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あの後、ついついうたた寝をしてしまったリルフィはあまりにも時間がかかり過ぎた資料探しに官吏たちに思い切りお叱りを受けた。
そして近衛隊の先輩たちに正座をさせられ反省させられた。
足痛っー!
これは明日絶対浮腫むよ。
どうにか解放してもらえ、寄宿舎に戻ってきた時には食事の時間は終わっていた。
ご飯も食べ逃すなんて…。
寄宿舎ででる食事は栄養バランスが良く考えられてあって量も多くて美味しいのだ。
暗くなった食堂を横目に部屋に帰ろうとすると、前から見知った二人が歩いてきた。
サシェと…
「アイザック〜」
同じ五班のガルフ=キイゼイだ。
ガルフは三班の指導官をしているアルベルト=キイゼイの弟だった。
リルフィはキイゼイ男爵の次男でもあるガルフのことを同じ班になるまで知らなかった。
もちろんサシェは顔見知りだったみたいだが。
ちょっと気弱なガルフは平民出身の騎士訓練生たちの貴族への遠慮感に馴染めず、同じ班にサシェしか貴族子息がいなかったため、必然的にガルフはサシェと一緒に行動するようになり、サシェと一緒にいるリルフィとも仲良くなっていった。
今では大体三人で行動することが多かった。
「ご飯とって置いたよ〜」
包めるものしか持ってかえれなかったけど…とガルフの手には小さな包みを抱えていた。
「うそー!すごく嬉しい!貰っていいの?」
ガルフから小さな包みを受け取ると、暗い食堂に戻り、明かりをつけた。
後ろからサシェとガルフはついて来てリルフィが座った向かいに座った。
包みを開けるとパンが三個入っていた。
お腹が空いていたからとても有難い。
「それで?今日は何で居残りだったの?」
サシェはそれが聞きたくて仕方なかったようだ。
顔が笑ってる。
「今日、あまりにも天気が良いからちょっとお昼寝しちゃったんだよ。用事頼まれていたんだけど帰るの遅くなって反省さへられてまひた」
最後まで上手く喋れなかったのはパンを口に含んだからだ。
この空腹感。
お行儀が悪いなんていってられない。
「ね、寝た!?勤務中に寝たの!?」
ガルフにはリルフィの行動は予想外だったらしくすごい形相で見られた。
近衛隊の兄アルベルトを慕い、同じ近衛隊を目指すガルフには、勤務中に寝るなんて言語道断なのだろう。
「らっへ、まいにひまいにひくららないしろろはっか」
「なに言っているかわからないから食べ終わってから喋ってくれないかな。ゆっくりでいいから」
言われた通りしっかり噛み食べることに集中することにした。
よく噛んで食べると満腹中枢が刺激されるからパンだけでも満足することができる。
食べ終わるとタイミングよくサシェが飲み物を差し出してきた。
お礼を言い、ようやく落ち着くことができた。
「二人とも、食事ありがとう。さっきは『だって、毎日毎日くだらない仕事ばっか』って言おうとしたんだよ。官吏たちのお使いばかり、あれを持ってこい、返してこいの繰り返し」
「近衛兵の仕事は官吏の部屋の入口や近辺での警護じゃないか?」
とガルフ。
「あー。あの入口警護とかの時に着る鎧のサイズがなかったみたいで、着なくて良い官吏の部屋の中での警備してろって言われたんだよねー」
「でも雑用頼まれて昼寝しちゃうところは君らしいね」
「確かに。そんな図々しいこと出来るのはリルフィくらいしかいないね」
ちょっと、そこ同意するとこじゃないでしょ。
「サシェとガルフはどうなの?」
「僕ら?警護で色々勉強させてもらってるよ!ね、サシェ」
どうやら二人は同じところにいるらしい。
「明日はクロシアル公爵夫人がいらっしゃるらしいよ。それで今日は皆警備体制を見直しててバタバタしていたけど…」
クロシアル公爵夫人ってことは…母様!?
「何しに来るの!?」
「王妃とお茶をするらしいよ」
母上…アリエル=クロシアル公爵夫人は元々は現王の妹で同じ母親から産まれた血の繋がった兄妹であった。
兄妹仲も良く、王妃である兄嫁とも仲が良いため公爵家に降嫁してからも度々登城しお茶会をしている。
リルフィも幼い頃はよく一緒に連れていってもらっていた。
「公爵夫人の警護付いてみたいよね…。近くで公爵夫人見れたなんて皆に自慢できちゃうよ!」
「公爵夫人はいつ見てもお綺麗だよな。あれで子供が四人もいるなんて信じられない」
二人はアリエルを褒めちぎっていた。
確かにわが母ながら30の息子がいるとは到底思えない。
「へ、へぇー。二人とも頑張って」
自分には関係ないだろうとは思いつつ明日は接触しないように城内を歩くのを極力避けていこうと心に誓った。