第3話 千年の想い
「強制停止」
二進も三進も行かないために、私は伝家の宝刀を抜いた、抜いたはいいが時間は止まらなかった、
「えええ、どういう事ですの、チート能力が使えませんわ」
あたふたする私と、そんな私をにこにこと見つめているカレンがゆっくりと上を向いた、何かが有るのだろうか、私の背後から聞きなれた声が聞こえて来た。
「あらあら、どうやら私の権限も乗っ取られちゃうみたいね」
「え、それってどういうことですの、時間停止は、時間停止は出来ないのですか」
全力で藻掻いてみてもカレンのグリップから逃れられる気配はない、その上私たちが持っている権限まで奪われると言うのはどういう事なのだろうか、
「あんまり暴れない方が良いわよぅ、周りから変な目で見られちゃいます。うーんと、詳しい事はカレンちゃんに聞いてね、私の出来る事は無くなってしまったようだから、無事に帰って来る事を願っていますね」
「あ、ちょっと。無事にって、もうすでに無事では有りませんわ」
「大丈夫ですよ、3年経てば卒業です。そうなったらそれ以上はゲーム出来ませんから」
「それってつまり、3年間はこのままって事になりますわよね」
「はい」
満面の笑みのカレンを見ていると心が蕩けてしまい、全身の力が抜けて行くような不思議な感覚にとらわれてしまう。
これはいけないと意識を強く保ち、目を瞑り資格を遮断する、するとどうだろう、甘美な管弦楽器が奏でられた様な美声が脳を溶かし、鼻腔をくすぐる心地の良い香りに腰が抜けてしまう。
「今の私はステータスMAXですから、これだけ抵抗できるのもマリア様だからなのですよ」
薄目を開けて再びカレンの顔を見た、初対面からは考えられないほどの自信に満ちた笑顔、本来の彼女の顔では有るのだけれど、ここまで成長して戻って来るなんて。
「一体何がカレンをそうさせたのですか、そこまで鍛えなくてもゲームクリアは出来るでしょうに」
「100回」
「?」
「100回幼少期を繰り返すと、デバックモードが追加されるのです」
「それは・・・知っていますが、ステータスがいじれるようになるだけで、ゲームが詰まらなくなるだけでは無いですか」
「それが、ステータスが最低値のまま条件を満たすと、攻略対象がすべて解除されるのですよ」
「・・・!」
「ご理解いただけましたか」
「そうは言っても、その為に10年もかかる幼少期を、100回も繰り返したのですか」
「当たり前じゃ無いですか、たったの千年です」
「それは私たちの様な存在でしたらその言葉も頷けますが、あなたは単なる転生者でしょう、とても普通の人間には耐えられない筈です」
「そんな事は有りませんよ、一人の人を思い、その為だけに日々を過ごしていたら、どれだけのひどい仕打ちも、折檻も、拷問も、死ぬ様な恐怖も、実際の死も、すべて乗り越えられます」
カレンの言葉を聞いて抵抗する力を抜いた、それと同時にカレンも握っている両手の力を抜いた。
「ごめんなさい、あなたがどんな思いでここに戻って来たのかわかりました。そして戻って来てくれてありがとう、あなたにとって、とても大切な3年間を、どうか共に過ごさせて下さい」
私の言葉に満面の笑みを浮かべていたカレンの両目は涙を浮かべ、美しく整えられた髪がくしゃくしゃになる程取り乱して大声を上げて泣き始めた。
どうやらこれが私にとっての正解フラグだったようだ、泣き止まぬカレンを胸に抱き、あっという間に終わるはずだった3年間を、カレンと共にのんびり過ごす事に決めた。
「な、なあマリア、いったいこれはどういう事なんだ、二人は知り合いだったという事なのか」
最重要攻略対象だったグリーン・Tが、ようやく口を挟んで来た。
正直まだ居たんだ、と言う感想だが、一応次期国王候補なので無下にも出来ない。
と言って肝心のカレンの興味はグリーン・Tには無いだろう、かと言って私が攻略する訳にもいかない。
大切な私との時間を邪魔にされた怒りなのか、泣き止んだカレンがグリーン・Tを睨みつけた。
そこは流石にステータスMAX、グリーン・Tは一目カレンを見ただけで好感度が振り切ってしまったようで、頬を染めながら目を逸らした、
「話しかけないで下さらないかしら、モブのくせに」
違う、それは違うわ、カレンのやっているゲームは、私が知っている物とは違っている様だ。
はっきりと拒絶されたグリーン・Tは肩を落とし、とぼとぼとどこかへ行ってしまった、一応、設定では私と付き合っているという事になっているので、少しだけ、ほんの少しだけ同情した、だってゲームの設定とは言え馬鹿なんだもん、彼。
「それでは私は職員室に行ってまいります、これでも私、転校生なので」
いたずらっ子の様な笑顔に変わったカレンが舌をぺろっと出して駆け出して行く、そしてその背中を眺めながらこれから起こるイベントを思い出していた、ああ、私の計画もすべて練り直しね、でも、少しだけワクワクしているわ、だって今までとは違う3年間が待っているのだもの。
煮え湯を飲まされて追放されるだけの3年間では無く、二人してアフタヌーンティーを飲みながらおしゃべりをして、特に何事も起こらず、起こさせず、強制フラグに追われる事も無く、邪魔なフラグはすべて叩き折り、無為に過ごす3年間。
その為だけに千年の時を費やしたカレン、彼女は学校の卒業と共にデータの波に消えて行った。
「お疲れ様、どうだった、楽しかったかしら」
「そうね、あっという間だったけれど、とても楽しかった・・・気がするわ」
「あら可哀そうに、気がするで済ましてしまうの」
「だって仕方ないじゃない、私たちには時間の概念が無いのだから、3年間も千年間もあっと言う間よ」
私はそう言って透明なコップの中身を飲み干した、煮え湯でも無くアフタヌーンティーでも無いそれはとても味気ない物だった、
「それじゃあ次に行って貰うわね、あと、なぜかチートスキルが使えなくなってしまったので気を付けてね」
「どうして、あの世界はもう無くなっているでしょう」
「それがどうもおかしいのよ、あなたの名前もマリアから変更できなくなっているし」
「まあいいわ、名前なんてどうでも、それじゃあ行ってくるわね」
「ええ、いってらっしゃい」




