第15話:負け方が違う
鳴神大迷宮、第二十層の最深部。
次層へと続く扉を塞ぐように鎮座する巨大な影の前に、Aランクパーティー『白嶺』の五人が展開していた。
標的は、この階層のエリアボスと目される未確認の大型魔物、『多腕の重魔像』。六本の腕にそれぞれ異なる形状の武器を持つ、物理と魔法の複合型モンスターだ。
「――陣形維持。一気に押し切るぞ」
リーダーの神代岳が短い号令をかけた瞬間、白嶺の五人は完璧なタイミングで動き出した。
前衛の重盾士がボスの六本の腕の軌道を完全に読み切って攻撃を受け流し、後衛の魔導士二人が詠唱の短い雷属性の魔法を立て続けに放つ。ボスの足元が凍りつき、動きが鈍ったその一瞬の隙を突いて、神代の剣が閃光のように装甲の継ぎ目を斬り裂いた。
後方の安全圏から、美琴と共にその戦闘を観測していた蓮司は、思わず息を呑んだ。
「すげえな……。付け入る隙がねえ」
圧倒的な火力と、寸分の狂いもない連携。これが「一回で決めるプロ」の戦い方だ。蓮司が数十回の敗北を重ねてようやく削り取るような敵の体力を、彼らはわずか数分で七割近くまで削り落としていた。
だが、ボスの残体力が三割を切ろうとした時、盤面に異変が起きた。
神代が止めを刺そうと、これまで最も有効だった雷属性を付与した剣撃を放った瞬間――ギィィンッ! という金属音と共に、ボスの表面に赤黒い魔法陣のシールドが展開され、神代の剣が完全に弾き返されたのだ。
「……ッ、何!?」
神代がわずかに目を見開く。
すかさず後衛が追撃の魔法を放つが、それもシールドに吸収されるように消滅してしまった。
「物理も魔法も通らないわ……! あれ、ダメージを無効化する耐性シールドよ!」
美琴が測量用のタブレットを見ながら焦った声を上げた。
「ただのシールドじゃない。あの魔素の波長……相手の使ったスキルを『学習』しているのよ。雷属性の魔法と、神代の右からの斬撃ベクトルに対して、完全にピンポイントで耐性が固定化されているわ」
「なるほどな。同じ手は二度通じないってやつか」
蓮司はノートに素早くペンを走らせながら、冷静に状況を分析した。
白嶺のメンバーは決してパニックには陥っていないが、最も得意とする戦術を封じられたことで、明らかに攻めあぐねていた。他の属性の魔法に切り替えようとしているが、一から詠唱し直すにはボスの六本の腕の反撃が激しすぎる。
「美琴、グラフを戻せ。シールドが切り替わった瞬間を全部だ」
蓮司は美琴のタブレットと、自分のノートの時刻を照らし合わせた。
最大威力の雷撃が入った瞬間には、波長は動いていない。白嶺が雷と右斜めの斬撃を同じ手順で五度繰り返した直後に、初めて耐性が固定されていた。
「こいつ、痛かった攻撃を覚えてるんじゃない。直近で一番多かった敵対行動を覚えてる」
「威力じゃなく、頻度……?」
美琴が表示範囲を十二秒に絞る。雷、右斜めの斬撃、雷、右斜めの斬撃。耐性が生まれる直前の入力だけが、露骨に偏っていた。
「十二秒くらいの短い記憶領域しかない。そこを別の動きで埋めれば、耐性をずらせる」
蓮司はノートを懐にしまい、短剣を抜いて物陰から飛び出した。
「神代、十二秒だけ同じ攻撃を止めろ!」
「真壁君!?」
蓮司はボスの側面に回り込み、硬い脚部へ短剣を突き立てた。刃は弾かれ、傷一つつかない。
それでも同じ角度、同じリズムで突く。二度、三度、四度。
ボスの六本の腕のうち二本が蓮司へ振り下ろされた。蓮司は籠手で軌道をずらし、また右脚へ突きを入れる。
「あと二回!」
美琴がシールドの波形を見て叫ぶ。
六度目。七度目。
赤黒いシールドが揺らぎ、雷への耐性を捨てた。代わりに右脚の前面へ、短い突きを弾くための物理膜が集中する。
「今だ!!」
蓮司が後ろへ跳び退いた瞬間、無防備になった背後から、神代の雷を纏った大剣が一閃した。
ドォォォォンッ!
学習を書き換えられ、本来の耐性を失っていた装甲が紙屑のように両断され、巨大なボスの身体が真っ二つに崩れ落ちた。
* * *
黒い灰が舞い散る広間で、神代は剣を鞘に収め、小さく息を吐いた。
そして、土埃を払いながら立ち上がる蓮司の元へ真っ直ぐに歩み寄る。
「……驚いたよ、真壁君。まさか戦闘中にあんな芸当をやってのけるとは」
神代は短く息を整えると、自分のタブレットから戦闘指揮権の共有欄を開いた。
「次に同種が出たら、最初の指示は君が出してくれ、真壁君」
「責任重いのは嫌なんだがな」
「十二秒で七回も同じ所を突ける男が言う台詞かしら」
美琴に返され、蓮司は短剣の刃こぼれを見て顔をしかめた。
「修理代が出るならやるよ」




