閑話 アンクの冒険譚ー4
遅くなりました|ω・`)
僕達は早速ギルド長であるファーゼラスから受け取った紹介状を頼り、家を紹介してもらった。
僕が出した条件は三つ
一、治安がいい事
二、風呂とトイレがあり清潔な所
三、広い事
この三つの条件は多少値段が張っても譲る訳にはいかなかった。
生活環境が悪いと兄弟達の成長に悪いと思ったからだ、それに何かあれば十六夜さん達も使うかもしれない、そう考えると下手な家を選ぶ事は出来なかった。
そして今僕達は新居の前にいる。
「すごーーい!!!」
ミミのシンプルな感想は僕達兄弟全員の想いを代弁していた。
外観はまぁ、普通に貴族の住む屋敷です、本当にありがとうございました。
大きな鉄の門に、扉まで続く青々と生い茂った芝生と美しい花々、そして派手過ぎず地味過ぎない屋敷の外観は造り手のセンスが感じられる。
広さは恐らく五十人以上余裕で住める余地がある、平民の僕たちからすればとんでもない物件なのだ。
お値段はなんと金貨五千枚、十六夜さんから頂いた金貨がほとんど底を尽きてしまった。
ファーゼラスから受けた冒険者の話を断ったが思いのほか早く冒険者になって働かなくてはいけないかもしれない。
「さて、とりあえず家は確保できたしみんなはゆっくり休ませるか」
僕は僕で済ませておかないと事を処理するとしよう。
兄弟達を家の中に入れ軽く身の回りの整理をさせた後、食事と風呂を用意し先に済まさせた。
食事は簡単なものだったがやはり調理場があるだけで全然違う、旅暮らしの時は必要最低限な調理しかできなかったけどちゃんとした調理場があると全然違うものだ。
お風呂は凄いの一言だった。
レンガで組まれた浴槽はかなりの広さがありやはり作り手はセンスがある。そして湯を張るのは全て魔道具がやってくれる為僕がやるのは魔道具の電源に魔力を込めるだけだった。
お風呂から上がったみんなを寝かしつけた僕は一人家の外に出る。
「さて、とりあえず安全面の強化から始めるか」
僕は口笛を吹き外に待機させているワー・ウルフを呼び出す、魔物使い特有のスキル『呼び笛』だ。
このスキルは他の人間や魔物には聴こえない、ただの風音に聴こえているだろう。
数秒後ワー・ウルフは外壁の上から跳躍し我が家まで飛んできた、因みにもう夜中なので人目に着くことはない、万が一人目についていたとしてもこれを見ればワー・ウルフを飼っているなんて思わないよね。
「『変化・縮小』」
僕がそう唱えるとワー・ウルフは見る見るうちに小さくなっていった。
大きかった体は見る影もなく、今は犬程になりフーフー言いながら尻尾を振っている。
「よし、これでいいね、とりあえず今日は適当に寝ててよ明日家を作るから」
僕が頭を撫でながらそう言うとワー・ウルフは嬉しそうにしながら目を瞑る。
こうやって見ると本当に魔物には見えない、ただの犬だ。
手を離すと少し名残惜しそうだったが、ワー・ウルフは庭へと走り去った、今日の寝床を探しに行ったんだろう。
「これでこの家に番犬が出来たわけだ、後は結界を張って終わりだね『千変万化』」
僕は『千変万化』を四つに分け家の四隅に突き刺した、その瞬間蒼白い光が我が家を包み込む、これで結界の完成だ。
「本当に凄い…この短剣は万能過ぎる…十六夜さんには頭が上がらないなぁ」
未だにどう言った仕組みか分からないけど……
「次は兄弟達の望みを叶えにいきますか、確かあっちだったよね」
僕は門を出て一等地に高く聳え立つ建物へと足を進めた。
★★★
歓楽街以外の場所は既に灯が落ち静寂に包まれている、人通りの無い路地裏などではもうほとんど音は聴こえない。
そんな中僕は等間隔に配置された街灯に照らされながらとある場所へと向かっていた。
「入学受付は年中無休、時間指定無しで合ってるよね、やっぱり魔法に対する力の入れ方が凄いねこの国は…」
一枚のパンフレットを読みながら僕は独り言を垂れ流す。
魔道大国なんて謳ってるぐらいだし当たり前か。
「マーリン魔術学院……えっとなになに、マーリン魔術学院とは古に名を馳せた『大賢者マーリン』の後継を育てる為の学院である、か随分と大雑把だな。入学条件は魔力がある事、魔法が使える事まぁこれは当然か、しかし王族、貴族は試験がパスされる。おいおい権力乱用も良いところだ……平民は実力が無ければ入学は認められない…となんとも分かりやすい構図だね」
それに平民の試験合格ラインはかなり高めだ、振るいにかける意味もあるんだろうが……
「さてさてどうしたもんかな」
兄弟達は少なからず魔法の才能を持ってはいるが、それが試験に通用するかは分からない。
だがこれをパス出来ないようじゃ十六夜さんの隣になんて到底辿り着けない、こればっかりは兄弟達を信じよう。
その為のお膳立ては兄の僕の役目だ。
「頼れる兄になるのも大変だね」
僕は目頭を抑えながら<マーリン魔術学院>へと足を早めた。
★★★
<マーリン魔術学院>学院長室
「ファーゼラスそれは本当なのですね?」
豪華絢爛とはかけ離れた質素な部屋に二人の男女がいた、一人は<魔道大国 マーレイン>の冒険者ギルド ギルド長ファーゼラスだ、その対面に座りファーゼラスへと鋭い目を向けるのはマーリン魔術学院 学院長ゼラ=ファウストその人である。
彼女はファーゼラスより年上の筈だが彼女の見た目は全く老いておらず、彼女だけ時が止まっている様だった。
「あぁ、彼は凄まじい逸材だよ…冒険者になれば後世に名を残せる、それに彼の兄弟達の魔法適性は頭一つ抜けている……実に将来が楽しみだよ、それに恐らく彼の兄弟達はここへ入学してくるだろうしね」
「そうですか……少し興味が湧きました、今年こそ現れるといいのですがね、大英雄…いえ大賢者と崇められた主の後継が……」
ファーゼラスはゼラの悲しげ…いや寂しげな顔を見て苦虫を噛み潰したような顔をする。
「ゼラ……」
「その様な顔をしないで下さいファーゼラス、これは私の運命…そう、これがあの日主によって創られた私の役目なのですから」
「……そう言って何千年も耐えてきたんですね…やはり神などは居ない……彼がゼラの救いになればいいんですけどね」
ファーゼラスの独り言は誰にも聞かれることを無く虚空に消える。
だが遠からずこの独り言は現実になるだろう、アンクという少年と彼の八人の兄弟達によって。
★★★
マーリン魔術学院の受付で入学の為の書類を受け取り、試験当日の段取りを聞いた僕は帰路に着いていた。
「夜中なのに凄い行列だったな……」
そうマーリン魔術学院の入学受付は夜中なのにとてつもない量の志願者が並んでいたのだ。
入国待ちの列に匹敵する程だった……
「もう夜が明けそうだ、帰ったらすぐに朝食を作って必要な物を街で買い揃えないと…やる事だらけだな本当に」
街で買い物をしたらすぐにでも冒険者ギルドに行かないと駄目だな、あの爺さんの紹介状に頼りきりなのはどうかと自分でも思うがいかんせ人脈が無さすぎるからな。
「とりあえず僕は金を稼ぐ事に専念しよう、兄弟達が安心して学院に通える様に、ね」
言った通りやる事は多いけど今の生活は充実している、こんな生活には一生縁が無いと思っていた。
僕達の兄には本当に感謝してもしきれない。
そんな事を考えているうちに我が家へと着いた。
「ただいま、この言葉を言える家族がいる…それが一番幸せだ」
★★★
マーリン魔術学院へと一人で赴いた日から三日が経過し、マーリン魔術学院 入学試験当日。
「よぉーし、みんな準備はいいか?」
「「「「「「うん!」」」」」」
僕は兄弟達の元気一杯な返事を聞き満足気に頷いた。
「この試験で落ちる様じゃ絶対に十六夜さんの隣には立てない、それは皆分かってるよね?この学院ですら君達にはただの通過点で無くてはならない、僕達が目指しているのは雲より上の存在なんだから」
僕達が目指しているのは生半可な気持ちでは到底追いつけない、死ぬ気で死に物狂いでやるしかないんだ。
その為にはこの学院をも踏み台にして前へ進むしかない。




