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「いや、つーかさ」 


一仕切りに逸らしたるや、弛緩の糸を巻く間投詞。

無季の然もありなん。回顧のぼやきを仕舞いたりて、気を取り成さんと語尾を打ちたれば、頬杖に顰めをこしらえたり。


「さすがに遅くね?」


「出てこないねー」


些か副次の感にて、眼下のテーブルを咎み始めんは、潮目の改まり。これに背乗りて言を連ねし、内省さんの躊躇知らず。

余すところ承知を伸び広げたる口元に蓄え、敢えて「何が?」と無粋に問わぬは流石とも言えよう。


「混んでるのは分かってんだけどさ、それにしてもどうよ?」


横目そろりに映りし陽炎、犇めきなり熱量に老若男女の肩が揺れ動く。

頃合いにして四方の勢いたらんや、まさしく盛りの刻。如何に陰の片隅へ籠れとて、この活況たるを知らぬは通らぬ。

況して斯くなる盛り場に瑣末の苦言、野暮は重々承知ながらも、其れは其れがまた人情。


「やっぱさぁ、お代わりが来てもツマミがないと……」


これのみ放ちに置きたるは、せめてもの彩り故か。

右手の示指にて軽くと小突きたるは、リーフグリーンの莢を盛られし手元の小鉢。凌ぎの任を果たすも適わずば、悉く殻となりて久しき、お通しなる枝豆の塚。

酒も無しや、肴も無しやの閑散たるテーブル。此れでは不承積もりたりとて御尤もなり。

一献の流儀も様々なれど、やはり酒肴揃いての満悦こそが、無季の正道である。


「待ち遠しいね、サラダと若鶏の唐揚げ」


「……まあ、そうなんだけど」


内省さんの扇ぎ立て、察しに抜かりなき。

壁一枚隔てし厨房へと思いを馳せたる、無季の待ち侘びん恨めしき。さらりと宥めたれば、不意の思惟もころり転げて、おぼろなり風味の覚えに涎も艶にて滴らん。


「そうなんだけど?」


佳肴に想いを更けたり、無季の唇が狭間。堪えかねに這いたる舌を覗かせつつも、余韻に逆接を濁して悦を唯諾々と楽しまぬば、内省さん此れを問うは抜かりなき。


「…………いや、揚げ物は避けるつもりだったんだよなぁ」


「随分と悩んだもんね」


泡沫の弛みに仄めかしたるは、七転八倒の果てに後を引きし、無季の心残り。

思案の迷路に余すところ付き添いけり、内省さん。温顔微笑に侍りて含蓄ほのかと漂うは、事情通でございますの如く。


「こんな筈じゃなかった、つーか、誘惑に負けた、つーか」


つーか、つーかと繋げし遁辞。

自戒の核たる名詞句、巧みと濁すは告解もどき。享楽なる断頭台へと押し上げん些細なり堕落に、舌先三寸ほどの悔みも見当らず。


「いつもの『今日は特別』だね?」


斟酌繕いの気も無し。仁慈厚塗りの淑やかなり揶揄から透けるは、内省さんのしたり顔。

確と心得たれば殊更言わずもがな、無季の特別。

己が便宜の繰り言なるを承知なれば、此れを婉曲たるに掘り下げんは御免被らんと言わんばかりに自嘲の舌を打つ。


「食べたいてことは身体が必要としているからなんだよ」


己が弱さも渇きたれば、脂もまた癒しにならんや、無季の強弁。居直り胡坐に詭弁も過ぎしの感あれど、視座も改めば侮るべからずと言わんばかり。

あしらい手練れに軽々なり自欺を笑いて弄しも、ぱっちりアイメイク更にと見開き、異論認めずの圧を掛けん。


「それじゃ仕方ないね」


「仕方がないのさ」


内省さん、和顔愛語に詮なき含意の尾を当て擦り。

牽強付会にひと先ずの体面を与えたれば、無季も此れ幸い。渡りに船とばかりの折衷案。

斯くも斯く斯く。此処へ至りて覆水盆に返らず。後は慎ましく座に腰を据えしのみ。

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