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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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領主親子 2

 ルクレイスとの話もリーシアは説明に困った。


「殿下はエイゼン様と親交が厚く、婚約者だった私が視界に入り、少しづつ疑念をお持ちになったようです」


 興味(好意)と表す方が適切だったが、リーシアは異能に関わる説明に留めようと考えた。


「ジオ様から聞いたのですが、他国には異能を調べる異能もあるそうです。

 ただ殿下は私に証拠を突きつけるのでなく、会話から異能だと認めさせようとなさっておられました。

 殿下がどうやって確信したのかは私には分かりません。

 ただ、もっと早く気付いて視ていれば避けられたかもとは思います」

「リィ、その仮定にまで責任を負わなくて良いんだよ」

「……はい。

 殿下は私を信頼し、哀れに思って頂いたようで」

「……」

「裁くのではなく保護して頂けると仰られました。

 お父様にもお話があったかと思いますが、私がしてきたこと、ヴィジット領が何に備えて動いているか、そう言った件の説明をお求めになられています。

 今後については無理のない範囲での国への協力をお求めでした」


 無理のない範囲ではなく宰相を敵対させないためだが、ルクレイスにも父にも詳細を語るわけにはいかず、ぼかすよりなかった。


「婚約解消後、殿下と交友を深める未来もありました。

 その場合、疑心や嫉妬からか攻撃を受けるようで、その回避は難しいようでした。

 こちらも表立って殿下の庇護に入らず、接点を見せないことで回避できているようです。

 ただ公に知られるように変わるなど変化があれば、そちらもまた危険になるかもしれません」


 本当に断ち切ったのは交遊でも接点でもなく恋慕だが、リーシアは触れないようにした。

 アドニスは複雑な表情でリーシアの話を聞いていた。


 リーシアの知らない話だが、ルクレイスはアドニスに、リーシアを貰う余地があるかそれとなく尋ねている。

 勿論異能者としてでなく伴侶として。

 明確な言葉のない問い合わせで、アドニスは気付かぬ振りで惚けたものの、ルクレイスがリーシアに抱く感情は予測していた。

 ルクレイスもアドニスが真意を読み取れるように織り込んで問い合わせていた。

 異能者を得る手段としての思惑は零ではないとしても、単純に欲しいのだという熱がルクレイスにはあった。


 リーシアが報告に恋情を全く加えなかった事で、アドニスは二人が結ばれる未来がないことを知り、娘の隠し事を見せつけられてしまった。

 娘を守りたいのに、逆に親を守ろうとしてくれているのだと、アドニスはやりきれない思いを抱えてしまう。


「私の方には隠匿のお咎めは無し、ただ国へさらなる忠誠を、という話があったよ。

 リィに話をしてからと流したけれど、どうしたい?」


 どうしたい?

 そう聞かれ、リーシアは『今』が今まで視てきた未来と本当に全く違うのだと気付かされた。


 リーシアは未来が視える。

 自分の未来だけでなく他人の未来も視える。

 幼い頃は母が事故に遭う未来も視えた。

 母しか事故から逃がせなかったのは、リーシアの心に戒めとなり残っていた。

 万能に動ける筈がないと割り切りつつ、せめて届く範囲はとも願ってしまう。


 視える未来は人に限らない。

 領地や地区、国の未来も、視ようと思えば視える。

 国はともかく領地であれば、領主である父の力を借りれば変えられる可能性がある。

 そんな力を持って、自分自身の幸せだけを追い求められる性格ではなかった。


 リーシアは人々の未来を背負うのでもなく、ただ逃げるのでもない生き方が許された。


「もし、叶うなら、広く協力を得られれば、手の届くことが増えますね」

「私もそう思うよ。

 リィの力を疑われないよう根回しして貰える前提だけど。

 範囲が広がれば関わる人も情報が漏れる可能性も増える。

 けれど、その力の持ち主は広く知られたくない」

「私もそう願います」


 リーシアは自身が責任で押しつぶされる未来が視えているが、父には知らせていない。

 それを知らない父が何を心配しているか、リーシアは今まで聞かされている。

 誰の利益をどこまで守るかの判断を他人に強制されること。

 アドニスは娘を信頼し、私欲に溺れて義に背くような未来の改変はしないと確信している。

 誰かを貶めて自分だけが益を得るような真似はしない、と。

 けれどリーシアの力を知ってすがり付き、または利用しようとする者が現れれば、リーシアは誰を信じ、誰を助け、誰を捨てるか、自分の意思を離れて選ばなければいけなくなるかもしれない。


 ――正直リーシアは他人の未来を背負いたくはないし、視えた未来も誰かに適切な相手に委ねてしまいたいとも思っている。

 けれどアドニスの懸念は理解出来て、自身の能力を明らかにしたいとは思えなかった。


 カチュアの父のように、リーシアを囚えて利を得ようと考えるのはおかしくない。

 リーシアはカチュアを人質にされれば、未来を視て誰かの利益を産む手段を考えださないといけなくなる。

 誰かが嫌な思いをして、あるいは損をして、最後には取り返せない失敗を背負わさたとして。

 どれだけ嫌だと思っても、天秤に乗せられた物によっては逆らえない。


 カチュアを人質にされた未来では、リーシアは見捨てる選択をせざるを得なかった要求もあった。

 例えカチュアが許してくれたとしても、それしかなかったとしても、リーシアはカチュアを捨てた罪を背負う。

 亡くせばもう戻らない。

 その未来を辿ることはなくても、その未来を知っているリーシアの心には、カチュアを見捨てる自分が刻まれている。

 リーシアは伴侶以前に友達との付き合いすら慎重に未来を確認して決めざるを得ない。


「私は静かに過ごしたいです。

 争いや犯罪の刃になってしまいそうで。

 きっと特別な方も作らない方が良いと思うのです。

 その人のために頑張ってしまいそうですもの」


 命が関わる大きな話でなくとも、エイゼンに好かれようと苦心した過去は大きな傷になっている。

 思われないのももう嫌だが、もし思いを返されていたらどうだったのか。


 エイゼンへの気持ちの落ち着いてきているリーシアは、相思相愛になれた仮定の未来を想像する事が出来た。

 もしエイゼンと思いを通わせ結婚出来ていたとして、エイゼンは役人になる。

 リーシアはきっとエイゼンを心配して危険を遠ざけ、彼が認められるように囁くだろう。

 ――もう訪れない未来で、捨てられるほど嫌な人間になってしまったらしい自分が、何をしてしまうか分からない。

 リーシアは表に出さず自嘲した。


「やっぱり知っていたのかな?」


 悲しそうなアドニスの言葉は、リーシアにさっぱり分からないものだった。


「何がでしょうか?」

「見合いのこととか」 


 特別な人を作らないという言葉に、アドニスは今までの娘を重ね合わせた。

 今までのリーシアなら、大事な話は既に知っているからだ。

 問う前にさりげない返答がくることもよくあった。


 リーシアは演技でなく、驚いて目を瞬かせた。


「見合いのこと、とか、とは……

 お見合、ですか……?」

「あれ、全く知らなかったかな?

 解消の後から沢山話が来ているのは伝えて居なかったか」


 リーシアは父からそれとなく聞いたかもしれないが、詳細は友人から教えて貰っていて、はっきりと親から聞いた記憶はあまりなかった。


「ほとんど断っているけど、確認してからと保留にしている件も結構あるんだ。

 ところで護衛についてくれた三人はどう思った?」

「良い方々、でした」

「強制ではないから無理に考えなくても良いんだよ。

 私達よりリィの方が先がよく視えるんだ。

 無理強いはしないけれど、共に歩んでくれる人がいる幸せを諦めないで欲しいと願っている」

「お父様……」


 リーシアは言葉に詰まった。

 父母の仲が良いのは娘の目からも明らかで、どんな未来になろうと二人は手を取り助け合っていた。

 どんな未来でも。

 リーシアがエイゼンから婚約を解消された未来でも、恐らくはそうだったのだろうと思えるほど。


 ――私は、悪い人間だから。


「一目で恋に落ちるような素敵な人でないと嫌です!」


 リーシアはいたずらっぽい笑みとと共に、子供っぽく条件を口にした。

 アドニスはリーシアの表面に合わせ、子供を聞きわけのない叱るように苦笑した。


「こら、リィ」


 リーシアは頬を膨らませ、ツンッと顔を背けた。

 それが許される幼児でもないし、父母以外に見せても教養を疑われる仕草だ。

 子供っぽさだと許してくれる父母にも、演技としてしか見せない。


「一から選ぶなら妥協はしたくないです。

 一目で恋して、言葉を交わして更に惹かれて、一緒に居るほどもっと一緒に居たくなる人じゃないと」

「リーシア」

「お父様、私はそんな人を探してみます」


 ――そんな人、居ないから。


 リーシアは内心を完全に隠して楽しそうに子供っぽく笑った。

 アドニスは苦笑して愛娘の髪を撫でた。


「困った時は相談するんだよ。

 見つかったら応援するからね」


 ――見つかっても、愛されるはずがない。


「お父様から手を回して貰いますわ」


 ――そんな空しい事は絶対に出来ない。


「こらこら」


 楽しげに笑う娘に、父は疑いを止めた。

 これが本当に何も知らない上での会話なのか、言葉に嘘はないのか、アドニスは考えても答えは出ない。

 親といえ、年の差があるといえ、未来を知って演技で誤魔化す娘に、探り合いで勝てると思えなかった。

 

 

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