剣聖
先に帝国へ入って行った十六夜君を追いかけてアーシャと中に入った。
するといきなり目の前に銀色の剣閃が走り僕の頭と首を分とうとする。
僕は咄嗟にアーシャを後ろへ庇い右手に【破壊】を纏う、そして右手でその剣閃を防ぎ手に沿わせて受け流す、これで恐らく相手が使っていた剣は使い物にならなくなったはずだ。
「ルーシーさん今何があったのですか?私の目では早すぎて追えませんでした」
「ちょっと物騒な人間に襲われただけだよ」
本当はちょっとどころではないんだけど……あの剣技昔見たことがある、それに最近も良く目にしていた。
そう、それは【剣聖】の技術だ昔見た初代剣聖よりかはまだまだ劣るだろうけど、まだユニークスキルの力を完全には引き出せていない十六夜君よりかは優っている。
僕が思考に耽っていると、目の前に黒髪黒目の青年が現れた、恐らく目の前にいるこの青年が僕を斬ろうとした現代の【剣聖】なのだろう。
「今のを防ぎますか……どうやらまだ力不足の様だ」
【剣聖】の青年は今の攻防だけで正しく状況を理解していた、現在の力では僕を倒す事はできないと。
それは確かに正しい、今の彼からはそこまでの危険さは感じない。それに僕は【不老不死】で死なない。
「でも僕が剣を使っても技では負けるかな」
「ルーシーさんがそこまで言うなんて……凄い人なんですね」
凄い人。確かにルーシーの言うように【剣聖】は人間だが、どちらかといえばこちら側の人材だ。
それに【剣聖】とは剣に愛されたものがなると言われている、そんな奴相手に剣技で勝てる道理はない、【剣聖】とは剣を使う者の憧れでありゴールなのだから。
「貴方程のお方にそこまで言って頂けるとは恐縮です、だがここから先は通せません自分は王の剣【剣聖】カルマ、命を賭してでもここで止める!」
その瞬間カルマが発する気迫が瞬間的に増大し辺りを飲み込む。戦闘において気迫なんて関係ないだろと思いがちだが実はそんな事はない。
考えてみてほしい、気迫が強く死に物狂いで襲いかかってくる敵と、全くやる気が無く戦闘を怖がっている奴なら、どちらが手強く見えるだろう?
答えはもちろん前者だろう、やる気がなくても強い奴はいるだろう、だがそれは少数だ。
「あははは、これはいくら僕でも手を抜いたら腕くらいは持っていかれそうだ」
ルーシーの凄さを知っているアーシャからすれば、それだけで【剣聖】というのがどれだけ凄いか分かる。
化け物同士の戦いというのは、ルーシーさんとラファエルという大天使の戦いの様な事を言うと思っていたが、彼も充分それに届きうる化け物予備軍らしい。
「近接戦ではどうしても私は足手まといになってしまいますね」
アーシャでも近接戦でそれなりには戦える、それは雑兵やチンピラ、練度の高い兵士でも相手にはならないだろう。しかしそこ止まりだ【剣聖】などの高スペックな相手にはアーシャは足手まといになる。
まぁその分遠距離戦闘に関してはアーシャの独壇場だろう。
「ルーシーさん、ここはお任せします」
「ん?あぁ気にしなくていいよ。十六夜君も言ってたろ?人には得意不得意があるってさ、だから今アーシャに出来ることをやればいい」
私に出来ることをやる……それはなんだろう。
いや、迷う事なんてない、私がやるべき事は十六夜さんの役に立つこと。
「ルーシーさん、私は勇者の情報を集めてきます。帝国にも冒険者ギルドがありますし」
「気をつけて行くんだよ?」
「はい!【時空魔法・転移】」
そう私ができるのは今それくらいしかない、私は私に出来ることを全力でやろう。
★★★
「錬金・砂鉄剣……ふむふむ、砂鉄で作った即興の剣にしてはちゃんとしてるな」
まぁただ砂鉄を固めた剣ではない、刀身を小刻みに振動させ斬れ味を高めている。
正直言って原理は知らない、テレビで見た事をそのままやっているに過ぎないからな。
「よし、とりあえず動きを封じさせてもらうぞ」
俺は四人の手足を切り落とす為に真っ直ぐに突っ込んでいく。それに合わせて和奏、西条、聖夜、山岳が迎撃してくる、だが奴らに連携なんて皆無だ。
「………っ!?」
連携のないバラバラの攻撃を避けて近づいて行くのは容易過ぎる。相手が大天使だったりするとまた話は変わってくるが、相手は中堅の勇者だ今更手こずったりはしない。
「さて、先ずはお前からね」
俺はとりあえずインテリ眼鏡である山岳を狙って剣を振るう、狙うのはもちろん手足だ。
砂鉄剣で皮を破り肉を断ち骨を割る、やっぱり人間の体は壊れやすい。
正直今更噴き出す血を見ても何も思わない、精々おぉ結構な勢いだなぐらいにしか思わない。
「へぇ、洗脳されてる間は痛みを感じないんだな」
俺は手足を落とされて血を吹き出していながら呻き声の一つも上げない山岳を見てそう結論を出す。
火炙りにする時は洗脳を解かないといけないのか、まぁそれは【大賢者】なら可能だろう。
「さて…ん?なるほど、洗脳中は恐怖なども反映されないのか。ただ生物の本能的なものは機能してるんだな」
いくら洗脳で感情や痛みを消しても、体の奥深くに刻まれた生物として感じる恐怖は消せないらしい。
命を刈り取られる恐怖、今それを奴らはダイレクトに味わっている。
「次はお前だ、聖夜」
俺は膝をガクガクと鳴らす聖夜に狙いを付け一足飛びで近づく、聖夜は当然避けようとその場を飛び退くが……そんな距離じゃ足りないぞ。
そして、目の前に捉えた俺は山岳同様に先ずは手を切り落とし足を膝下から断ち切った。
聖夜は痙攣しながら地に伏し、意識を手放した。
「よし二人目だ、次に行こう」
俺は顔についた返り血を袖で拭い次の獲物に眼を向ける。そして俺と眼が合った和奏は逃げ出した、これは予想に過ぎないが紅く光る【魔眼】が奴には恐ろしかったんだろう。
だが、そんな事は許さない、俺は咄嗟に剣を逆手に持ち和奏目掛けて投擲する。
物凄いスピードで飛んで言った剣は和奏の左太ももを捉え民家の壁に和奏を縫い付けた。
「おぉ案外上手くいくもんだな」
俺はそう言いながらジタバタと動き回る和奏に近づいて行く。往生際の悪い奴だ自分だけが逃げられるとでも思っているのだろうか。
和奏を先ほどの二人とお同じ姿にした俺は、唯一未だに戦意を失っていない西条を睨め付ける。
「よし最後はお前だ西条」
西条は額から脂汗を垂らし顔が青くなっていた、よく見ると聖剣を持つ両手も小刻みに震えている。
途轍もなく怖いんだろう、勇者という肩書きを持つ奴らが三人も瞬殺されれば確かに怖い、俺も同じ立場だったなら西条と同じ様な事になっていただろう、だが今は俺が狩る側の役割だ。
「行くぞ!」
その一言に肩をびくっと震わせながらも二本の聖剣を前に構えて迎撃の態勢をとる。
西条は逃げに転じなかった、それはすごい事だ絶対に負ける相手に向かうなんて事普通の人間なら出来ない、それに女子なら尚更だろう男子である和奏ですら逃げ出したのだから、だが勇気だけでは乗り越えられない事もある。
「……っ!」
「へぇ、まさか防がれるとは」
西条は俺が放った一撃を両手の聖剣をクロスさせ受け止めた、まぁその一撃で両手はズタズタになりだらりと垂れ下がっているんだが。
「でも次は無理だろ」
そして俺が放った二撃目をまた同じ様に防ごうとした西条は、口から血を吐きながら後方に吹き飛んでいった。
受け止めた時に聖剣は粉々になり腕は千切れ、民家の壁にぶつかった時に頭を打った様で気を失っている。
これで下準備は終わった、後は洗脳を解き殺すだけだ。
「俺も随分と勇者の仕留め方が上手くなったかな?」
俺は和奏達の絶望する顔を想像して満面の笑みを浮かべた。




