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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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領主親子 1

 学園に属する貴族の子息令嬢は、家に帰って寛ぐばかりではなく将来のために学んだり活動をしている。

 家族への報告相談もあり、家を継いだり手伝う者は離れている間の変化を、繋りを作るために入った者達は経過を報告し、以後の方針などの相談を行ったりする。

 卒業後を見据えて学ぶ事やすべき事は沢山あり、人によっては帰省中の方が忙しいという場合もある。


 リーシアはそういった動きから外れている。

 後も継がなければ手伝う予定もない。

 伯爵の娘という立場を活かすか、町で平民のように暮らすかも取り合えず未定だ。

 未来が視えるリーシアに、両親は進路を強く押し付ける事もない。


 またリーシアは当たり前に受け止めすぎて意識していないが、リーシアには領地と国の未来について相談を受けるという御役目がある。

 表立った役職は与えられないものの、住処を明らかに、密やかな連絡が可能な条件は満たさないといけない。

 ――リーシアがもし、ルクレイスに早逝する話をしなければ、王族ゆかりの屋敷に軟禁もあり得たほど、その能力は重要視されている。



『重責に押し潰されて早死にするようでは、その異能を真に有効活用出来ていない。

 憎まれ嘘を吐かれては滅亡を目指すことになる。

 長く国を支えて貰うためにも、異能は内密なまま、深く政治に関わらせない状態で長生きさせるべき。

 太く短い関係より、細く長い関係の方が全体としての利益は上がる』



 ルクレイスは他にも色々な名目をたててリーシアの自由を確保した。

 あくまでも当人(リーシア)の言い分を信じるならという前提ながら、未来視による不吉な予言もあったため、強引に動こうと言い張る者は出なかった。

 

『私の死によって親しい人達の怨嗟を呼びます。

 幾つかの集団はヴィジット領と共に中央への忠誠心を失います』


 ヴィジット領の反目だけでも痛いのに、ヴィジット領と親しくしている各所が逆らい始めれば、国は一気に情勢を悪くしてしまう。

 結果、難しい問題に厳しい姿勢で向き合うのでなく、損を生まないよう調節する判断へ傾いた。



ο ο ο



 仕事が終わったと言うアドニスに呼ばれ、リーシアは父の待つ部屋へ訪れた。

 再開の抱擁を交わし、リーシアは部屋を見回した。

 リーシアと入れ換えに執事は退室し、部屋には二人きりとなった。


「セヴは一緒ではなかったのですか?」


 セヴとは伯爵位を継ぐように学んでいるリーシアの義弟・セヴァンだ。

 姿の見えない義弟は父の仕事を手伝っているのだとリーシアは思っていた。

 アドニスは驚いた様子を見せた後、どこか嬉しそうに笑んで、リーシアの頭を撫でた。

 ――アドニスは未来を確認せず生活する娘を見て、娘の心の平穏を喜ばしく思っていたが、リーシアには分からなかった。


「リィと会えるからとはしゃいでいたから少しからかってしまってね」

「お父様……」

「拗ねて外の仕事へ行ってしまったよ。

 大丈夫、夕方には帰ってくる」

「拗ねるほどからかうなんて」


 アドニスは答える代わりのように優しく笑んだ。


 リーシアは知って欲しくない未来は、可能な限り父母にも伝えないようにしている。

 義弟は未だリーシアの能力を知らず、爵位を継いだ時に伝えるかどうかもまだ決めていない。

 義弟がするかもしれない行動を、リーシアは両親に伝えていない。


 リーシアは父の優しげな笑みを見て、義弟との間にある懸念事項を全て悟っているのではと勘繰らずにいられなかった。

 ジオとゼオに言われたからと、未来を視なかった事が不安になった。


「セヴと何かあったのです?」

「何もないよ。

 姉離れに不安があるくらいかな」


 リーシアは反応しそうになる自分を抑え込んで微笑んだ。

 気付かれているのではという疑いが心構えとなって自然に偽れた。


「甘えて貰えなくなるのも寂しいです」

「私達も同じ意見だ。

 セヴにもリィにももっと甘えて欲しいな」

「私はもう十分甘えていますわ」


 アドニスは困ったように笑んだ。


「足りないよ、リィ。

 本当はもっと守って上げたいのだけど」


 その雰囲気で、アドニスが話を切り替えるのだとリーシアは理解した。

 心配かけぬよう姿勢は堂々と、かつ表情は少し頼りなげに構えた。

 その『形』が両親の不安を和らげると、リーシアは経験から理解している。

 そんな自分が両親の目にどう映っているかまでは、理解していない。


 先に広がる未来を飲み込む覚悟が出来ているかのような。

 最善ではなくとも、不幸を回避する準備を整えているような。


 手の届かない人を超えた存在に見えていると、分かっていない。


「私は未来を知っておりますもの。

 叶えられる限りは責任をもって自分の手で為したいと考えております。

 私自身の未来からは不安が去りました。

 今後はどうか表に出ないまま暮らし、領のために力を使いたいです」

「婚約の事、第三王子殿下の事、教えてくれるかな。

 それとリィが婚約解消の後に何と戦っていたか」


 リーシアは婚約解消後に視えた未来についてはほとんど両親に伝えていない。

 ルクレイスとどうして関わってしまったか、アドニスが把握していない可能性もあるのだとリーシアは今更気が付いた。

 元々話す予定だったものの、父ならば察しているかもと思い込んでいた部分があった。


「解消の件は私も分かりません。

 積み重ねてきたものがどこかで変化に変わったのだと思います。

 エイゼン様は解消を取りやめて戻したいと仰っているそうで、私は会わないように避けています。

 考えが変わったのはおじさまだと思うのですが、お父様の方は何か聞いていないですか?」

「理由は何も。

 息子がすまないと謝罪はあったけれど、むしろ解消を望む理由を問われたよ。

 今まで伝えてきた事を繰り返すに留めたけれど、枝葉をつけて受け止めてしまっているだろうが。

 ……すまないがリィの体に問題があるような認識になっているとは思う」

「何も悪くありませんわ、お父様。

 私の『体が弱い』のは事実ですもの。

 むしろそう理解して貰えればありがたいです」

「……そうだね」

「御相談した予定通りにおじさま方にはお会してきたのですが、普段通りで、むしろ心配していただきました」


 未だ三人だけになれる時間がなく、リーシアはジオから話を聞いていない。

 聞いていないからこそ、リーシアは父に向けて『問題なし』と容易に演技できた。


「婚約の件は本当にもう心配はないかい?」


 心配そうな父の眼差しに、リーシアは柔らかな微笑みで返した。

 傷付いた心も宰相の内心への不安も全て隠した、何の憂いもない笑みだった。


「はい、これからまた変わることさえなければ、問題なく進みます。

 こんな事を言ってはいけませんが、ようやく肩の荷がおりてすっきりしました。

 弟の世話をする姉の気持ちでしたもの」


 リーシアはわざと高飛車に、意地悪そうに言い放って見せた。

 その言葉はリーシア自身を傷付けるものだったが、平気だと偽るには口に出せてこそだと演じた。

 リーシアが本気でそんな事を考えていないとは、父であるアドニスにはきちんと伝わっている。

 リーシアにとって望ましくないことに、去勢が含まれているのもばれている。

 アドニスは娘のために、強がりには気付かないふりをして、口元に人差し指をたてた。


「そんな事を言っては駄目だよ。

 婚約がなくなったといえ、私達は不仲になりたいわけではないのだから」

「ええ、内緒ですわ。

 これはお父様とお母様にだけこぼす愚痴ですもの」


 くすくすと笑ってみせるリーシアに、アドニスはあくまでも合わせた。

 もし本当に演技でないなら、触れることでかえって傷を生みかねない。

 そう惑わされるほど、リーシアの言動に不自然さがなかった。


「お祝いをしようね。

 卒業後の事も慌てなくて良い。

 私もまだ爵位を退く予定はないし、ゆっくり考える時間はある」

「卒業まで時間を残して完了して良かったです。

 今までお父様達が根回しをしてくださったおかげだと思います。

 ありがとうございます」

「彼の事はしばらく忘れるんだよ。

 彼はもうすぐ卒業だろう?

 それまで逃げきれば、仕事が忙しくなって接触する機会も減るだろう。

 後は時間が解決してくれるはずだ」

「はい」


 婚約解消の話は終わった事になり、リーシアは安堵した。

 リーシアにも元婚約者親子側の詳しい事情は分からないが、分かっていたとしても話せるないようは無さそうに思えていた。

 宰相の内心は、読んだリーシアが恐怖で震えるようなものだ。

 上手く伝えられた気もしないし、伝えたいとは思わなかっただろうとリーシアは考えている。

 アドニスが終わらせてくれたのに乗りかかり、リーシアは話を変えた。

 もっとも、変えた所で話しやい話題ではなかった。


「殿下の関係の方がこちらへいらっしゃったのですか?」

「視たのかい?」

「いいえ、ゼオ様がいらしていた時期かと思うのですが、視えなくなっておりました。

 ですが殿下はこちらで情報収集をされたそうで」

「その事も話さなければいけないね」


 侍女ミーヤへの処罰の話かと、リーシアは考え身構えた。

 もしミーヤ以外にもリーシアの力を知り口外した者がいれば、何かしらの罰を受けているはずだ。


「殿下の直属か王族の配下かは分からないけど、今も何人か混ざっているようだよ」

「イシュテ様のようにでしょうか」

「彼女は正式に要請があって迎えたけど、隠れて入ってきている人が何人かいるね」

「ごめんなさい……」


 リーシアを探るために忍び入って来たのなら自分の責任だと、リーシアは思わず謝罪が口をついた。

 視線を下げたリーシアに、アドニスは笑ってみせた。


「ヴィジット家は今まで国に尽くして信頼を得てきた」

「お父様……」

「簡単に揺らがない絆だよ。

 殿下もリィのために助けて下さった。

 大丈夫、リィが悪いんじゃない。

 悪いことにはならないよ」

「はい」


 リーシアは安心したような、嬉しそうな笑みを作って見せた。


 リーシアは知っている。

 もし宰相を敵に回せば、その人脈も有効に働かず、リーシアのせいで父母はヴィジット領ごと追い詰められる。

 娘を安心させるために大きな事を言っているのか、心からそう信じているのか、リーシアには分からない。

 ただ今続いている未来で宰相は敵にならず、父の言葉は間違っていない。


 リーシアは父が宰相を悪く思って均衡が崩れぬよう、父に気付かせない演技をするべきだと選択した。

 明かした方が良いなら後で取り返せるが、明かしてしまえば記憶は消せない。

 どうした方が良いかはジオとゼオに相談してからだと、リーシアは二人を頼りに思った。

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