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「これはもう一杯必要だね」
少憩と下ろしたる左手のグラス、そこに機を得たりは御為顔。
内省さん、見澄ましそろそろ飽き足りての待ち伏せなるや、差し出口にて世話を焼かん。
「あっ、まだ唐揚げがあったんだわ」
無我夢中も喉元過ぎしに立ち返り。
未だ心残りに冷えたる左手、頬杖にて再びと顎を乗せたれば、俯瞰を照り返さんは心許なき黄金の波光。
既に半ばも割りたるお楽しみ、主菜を迎えたりとて用を為せぬは一目瞭然なり。
「二杯までと決めてたんだけどなぁ」
何とも如何せんは今宵のペース配分。
省みたれば、ふいと思い立ちて昼食軽くと控えし浅薄、斯くも仇と成り果てたりの滑稽。
斯くなる酒肴の遅滞を差し引きとても、此ればかりは予定調和の因果にて変わりも非ず。
無季は自嘲の儘に鼻を鳴らす。
「やめとく?」
「いや、頼むけど」
内省さん、試みにて自明を問いたり。
辛抱あるまじ此のテンション。念ずに易し自制心とて、其れを為せしものならば何らの苦労も非ず。
無季の素っ惚けが面、厭わしきを早々と言下にて打ち消さん。
「頼むんだけど……」
踏みたる二の足が重きこと。言詰まりて思い惑いたる暫しの間、無季の眇めなり遠目、際に据えしメニューへと流れたり。
「……ウーロン茶にでもしようかなぁ、なんて」
いやはや、何の気紛れなるや。如何とも怪しきことを言う。
次にて控えたるは唐揚げなれば、相性整えしは矢張り生ビール。他を置いて何の迷いがあらん、此れ一択と申すも過言に非ず。
香ばしき衣にサクリと歯を入れたれば、重厚な肉の弾みより溢れ滴るは熱々にして確かな旨味。ホップの苦みと絶妙に調和されしは確定事項なり。
同時に炭酸の爽快なる清め、口内の活性促したれば飽きることなき渇望の連鎖へと……。
「そりゃ、ビールにしたいのは山々なんだけどさぁ」
自ら望みし美酒佳肴を妨げんは本末転倒。頬杖にてしゃくれたる口元、中庸紛いの欲心を制しも未練を彷徨いたり。
「なんつーかぁ……さあ」
察しを促さん曖昧模糊、無季の生々しきかな故がチラリ。
其の心を知らずか否かの右手。何時しか丸くと擦りたるは、張りて身に迫らんウエストの逼迫。
「さいきん窮屈そうだもんね」
内省さんの憫笑なる簡潔、慰みあらじて軽きかな。
婉曲に飾りとて必然の実相を口の端に乗せるを憚らず。此れだから推し量りて油断もならぬ。
「今までこんなところ付かなかったのになぁ……」
無季の重き吐露、脇を小さく摘み上げにて言を裏付けたり。
平然と我が身へ居座りし、此の憎きぷにぷに感。当座は誰の眼とて触れしに及ばざるも、憂鬱の余分に変わりはあるまい。
「そろそろ何とかしないとねー」
内省さん、ぬるきに合わせしや。伺い覗きにほくそ笑みて無用なる一言。無論、言わずもがなの知れたことなれば、無季もさぞかし耳が痛かろう。
「分かってる、分かってるっつーの」
まことなるお節介、返し末尾についぞ舌が鳴る。
思い慰みたらん居直りの無作法、宛らスナック菓子でも喫せん如く。箸も取らずばサラダの鉢より右手が指にてアボカド摘まみ上げし、不埒の口へと投げ込まんは言行不一致。
品位を熱量に転換せり指先を紙ナプキンで拭いつつ、無季の懸案たるは何処を眺めしことかな。




