第2話 とらぶる
四大大陸のうちの一つであるウェストテール大陸、1000年前の大陸間戦争を勝ち抜き絶大な富と権力を得て、今なお四大大陸の覇者となっている。
その権力の中枢に位置するカテキン王国、この国の国王がすべてを得ると言われ、その座を巡って血で血を洗う権力闘争は今も続いている。
歴代の国王となった者たちが通った名門学園、入学するためには権力者のコネが無ければ叶わず、学園の敷地に入るだけで名誉と言われる程、それもそのはずである・・・。
その学園には次期国王も通っているのかも知れない、もし自分が次期国王に見初められたら、そんな思いを胸に抱き日々を過ごす乙女たちの花園。
乙女たちは世界中から集められた美しき宝石、そしてその宝石を求めて数多の権力者の子息が通い、また乙女たちも求める。
ここはすでに権力を得ようとする者たちの戦場である。
そして、そこに平民の少女が転校して来るという噂が学園中を席巻する、そして現れた少女は人々の目を引き、有る者は惹かれ、有る者は嫉妬した。
物語の歯車はすこしずつ動き始める・・・。
そして、この私がその歯車を嚙合わせる訳、今まで何回もやって来たから大丈夫。
今か今かと待ちわびていた所に現れた彼女は衆人の注目を集めるほどの美しさを持ち、すれ違っただけで私の彼氏を惹き付けてしまう、それに嫉妬した私が色々と画策をして、それがすべて露見してしまった私は学園を追放されて、なんと元彼は王子様だった、ってとこまでで良かったわよね。
「どうしたんだいぼーっとして、君も噂の彼女が気にかかるのか」
「はい、恥ずかしながらわたくしも気になります。いったいどれだけの努力をしたら、この学園に入れるのか、噂を聞いているだけでも尊敬してしまいます」
「確かにな、父も気まぐれが過ぎる。巡行先で見初めたと聞いているが・・・」
「ほほほ、まるでグリーン・T様の父上が入学させたみたいですわね」
しまったと言う様な顔をしたグリーン・Tは、照れ隠しに頭を掻きながら弁明している、大丈夫ですわ私は全部知っていますので。
そんな事を話していると、学園の大扉の周りにはいつの間にか多数の生徒が集まり、その扉が開かれる瞬間を待っている。
そしてその時が訪れた、内と外の両方に衛兵が配された大扉がゆっくりとそして地響きのような音を立てて開かれる。
眩しい日差しの下に、負けないほどの輝きを放つ少女、乙女ゲームの転生者、カレンがそこに立っていた。
・・・筈だった、そこに立っていたのは自信なさそうに背筋を曲げ、人々の視線を避ける様に下を向き、手入れがされていない事が一目瞭然の伸び放題の頭髪、ふくよかな胸を見せびらかすように歩いていても、その笑顔に視線を奪われる、そんな可憐なカレンがそこには居なかった。
ある意味衆人の注目を浴びた、この学園は権力者の巣窟である、少しでも隙を見せたら付け込まれる、ありもしない噂を流されるかもしれないし、僅かでも王子の耳に入ってしまい不興をかったら国に帰れなくなる、そんな事にばかり怯えて過ごしている生徒達は、見た目はとても美しく飾っているが、その中身はどす黒く汚れており、誰一人として信用を置いていない、それが真の姿なのである。
そんなところへこんな隙だらけの少女が入ったら、肉食獣の群れの中の小鹿の様に弄ばれ、そして喰われる。
どうしてこうなったのだろう、いつものカレンはとても美しく、一瞬で皆の注目を浴び、その日の内に何人もの友人が出来るはずなのだが、今の彼女にはそれは望めそうにも無い。
そして、親しくしているグリーン・Tが彼女に惹かれたために嫉妬する私も何も始まらない、つまり私は歯車にも成れないのだ。
「拍子抜けだな、一体何に惹かれたのか。時間の無駄とはこの事だ、行くこうかマリア」
「え、ええ、わかりました」
一目でカレンに惹かれるはずのグリーン・Tは一目で引いた、誰が上手い事言えと。
そうじゃ無い、それじゃあ何も始まらない。
さあ、どうした物か。
人々から目を逸らし、人々から目を逸らされるカレン、その傍らを行くグリーン・Tは彼女を一瞥もしない、すでに彼女は彼の眼には映っていないのだろう。
すでに石ころと同じ扱いになった彼女が、3年間で私から彼を奪い取るような事は出来ないだろう、それどころか彼女は3年間もこの学園に居ないだろう。
ならどうする、私はどうする。
視線を落としていたカレンが、隣を歩いているグリーン・Tに視線を向けた、そうだ、彼女は転生者なのだから彼が何者か知っている筈だ、ならばなぜそんな恰好で彼の前に立ったのか。
これから無為に3年間を過ごさないといけなくなってしまった事に苛立ちを覚えた私は、直接彼女に尋ねる事を決めた。
「強制停止」
これは私に与えられた権限、チート能力。
私と彼女以外の時間を止めて、直接のやり取りをする事にした。
突然の出来事に戸惑って辺りを見渡している彼女の目の前に立ち、その両目を見据えた。
「あ、あの、あの」
当然こうなるだろう事はわかっていた、自分と目の前に立つ私以外の時間が止まったのだから、
「あなたね、ここがどういう所だかわかっているんでしょう」
きょろきょろとしていた彼女だったが、次第に置かれている状況を理解し始めた様だ、
「わ、私は転生者で、その、この、お、乙女ゲーの、主人公、です」
「わかっているじゃない、わかっているのなら何でそんな恰好をしているの、ここでグリーン・Tに見初めて貰えなければ、ここから先何のフラグも立たないわよ」
「あ、でも、わたし、その・・・」
どうやら事の重大さがわかっていない様だ、私にとっては無為な3年間で済むが、転生者はこの3年間が最後の3年間なのだ、そこから先は・・・。
私は大きなため息を吐き、彼女の腰に両手を回す。
「あ、あの、私」
こしに回した手を強く抱き寄せた、身体が密着するが彼女と私の豊満な胸が無理やりに彼女の背中を逸らす。
「こうやって背筋を伸ばしなさい、今のあなたは主人公なのよ」
耳まで真っ赤に染めた彼女は私の唇から逃れる様に顔を逸らしている、か弱い両手で抵抗されても跳ね除けるほどの筋力は備わっていない。
左手一本で彼女の腰を抱き寄せたまま、彼女の手入れのされていない前髪を搔き上げた。
ぱっちりとした瞳に整った鼻筋、みんなが一目惚れしてしまうのも頷けるほど、美しい咲きかけの花がそこに現れた。
「ほら、とっても綺麗」
「あ、いや、そんな事、無いです、あ、あなた、あなた様に敵いません」
「何を言っているのかしら、カレンには私の美しさも敵わないわ。もっと自分に自信を持ちなさい」
「は、はい」
目をそらしたままだったカレンが私の方を向いて返事をした、そんな姿がとても愛おしく吸い込まれそうになるのを自制して、
「このゲームは学園編から始めれる事は知っていますが、幼年編の過酷な幼少期を経て得られる美しさが有るのですよ。転生前の幼年期にトラウマが有るのかもしれませんが、そこから目を背けていては転生した意味が有りません、良いですか、きちんと最初からやり直して下さい。良いですね、いつまでも私は待っていますからね」
そう言うと私は左手の力を抜いた、しかしカレンは私から離れなかった。
「本当に、待っていてくれますか」
私の眼をしっかりと見据えた彼女が絞り出すように聞いて来た、私は大きく頷き、強制停止の終了を告げた。
「どうしたんだいぼーっとして、君も噂の彼女が気にかかるのか」
「はい、恥ずかしながらわたくしも気になります。いったいどれだけの努力をしたら、この学園に入れるのか、噂を聞いているだけでも尊敬してしまいます」
「確かにな、父も気まぐれが過ぎる。巡行先で見初めたと聞いているが・・・」
「ほほほ、まるでグリーン・T様の父上が入学させたみたいですわね」
しまったと言う様な顔をしたグリーン・Tは、照れ隠しに頭を掻きながら弁明している、大丈夫ですわ私は全部知っていますので。
そんな事を話していると、学園の大扉の周りにはいつの間にか多数の生徒が集まり、その扉が開かれる瞬間を待っている。
そしてその時が訪れた、内と外の両方に衛兵が配された大扉がゆっくりとそして地響きのような音を立てて開かれる。
そこには美しく咲き誇る可憐な花が咲いていた。
「なんて・・・、美しい」
グリーン・Tの言葉を聞いてようやく私も歯車を動かせますわ、表情を作って、
「あら、噂程では無いのでは無いかしら。それに、何か、変ですわ」
グリーン・Tを真っ直ぐ見つめていたと思っていたカレンの目線が、私を追いかけている事に気付く。
そして、あっという間に私の胸に飛び込んで来たカレンは、
「待っていてくれたのですね、再びあなたに会うためにどれだけ私が頑張ったのか。私が、教えてあげますわ」
そう言った彼女は私の両手をしっかりと掴み、振りほどこうと藻掻いてみたけれど、力強い彼女の手から逃れる事は叶わず、ほぼ全校生徒達に二人のただならぬ関係を見せつけてしまった。
一体、私はこれからどうすれば。




