→黄→緑→無色と言う順番になる、そして例外が一つ。
「なっなっなぁぁぁぁぁぁぁぁ!く、黒なんて有り得ない!ふぅぅぅ、落ち着きなさい私…そうこれは測定器の故障よ、待ってなさい今違う測定器を!」
数分後……
「ふぁぁぁぁぁぁぁ!何回やっても黒という判定……そう、これは夢…夢なのよ、そう!だって有り得ないじゃない黒…測定不能なんて!」
リアクションが忙しない試験官は錯乱したかの様に彼女の測定結果を受け入れようとはしなかった。
「んん?うるさいおばさんだなぁ、でも黒ってすごいのかなぁ?」
その騒ぎはすぐに広まり体育館の至る所でミミという少女の測定結果を話し込む受験者が溢れかえった。
これには学院の教師陣も困惑を隠せていないようだ。
騒ぎが騒ぎを呼び収集が付かなくなりそうな所で一人の女性が体育館に現れた、不思議な事にその女性が現れた瞬間今までの騒ぎが嘘かのように静かになった。
「随分と騒がしいですね、何か問題でもありましたか?」
「が、学院長!それが…………」
どうやら教師の一人が学院長と呼ばれる女性に事のあらましを説明している様だ。
そして数分かけて説明を受けた学院長はある生徒へと歩みを進める。
「貴方がミミさんですね、少し私と話をしましょう、ここは騒がしいので場所を変えて」
学院長がそう言うと少女の近くにいた少年が前に出た。
「妹に何か用ですか?」
少年の目は学院長という人物を疑い警戒している。
学院長もそういう反応を予想していたのだろう、彼女は眉一つ動かさず会話を進めていく。
「貴方達がミミさんの兄弟ですか、丁度良い貴方達もついてきてください、妹が心配なのでしょう?」
その言葉を聞き少年少女達は互いに目を見合わせ妹である彼女に付き添う事を即断する。
「では、早速私の部屋へ行きましょう『転移』」
学院長がそう唱えるとそこにいた八人の姿と学院長は一瞬で煙のように消えた。




