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からくり競輪 ー烈風のマブイー  作者: 水前寺鯉太郎
鉄魂(てっこん)学園編

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第六話:卒業検定レース・後編:魂の帰還


「落ちる……だと!?」

算盤陣の視界に、あり得ない光景が映し出されます。

バンクの最上段、審判席の欄干を掠めるほどの「崖っぷち」から、速水健吾が垂直に近い角度でダイブしてきたのです。

それは捲りという名の、純粋な**「物理的落下の暴力」**。

1. 衝突する二つの正解

「計算外だ……だが、反応レスポンスはできる!」

算盤は瞬時にスーツの電磁弁を全開にした。白銀の装甲がカチリと音を立てて変形し、空気抵抗を極限まで削いだ「最終加速形態」へ移行する。最短距離を突き進む算盤の白銀と、上空から降り注ぐ健吾の紅。

第四コーナー、二台が並んだ。

「ギギギギギッ……!!」

「ガガガッ!!」

健吾の自転車の右ペダルと、算盤の左クランクが接触し、マブイの火花が散ります。

本来なら、接触した瞬間にマブイが干渉し、出力の低い方が弾き飛ばされました。

だが、健吾のコアマブイ2500は、算盤の精密な出力を力技でねじ伏せたのです。

「算盤! 効率がなんだ! 綺麗に回して勝てるほど、バンクは甘くねぇって教官も言ってただろうが!」

「黙れ……! 感情で歯車が回るものか!」

2. コアマブイの極点

残り30メートル。

健吾の視界は、コアマブイの過剰消費により白濁し始めていました。脊髄インターフェースを通じて脳に逆流する熱。耳の奥で、阿蘇の火口が鳴り響くような地鳴りが聞こえます。

(あと一回転……あと一回転、俺のマブイを、この鉄の塊に喰わせろ!)

健吾は、サドルから腰を上げ、最後の「もがき」に。

それは訓練で教わったフォームではありませんでした。

阿蘇の老レーサーが見せた、泥臭く、獣のように大地を掻きむしる、魂の叫びそのものです。

「おおおおおおおおっ!!」

ドォォォォォン!!

健吾の背中の排気弁が限界を超えて吹き飛び、青白い炎が夜のバンクを照らします。

一瞬、健吾の車輪が、算盤の鼻先をわずか数センチメートルだけ、力ずくで追い越しました。

3. 沈黙のゴール

スリット写真が捉えたのは、文字通り「魂が抜けた」ような光景が広がります。

ゴール板を通過した瞬間、健吾のマブイは完全に尽きたのです。

からくり自転車はただの鉄屑に戻り、健吾は慣性だけでバンクを滑り落ち、疲労と倦怠感から芝生の上へと転がります。

「…………」

静寂。

スーツの冷却ファンが回る音だけが響く中、電光掲示板に「1」の数字が灯りました。

1着:速水健吾(阿蘇)

2着:算盤陣(京王閣)

4. 卒業の朝

一週間後。

学園の門の前に、卒業証書を手にした健吾と、算盤の姿があった。

「……速水」

算盤が、初めて計算機ではない、一人の男としての声をかけました。

「君の走りは、依然として非効率だ。マブイの8割を熱として無駄に捨てている。……だが、その熱に僕の計算が焼かれたのは事実だ」

算盤は、自らの所属先である東京の「京王閣」のバッジを握りしめました。

「プロのバンクで、もう一度計算し直してやる。次は……逃がさない」

「ああ。いつでも阿蘇に来いよ。冷やしてやるから」

二人は背を向け、別々の方向へ歩き出します。

健吾が向かうのは、九州。

兄・誠が待つ海に近い、けれど最も高い火の国。

手渡された配属通知書には、力強い文字でこう記されていました。

「配属先:熊本支部・阿蘇ハイランド競輪場」

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