表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

第七・五話②:偽りのシャンパンゴールド

 俺のアイドル活動はその後も続いた。

 ある時、ステージを見渡していて、俺は異変に気づいた。

 いつも来てくれている女の子たちが、一人、二人といなくなってることに。


 ライブに来てくれる子は、ホストクラブで俺のことを知ってから来てくれる子も多い。

 だから、ある程度は女の子の事情も知っている。

 中にはマリオネットへお金が払えなくなった子もいる。


 ……まさか亜久須さんが、何か裏で手を回して女の子に何かしたのか?


 俺はいてもたってもいられずに、その事実を亜久須さんに訪ねた。


「あぁ? 消えた女のこと? さぁな、金が払えなくなってトンズラこいたか、……もしくはどこかでおねんねしてるのかもな」


 俺の耳元で凄む亜久須さんの声に、俺は嫌な予感しかしなかった。


 …………


「ねぇ、カイト聞いてる?」


 ハッと我に返った。目の前には、いつものようにテーブルを挟んで座るミチルがいた。


「……あぁ、ごめん。聞いてるよ」


「……嘘。あーしの話つまんなかった? 凄い暗い顔してるけど」


「いや、違うんだ。ごめんね、ちょっと考えごとしちゃってて」


「でも、そんな顔もかっこいいよ。なんちゃって」


 こっちの事情も知らずに、屈託のない笑顔を見せるミチル。これ以上、ミチルも含め、女の子たちに負担をかけるわけにもいかない。


「あぁん? アイドル活動を辞める? なんだ、とうとうホスト一本でやっていくってか?」


「……えぇ、そんな感じです」


 違う、店で働いている時間以外の全てをバイトで埋めて、早く借金を返すんだ。


 俺は早朝に新聞配達を始め、日中はコンビニのバイトを始めた。

 身体はすぐに限界を迎えたが、そんなことは言ってられない。

 俺は隙間で休息を取りながら、重い身体に鞭を打ち続けた。


「だから、足りねえって言ってんだろうが!」


 しばらくすると、亜久須さんは俺に容赦なく暴力を振るうようになっていた。


「……うぅ。いや、そんなことはないです。亜久須さん、金はちゃんと入れてますから」


「……なんだカイト、お前口答えすんのか? いつからそんなに偉くなったんだ? ああん?」


 亜久須さんは、シャツの袖をめくり、自分の刺青を威圧的に見せびらかしながら、俺の身体を何度も殴打する。


 ある時、俺は疲れた身体でフラフラになりながらマリオネットへ向かった。しかし、身体が言うことを聞かずに、路地裏に入り込んで壁に手をついて嘔吐してしまった。


――


 今日はお店も休みだし、カイトに会いに行こうと思った矢先に、人混みの中にカイトの姿を見つけた。

 どうしたんだろ?なんだかフラフラしてるし、変な道に入り込んじゃって。


「カイト……?」


 あーしが、カイトの後を追っかけて路地裏に入ると、カイトが壁に手をつき、とても辛そうに吐いていた。


「カイト! どうしたの、大丈夫?」


 慌てて駆け寄り、カイトの背中をさすってあげる。


「……み、ミチル? ……ごめん、こんなカッコ悪いとこ見せちゃって」


 カイトは肩で息をしていて、顔も白くてとても普通じゃなかった。


「体調悪いの? 今日はお店やすんだら?」


「……いや、休むわけには……いかないんだ……行かなきゃ」


 アイドルを辞めてから、カイトはいつも何かに追われるように忙しそうにしている。一体カイトに何があったんだろう。


「ねぇ、お願い、そんなに無理しちゃダメだって」


「無理しなきゃ、ダメなんだよ!」


 カイトが声を少しだけ荒立てる。

 あーしは、少しびっくりして、さすっていた手を止めた。


「ねぇ、カイト。どうしたの? アイドルも辞めちゃって、あーしにできることがあるなら、なんだってするから……」


「なんだって……か」


 カイトは鼻で笑うと、壁を伝いながらフラフラと立ち上がった。


「その言葉は二度と使わない方がいい」


 そう言って立ち去ろうとする。


「待って、カイト。あーしなら受け止めてあげれるから。あーしならカイトの全てを……」


 カイトは振り返ると、あーしの身体を強く抱きしめた。

 だけど、その肩が震えてる。


「……カイト?」


 そっとカイトの顔を覗き込むと、カイトは静かに泣いていた。


「……ごめん。ミチル。……本当に、ごめん」


 何度も謝ってくるカイトに、あーしはとびっきりの笑顔を見せてやったんだ。


「カイト、そう言う時は「ごめん」じゃなくて、「ありがとう」じゃないの?」


 でも、カイトはしばらく「ごめん」と何度も呟いた。


「ミチル……店に来る前に、ここで会えないかな? 店の前だと、他の女の子の目もあるし。……ちょっとカッコ悪いかもしれないけど」


「カッコ悪くなんてないよ。むしろ嬉しいし。……じゃあ、この路地裏が二人の初めての秘密だね」


 あーしとカイトはそれから何度も路地裏で待ち合わせをした。


 二人でこのわずかな時間を過ごす、何気ないひと時がとっても幸せだった。

読んでいただきありがとうございます。


ミチルの健気さとカイトの不器用さが際立つ回となりました。


本編でなぜ路地裏で待ち合わせをしていたのか、などこの3部作で分かるようになってます。


次の話も是非よろしくお願いします。

評価や感想などで応援いただけると執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ