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「ゲホッ!ゲホッゴホッ!」
不意を喰らいて噎せたり、敢えて「」に閉じたるは、無季の声なき苦悶。
喉を潤したらん歓喜、悪戯の拍子得たりて凶器へと一転。気管を裏返さんや、激しき咳の洗礼に止め処とて非ず。
体幹も前屈みに揺れたりて、思わずも強く覆いたる左手がフェイスマスク。鼻孔を抜かん苦痛の細目に浮かびし不覚の涙、左の甲より望めたり。
(ちょ、……最悪)
ひとしきり嵐に耐え忍びて整えたり、無季の片息に揺れる肩。
飄々なる眼前の厚顔さておき、草臥れ顰めし形相にて困憊の目を凝らしたり。ひと先ずはさらりと辺りを流さん自意識過剰。
注視を寄せたる気配無きこと見定めたりて、人心地もようやくかな。
「あーっ、もう!」
継ぎ接ぎの息もようよう収まりて一言に込めたり、向っ腹のきまり悪さ。
俄かに右肩深く屈みてテーブルを潜りし、無季の手先。足元狭きハンガーに揺れるバッグを掴むや、膝へと運びて片手巧みに取り出したるは、ウェットティッシュ。
暫し非公開と伏せんは表層を抜けし紅潮の面。
口元を解き放ちたり左手が掌中、早々と拭きたれば然程の紅とて非ず。食前の抜かりなきティッシュオフ、甲斐があったというもの。
「やれやれ……」
だだ漏れしき殻声の安堵なれども、無季は未だ肩を窄めに俯きなるを崩さぬ構え。諸手も随意と、次いでバッグの中を弄りしや、取り出したるはスマートフォン。
己が面へと起動させしインカメ、鏡仕立てにて覗き込むは、気にぞ掛けど気乗りに欠けし化粧の糊。
上下左右にステップ踏みたるレンズと顔の連動。口元は言わずもがな、手が触れに触れしキャンバスの全容、この際は入念なるチェックに怠り非ず。
(…………ま、こんなもんか)
気概ようよう上げたり、事案を押し殺したる面目。万全とは至らずも折り合わんや、急ぎてのお直し不要を見極めしかな。
「はぁーっ」
平静を得て再び差さんは情調の照明。無季に疲労の影を落とさせしや、への字の隙間から漏れんは嘆息ひとつ。
眼前の辟易へと一睨。斯くも不意打ち喰らいては苦言のひとつも沸きたれど、空虚なる奔放に地団駄踏まんは馬鹿らしき。
「チッ!」
舌こそ鳴りとて事は鎮まりたり。含みも敢えて飲み込みたれば場もさて置かん。
無季の窮屈なる膝上、バッグもいよいよ負担となりたれば、改めて足元のハンガーへ掛け直さんと天板に添えし左手。身体を大きく右に傾斜させん。




