第七・五話②:偽りのシャンパンゴールド
俺のアイドル活動はその後も続いた。
ある時、ステージを見渡していて、俺は異変に気づいた。
いつも来てくれている女の子たちが、一人、二人といなくなってることに。
ライブに来てくれる子は、ホストクラブで俺のことを知ってから来てくれる子も多い。
だから、ある程度は女の子の事情も知っている。
中にはマリオネットへお金が払えなくなった子もいる。
……まさか亜久須さんが、何か裏で手を回して女の子に何かしたのか?
俺はいてもたってもいられずに、その事実を亜久須さんに訪ねた。
「あぁ? 消えた女のこと? さぁな、金が払えなくなってトンズラこいたか、……もしくはどこかでおねんねしてるのかもな」
俺の耳元で凄む亜久須さんの声に、俺は嫌な予感しかしなかった。
…………
「ねぇ、カイト聞いてる?」
ハッと我に返った。目の前には、いつものようにテーブルを挟んで座るミチルがいた。
「……あぁ、ごめん。聞いてるよ」
「……嘘。あーしの話つまんなかった? 凄い暗い顔してるけど」
「いや、違うんだ。ごめんね、ちょっと考えごとしちゃってて」
「でも、そんな顔もかっこいいよ。なんちゃって」
こっちの事情も知らずに、屈託のない笑顔を見せるミチル。これ以上、ミチルも含め、女の子たちに負担をかけるわけにもいかない。
「あぁん? アイドル活動を辞める? なんだ、とうとうホスト一本でやっていくってか?」
「……えぇ、そんな感じです」
違う、店で働いている時間以外の全てをバイトで埋めて、早く借金を返すんだ。
俺は早朝に新聞配達を始め、日中はコンビニのバイトを始めた。
身体はすぐに限界を迎えたが、そんなことは言ってられない。
俺は隙間で休息を取りながら、重い身体に鞭を打ち続けた。
「だから、足りねえって言ってんだろうが!」
しばらくすると、亜久須さんは俺に容赦なく暴力を振るうようになっていた。
「……うぅ。いや、そんなことはないです。亜久須さん、金はちゃんと入れてますから」
「……なんだカイト、お前口答えすんのか? いつからそんなに偉くなったんだ? ああん?」
亜久須さんは、シャツの袖をめくり、自分の刺青を威圧的に見せびらかしながら、俺の身体を何度も殴打する。
ある時、俺は疲れた身体でフラフラになりながらマリオネットへ向かった。しかし、身体が言うことを聞かずに、路地裏に入り込んで壁に手をついて嘔吐してしまった。
――
今日はお店も休みだし、カイトに会いに行こうと思った矢先に、人混みの中にカイトの姿を見つけた。
どうしたんだろ?なんだかフラフラしてるし、変な道に入り込んじゃって。
「カイト……?」
あーしが、カイトの後を追っかけて路地裏に入ると、カイトが壁に手をつき、とても辛そうに吐いていた。
「カイト! どうしたの、大丈夫?」
慌てて駆け寄り、カイトの背中をさすってあげる。
「……み、ミチル? ……ごめん、こんなカッコ悪いとこ見せちゃって」
カイトは肩で息をしていて、顔も白くてとても普通じゃなかった。
「体調悪いの? 今日はお店やすんだら?」
「……いや、休むわけには……いかないんだ……行かなきゃ」
アイドルを辞めてから、カイトはいつも何かに追われるように忙しそうにしている。一体カイトに何があったんだろう。
「ねぇ、お願い、そんなに無理しちゃダメだって」
「無理しなきゃ、ダメなんだよ!」
カイトが声を少しだけ荒立てる。
あーしは、少しびっくりして、さすっていた手を止めた。
「ねぇ、カイト。どうしたの? アイドルも辞めちゃって、あーしにできることがあるなら、なんだってするから……」
「なんだって……か」
カイトは鼻で笑うと、壁を伝いながらフラフラと立ち上がった。
「その言葉は二度と使わない方がいい」
そう言って立ち去ろうとする。
「待って、カイト。あーしなら受け止めてあげれるから。あーしならカイトの全てを……」
カイトは振り返ると、あーしの身体を強く抱きしめた。
だけど、その肩が震えてる。
「……カイト?」
そっとカイトの顔を覗き込むと、カイトは静かに泣いていた。
「……ごめん。ミチル。……本当に、ごめん」
何度も謝ってくるカイトに、あーしはとびっきりの笑顔を見せてやったんだ。
「カイト、そう言う時は「ごめん」じゃなくて、「ありがとう」じゃないの?」
でも、カイトはしばらく「ごめん」と何度も呟いた。
「ミチル……店に来る前に、ここで会えないかな? 店の前だと、他の女の子の目もあるし。……ちょっとカッコ悪いかもしれないけど」
「カッコ悪くなんてないよ。むしろ嬉しいし。……じゃあ、この路地裏が二人の初めての秘密だね」
あーしとカイトはそれから何度も路地裏で待ち合わせをした。
二人でこのわずかな時間を過ごす、何気ないひと時がとっても幸せだった。
読んでいただきありがとうございます。
ミチルの健気さとカイトの不器用さが際立つ回となりました。
本編でなぜ路地裏で待ち合わせをしていたのか、などこの3部作で分かるようになってます。
次の話も是非よろしくお願いします。
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