緊急勇者会議
いつもと同じく豪華絢爛という言葉が相応しい円卓を勇者達が取り囲んでいた。
今回はみな一様にピリピリしている。
そんな中で口を開いたのはまたもや望月 隼人だ。
「今日いきなり集まってもらったのはかなり重要な案件だからだよ、でもそんなに緊張しないでくれ」
爽やかな笑みは崩れていないが目が全く笑っていなかった。
「な、なんなんだよ、その案件ってのはさ」
その言葉に敏感に反応したのはクラスの中でも一際ビビリな小心 太郎だ、彼は他のクラスメイトのステータスと比べるとかなり弱い部類に入る。
それでもアースの住人とは天と地の差があるが。
「よく聞いてくれたね小心君、唯我さんと椎名君が死んだ」
「また、俺らのクラスメイト……」
「そうなんだよ、何故か知らないが僕たちのクラスメイトが狙われている、だからアシュレイに喜持君が死んだ後から探らせていたんだ、アルカディア周辺を。
なら面白い事が分かったよ、っと、答えを言う前に僕達を憎んでいる存在に心当たりはあるかな?」
終始ニコニコと笑ってはいるが、その笑みにクラスメイト達は恐怖を禁じ得なかった。
「あぁ?そんな奴腐る程いるだろうが、いすぎてわかんねぇよ、さっさと教えろ」
誰に対しても不遜な態度を変えない桜花は興味なさげにそう吐き捨てる。
「ねぇ、桜花君、今まではその態度に目をつぶってきたけど、そろそろ目に余るよ?
それに今回の殺しは君の不始末のせいだしね?」
瞬間部屋全体を濃厚な殺気が包みんだ、発生源は望月だ、望月の右手は腰に携えた一本の剣の柄をにぎっている。
「はぁ?なにいっ、て」
「霞 十六夜、君もよく知ってるだろ?」
桜花の言葉を遮って伝えられた名前は桜花が自分自身の力で虚無空間に飛ばした張本人の名前だった。
「っな!?………冗談だろ?」
望月の言葉と桜花の動揺に円卓に座っている勇者達の緊張はピークを迎え、『霞が!?』『生きてやがったのか』『俺たちもやばいんじゃ?』『殺されるの!?』など口々に不安を垂らし始めた。
パニックというのは伝染する、一人から始まったパニックはどんどん皆に伝染し、望月と桜花を除くクラスメイトのほとんどがパニック状態だ。
だが、そのパニックを打ち消す様に望月が掌をパーンと叩くと一瞬で部屋は静まりかえった。
流石の手腕である。
「はい、皆落ち着こう、今はパニックになって取り乱してる時間はない、早々に解決策を見つけないと、僕達全員死んじゃうからね」
「あれは嘘じゃないんだな?霞は本当に生きてやがんのか?」
桜花は未だに信じきれていない様だった。
「はぁ、疑り深いなぁ、ならこの映像を見るといいよ。これは唯我さんと椎名君が殺される時の映像、それとヨハンさんと天使と思われる少年が霞君と戦っていた映像だ」
望月が円卓の真ん中に置いた魔法球に映し出された映像は、勇者という力を超越し意味のわからない力を振るう十六夜の姿だった。
唯我と椎名が成すすべなくボロ雑巾の様にされ、惨めに惨たらしく殺される映像は他の勇者に『恐怖』を植え付けた。
「これで、信じてもらえたかな?喜持君も唯我さんも椎名君も、霞君に殺されたんだよ」
「………生きてやがったのか、霞……クソが!」
「ど、どうして!私たちが殺されなきゃならないの!」
一人の女生徒が上げた声に呼応する様に、『そ、そうだ!』『横暴だ!』『逆恨みもいいところだな』などの声が上げられる。
その声を望月は一言で両断する。
「復讐、だろうね」
「え?ふ、復讐?なんで?どうしてよ!私達何もしてないじゃない!」
人間というのは凄く醜い生き物だ。
特に自分の命や財産がかかっている時はそれが顕著に現れる。
「はぁ、僕達が霞君に何をしたのか、忘れたのかい?見捨てたろ?あの時、誰も助けようとしなかったじゃないか、そのせいで霞君の妹も殺されたみたいだし、ねぇ?桜花君?」
「そ、そんな……私死にたくないよぉ」
その女生徒は恐怖のあまり泣き出してしまった、まぁ無理もない、誰だっていきなり本気の殺害予告をされれば泣きたくもなる。
『なんで、俺たちがこんな目に』『畜生、やっと楽しくなってきたってのに』『これ、あいつのせいだろ』『そ、そうだ!桜花のせいだ』『あいつがちゃんと殺さないから』
人間の責任転嫁能力も大したものである、それに集団心理と言うのは怖い。
「黙れぇ!うるさいんだよ、雑魚が!」
「ねぇ、桜花君?この不始末の方はどうつけるんだい?」
そう問いかける望月の声は辺りの勇者達を黙らせるほど冷え切っていた。
「次こそは殺す、必ず殺してやる」
「できるのかな?君に」
今回の一件で勇者内の序列が大きくかわり、今まで上で踏ん反り返っていた桜花は勇者内の発言権を失う。
「出来なかったら、僕が君を殺すよ?これは僕達の計画の障害になるからね、黒表を更新しておかないとダメだね、最優先目標は霞 十六夜君で決定だ」
「分かってるよ、クソ野郎、だが時間が欲しい」
「時間?どれくらいかな?」
「わかんねぇ、とりあえず一年はくれ……準備せずに今のあいつを殺すのは絶対に無理だろうからな」
一年で何を用意するのかは知らないが、何かあてがあるのだろうか。
だが、桜花からは確かな自信を感じる。
「なるほど、一年か……僕は別に構わないけど、それまでにクラスメイトが一人でも残っているかな?
ふふふっ冗談だよ、まぁせいぜい頑張ってくれよ桜花君」
「……あぁ、分かったよ」
「よし、ならこれで解散にしよう。みんなくれぐれも殺されない様に気をつけなよ?多分隠れても逃げても無駄だけどね」
「なっなぁ、なんでそんな事分かるんだよ?」
望月の最後の言葉にまたビビったのか小心がそう聞いた。
「ん〜、僕達は有名になり過ぎた、ただそれだけだよ。つまり、隠れても逃げても知名度が邪魔して人に聞き込みすればすぐに見つかるって事」
「な、なるほど」
「だから、みんな気をつけてね?僕も自衛の為に色々と用意するかな、はぁ魔王退治に冒険者と本当多忙だ。じゃみんなまた会おう我らのーーー崇高なる目標の為に」
「「「崇高なる目標の為に」」」
意味のわからないセリフを言い終えた瞬間円卓から勇者達は一人を除いて消え去った。
「……霞…俺に恥をかかせやがってぇ!絶対に殺してやるから待ってやがれぇぇぇぇぇ!」
部屋に怨嗟のこもった声が鳴り響いた。




