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「まあいいや、明日から本気出すし」
「つか、今日の分もまとめてマイナスにするし」
無季の右手が握り締めんや決意の拳。至難の立志、鼻息も荒きに掲げたり。
いやはや、結構の至りにて叩きたる大口。まさに大阪の城も建つ勢いなれども如何せん。
明日やろうは何とやら、期待へ繋ぎしワードに非ずは自明の理。
「今度は本気だから!明日からまた通うし!」
本気の安売りに飾り立てし奮起とは裏腹に、無季の眼にまめやか非ず。砂上の楼閣、返りて晒したるは場凌ぎの打算。
内省さんの傾聴、口角に弧を描きとて冷やかなる注視が痛し。
「さいきん足が遠いもんね、フィットネスクラブ」
月極会費は壱萬五千円也。
未だ出来しに間もなく、真新しき施設の清潔にして快適たるや。トレーニングジムはいうに及ばず、プールに各種スタジオレッスン、スパに岩盤浴、さらにエステ (別会計)も完備なり。
決意を形より入りし者にはうってつけ。フル利用可なる贅沢プランに加入して数ヶ月は経とうか。
当初は日課の如く、意気軒昂に足運びては汗を流したれど……。
「いやぁ、行こう行こうとは思ってたんだけどさぁー」
弁じて引けたる腰からもお察し。何時しか情熱たる高揚感も過ぎ去りて、単に元を取らんが為の義務感へと竜頭蛇尾。
後は低きに流れて、内省さんのご指摘がまま。投資が投棄とは勿体なき話である。
「ほら、だって最近忙しかったしぃ。あの子のせいで残業とかもしてたしぃ」
ならば今宵こそは行けしものぞ、と正論当てつけんは容易きなれど、熱意なき者に合理は働かぬものなり。
「これって不可抗力、つーか、仕方ない、つーか」
見苦しきかな言い紛い、我に言い伏せんと縦に振りたる軽き首。
とは申せ、皆目詭弁とばかりに断ずるは如何なものか。些細なりも口実を得たが故に、モチベなるもの崩れたるが正鵠を得ているやもしれず。
「とにかく!明日から頑張る、マジで!」
壮言らしき語勢の威を借りたる決意。
無季は颯爽と右手にグラス取りて、ほとぼりたらん口元へ傾けたれば、湧き兼ねし怯懦を心底深きに流し込みたり。
のうのうと喉を鳴らさん明日への丸投げ、幾分なる本気も見え透いたりしかな。
「そうだねー、そろそろ本気出さないとね」
寄りて聞き上手なれば、励行を促したり共感の相槌。
内省さんの語調、柔和なりて安堵の音を奏でたりしも、肝心なる面様は不敵とならんや、剥き出しの油断大敵。
無季の安直に暗黙の峻烈を下さぬ訳も非ず。
「おばさん体型になっちゃうからね」
其れもまた内省さんなり。




