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うざいものには蓋をした。
私は肩に一区切りの息を乗せると、背もたれを押すように両腕をグッと伸ばす。卑屈に丸まった性根がミシミシと伸びていくようで実に心地良い。
何はともあれ、そんな訳のこんな訳。今夜は、いや今夜もグダグダを放り出して趣旨へと回帰。
『carpe diem』今は今を楽しむだけのこと。とにかく憂さ晴らし、憂さ晴らしの玉帚。
後はお楽しみである唐揚げを待つばかりなのだが……。
問題はショールームのテーブルでも飾るような空っぽのグラス、これではフィナーレも迎えられない。
私は神妙な顎を肩に寄せると、テーブル端に置かれたドリンクメニューへと視線を流す。
いやいや、チョイスは既に決まっている。これは儀式、お膳立て。葛藤に形を添えないと私の中でもバツが悪すぎるのだ。
(やっぱ、唐揚げには生ビール、だな)
メインディッシュを飾るに相応しい取り合わせ。
さほど入れてない胃も間延びしてシラけてきた頃ではあるのだが、今から滴る脂との相性を期待せずにはいられない。
お腹の張りが少々気掛かりなのは事実……なのだが、ここまで来たら悔いのない演出で締めたいのも人情。
そう、こんな風に吹っ切れる私はまだ若い、若いのである。
(さて、注文を……)
我田引水の感があろうとなかろうと、決したからには仕方がない。
ポキポキと軋むような卑屈の背筋を逆ぞりに伸ばし、身軽になった怠惰を前へと起こす。
あら不思議、よそ行きの顔が自然と整った。
出来ることなら先程の男の子を……などと選り好みはさて置き、この際は呼び止められるなら誰でも御の字。
ピンと背を正して店員を探す様は、まるで巣穴から顔を出すミーアキャット。活況の視界が一気に広がる。
(つか、めちゃ混んでるし)
見覚え有りも無しも関わらずの光景と言うべきだろうか。
さながら明順応に沁みるようなパノラマ、見ていたつもりで見ていなかった雑踏の店内。
夕映え色へと染まった空間を蒸し上げる喧騒のうねりは、この小さな宴の存在を否定でもするかのよう。
(嗚呼、路傍の石、いや空気か)
こんな片隅の席とはいえ、独りで居座っている自分が何だ申し訳なく、むしろ情けなくすらも思えてくる。
どうしたことやら、今夜の疎外感。独り飲み熟練者としての自負が揺らぎそう。
(注文しないの?)
見失いかけし目的を揶揄せんノイズ。
こそばゆくも鼓膜の内より響くは、散々と聞き慣れし小憎らしき囁き。意思表示を掲げんと心待ちにしたる右手を介し、隙あらばのお節介。
……いやいや、たかがこれしきにアンタが出しゃばる幕など無い。
(するに決まってるじゃん!)
奮起に流れたつもりはない。
それは偶然の当てつけ。これ見よがしと言わんばかりに眼前を横切っていくのは、先程の若い店員。
私は好機の風に舞い上げられたタンブルウィード。彼を呼び止めようと掲げる右手、根無しの腰が座板から浮く。
これが不味かった。




