神さまのほんとうの恋のはなし
あるところに、ひとと共に暮らす神さまがいました。
神さまは四季をめぐらせ、きれいな花を、豊かな雨を、作物の実りを、美しい雪をその国にもたらしました。国のみんなが神さまを愛し、神さまも自然を愛する国民のすべてを愛していました。神さまはひとの輪の中で、ひとと同じように生活していました。
ある日、神さまはある人間と出会いました。
その人間は農業で生計を立て、貧しいながらも毎日を楽しみ、美しい国を愛している心優しいひとでした。
そのひとはなにかと神さまに気をかけました。
食べ物で困ってはいないか、家で修理するところはないか、服は解れていないか。
ふたりが関わる時間は長くなり、優しいそのひとと神さまは次第に心を通わせ、恋に落ちました。
ふたりは共に暮らしはじめました。
仲睦まじく、お互いを思い合うふたりは国中から祝福されました。人間の恋人と同じように寝食を共にし、喧嘩ひとつすることなく、毎日を過ごしました。
そのひとは春に咲く鮮やかな青の花がとてもすきでした。春が近付くと毎日のようにその花の話をするのです。だから、神さまもその花がすきになり、春を待ち遠しく思うようになりました。そして、春の花をより豊かにめぐらせるようになりました。
春には青い花を愛で、夏には湖で水遊びをし、秋には紅葉を楽しみ、冬には雪の中を身を寄せ合って歩きました。
毎日がきらきらと輝いているようでした。
ふたりが五度目の秋を迎えたころ、国で伝染病が大流行しました。新型の病で、薬も治療法もありませんでした。
たくさんの国民が病に侵され、命を落としました。
四季を司る神さまにはどうしようもないことでした。
神さまは悲しみ、毎日国民のために祈り続けました。寝る間も惜しんで祈るあまり、大切な恋人が病に侵されていると気付くのに遅れてしまいました。
神さまが気付いたときにはもう、手遅れでした。
医者は春を迎えるころ、別れを覚悟してほしいと神さまに言いました。
神さまは泣きました。なによりも愛おしい恋人が、死んでしまうのです。
神さまは国のために祈っていた時間を、すべて恋人のために費やしました。そのことをだれも責めようとはしませんでした。
日に日に弱っていく恋人の手を握って、神さまは泣き続けます。
泣きはらした目の神さまに、恋人は言いました。
もうすぐ、あの花が咲くね。また、あなたと一緒に見られるだろうか。
疑問のようで、答えを知っているような言葉でした。神さまは答えました。
あなたと一緒でなければ、あの花だって、この国だって、なにひとつ美しくなどない。
そのひとは悲しげに微笑みました。それ以上なにも言わず、ただできる限りの力で神さまの手を握り返しました。
神さまは悲しみ、嘆き、悩みました。
どうすれば恋人を救えるのだろうか。どうすれば、ずっと一緒にいられるのだろうか。
医者は春を迎えるころ、覚悟をしろと言いました。そのひとはきっとあの、あんなに焦がれた春の花を一緒に見られないと分かっているようでした。
ならば、春が来ないようにしてしまえばいい。
春が来なければ、あの花が咲かなければ、ずっと一緒にいられるはずだ。
それはとても悲しい勘違いでした。
けれど、神さまはそうするしかないと、本気で考えたのです。
神さまはその国のときを止めました。春が来ないように、冬のままにしてしまったのです。
これで、だいじょうぶ。
けれど、恋人は死んでしまいました。例え季節を止めようと、人間のからだは脆いものでした。
なぜ、どうして。
神さまは泣き続けました。冷たくなった恋人を抱きしめ、灰になった恋人を見つめ、ひとりきりになってしまった部屋に立ちすくみ、ただただ恋人が消えたという事実だけを突き付けられました。
神さまはずうっと恋人の記憶をたどり、思い出に浸り、そして泣きました。
深い悲しみに溺れるあまり、心が耐えきれなくなり、季節を止めたまま、天に帰って自分の殻の中に閉じこもってしまいました。
国民たちも悲しみました。だれひとりとして、季節がめぐらなくなっても神さまを責めたりはしませんでした。
そして、その国は冬が続く真っ白な国になりました。
神さまの悲しみはときとして、大雪を降らせ、家が崩れそうなほどの嵐を呼びました。人々は憐れみ、神さまの恋人を祀り、いつか神さまがまたひとの輪の中に戻って来てくれるようにと天に届くような塔をたてました。
恋人以外にも、神さまを思う人間がいることを忘れないでほしかったのです。
けれど、神さまの悲しみはその塔に強く降り積もるようになりました。国民の気持ちはとても嬉しいのに、塔を見ると、死んでしまった恋人を思い出してつらいのです。
ひとびとは、神さまがさみしくないように、悲しみが和らぐように、塔に降り注ぐ悲しみに耐えられる魔力を持った人間を置くことにしました。そのひとは、神さまの恋人と同じ髪の色と瞳の色をした、そのひとのきょうだいでした。
神さまは時折、話をするために天から下りてくるようになりました。
きょうだいは献身的に尽くしました。顔や表情はよく似ていたので、神さまは少しだけさみしさを紛らわせることができましたが、きょうだいが神さま以外と話をしているのを見るととてもつらくなりました。
あのひとと同じように、このひとも私のもとを去ってしまうのか。
今度は死ではなく、自分以外の人間を選び、自分のもとを去っていくというその未来を思ってさみしさを募らせるようになりました。
きょうだいは悩み、約束しました。
あなたが悲しむのなら、あなた以外とはことばを交わしません。私のことばはすべて、あなたに捧げましょう。
そして、きょうだいは神さまに声を捧げました。
その次に塔に来た人間も、さらにその次も、みな同じ選択をしました。
神さまは癒えない傷を抱いたまま、自分だけにことばを捧げそばにいてくれるだれかを望み続けました。
ただ、愛しい恋人との思い出を、だれかと共有したかったのです。
自分の悲しみで崩れそうになる、愛した国民が建ててくれた塔を壊したくはなかったのです。
そして、今でもその国は、冬が続いています。




