関わり
青年は翌日、仕事が始まる前に前日にあったことを料理長に報告しました。料理長は話を聞いた後、しばらくは黙っていました。青年が罰を受ける覚悟であると口にすると、渋い顔で首を横に振りました。本来守主の世話を担当する給仕係の長にも報告をしに行くと、守主が拒んでいないのなら構わないと許可を受けました。本来は守主の部屋に立ち入ってはいけませんが、今回は緊急事態であったことが重視されました。なにより、守主が拒む存在ならば守主の部屋の扉は開けない、そういった魔法がかけられているらしく、青年が部屋に入れたのならば仕える者として認められている、と給仕長は言いました。けれどむやみに守主と会うことは好ましくない、と忠告を受けました。青年は頭を下げましたが、罰はないと知りほっとして、仕事に戻ります。
王族の朝食と昼食とを作り終えると、青年は守主のために食事を用意します。普段は王族の昼食から守主の分を取り分けていましたが、体調が悪い守主のために体に良いものを、と考えました。スープは昼前からじっくりと煮込んだもの、パンではなく穀物をやわらかく煮たもの、新鮮な果物を盆に並べ、蓋をするといつものように布でくるみます。
盆を抱えて外に出ると、雪は相変わらず降り続いています。青年はぶるりと体を震わせて、守主のいる塔へ向かいました。足は昨日の痛みを引きずっていましたが、つらいとも思わずいつも食事を届ける部屋に上がり、盆を置くと声をかけます。
「食事をお持ちしました」
かたん、と上の階で音がします。青年はほっとしました。なにも反応がなければ、食事を持って上に上がらなければならないと考えていました。もの音がしたということは、守主はもう動けるということです。
青年が、守主の部屋に上がる必要はありません。いつも通り、青年は階段の上の扉に声をかけます。
「今日はパンではなく穀物です。少し甘く味付けをしてありますから、きっとおいしいですよ。冷めないうちに召し上がってくださいね」
ぱたぱたと足音らしきものが聞こえましたが、守主の部屋の扉は開きません。青年は少しだけ寂しさを感じます。
昨日、守主さまとお会いできたのは本当に奇跡のようなことだったんだ。
本来なら、自分のような身分の人間が会える方ではない。
けれど、青年はふうっと息を吐くと口の端を上げました。自分はとても幸運だと、そうも考えるからです。
「薬、ちゃんと飲んでくださいね」
もう体がつらくないよう治っていればいい、と願いながら、足を庇いつつ慎重に階段を下りはじめます。
きっと守主は、食事を嬉しそうに食べてくれるでしょう。夕飯はどうしよう、と考えていると、少しの寂しさなどどこかへ消えてしまうようでした。
夕飯も消化に良く、体が温まる料理にしました。
青年は足に滅多に使わない温湿布を貼っていました。仕事中に痛みを感じ、無意識に足を撫でていたときに料理長がくれたものです。だから、少しだけ痛みがましになり、階段を少し早く上がれます。
三階には、いつものようにきれいになった皿と盆が置かれていました。青年はほっとして、自分の頬が緩むのを感じました。
「食事をお持ちしました」
上の階で音がします。
「穀物を煮て卵でとじたものと、鶏のスープ、果物です。果物は香辛料で煮てあります、やわらかくていいにおいがしますよ」
青年は昼の盆を抱えると、階段を下りはじめます。そのとき、上の階の扉が開く音がして足を止めました。振り返って見上げると、扉が少しだけ開き、そこから守主が顔を覗かせています。青年と目が合うと、ぱ、と顔を引っ込め、またすぐに顔を出します。
青年は驚きましたが、守主の元気そうな様子に微笑みます。
「もう、からだは大丈夫ですか」
青年が尋ねると、守主はじっと青年を見つめたあと、頷きました。
「よかった。食事を置いておきましたから、あたたかいうちに召し上がってくださいね」
守主はもう一度頷きます。青年は深く頭を下げると、階段を下りました。




