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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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出迎え 2

「ジオ君にもゼオ君にも隠し事は出来ないからね。

 二人は聡いし自分達を守る事をよく考えている。

 大丈夫、二人がここへ今日訪れることを取り止めなかったように、困らせる話はしないつもりだよ」

「……もう結構困らされてるんですがね」


 ジオがようやく話に参加して、ゼオはその声に動揺を聞き取った。


「私が二人を呼んだのは娘の話と、これからどうしていきたいかを聞きたかったんだ。

 話せない事や決まってない事まで話さなくて良いけれど」

「内密な話にしなくて良いんすか」


 ジオは視線だけ案内をした使用人へ向けた。

 その視線で、案内をした使用人はやはり深い話は知らないのだとゼオは判断した。


「話しづらいかい?」

「口が滑って後で怒られるのは怖いんで」

「分かった」


 案内人は退室し、その場には『秘密』を知る者達だけが残った。


「知らない人に気付かせないように話す良い練習になると思ったんだけど。

 もし二人が貴族に関わって行くならだけど」

「遠慮したいです」


 ジオが答え始めたので、ゼオは丁度良いと黙って、さらっとこの後の会話を視た。

 アドニスの話に嘘や罠はないが、ジオの様子が変になるのも理解出来る会話は存在した。


 ゼオが現在に意識を戻しても、短い未来視なので力を使った時点からさほど時間は流れていない。

 だから終わった会話をなぞっている混乱が生じても、何も会話が進んでいない、まだ話していないのが『今』だ。


「――学園での不安は自分で解決してた。

 俺達が着いたのが丁度終わった後で、そーりつ記念日?とかに動いてたらしい、ですヨ」

「詳しい話は聞いている?」

「聞いていなくて知ってる分は?」

「――領主としては知りけど、親としてはそっとしてあげたいな。

 あの子はきっと知られたらもっと傷付くのだろう。

 ただし本当に解決しているなら、だけど」


 アドニスはゼオを見た。

 ゼオは小さく頷いた。


「解決はしています。

 はっきりとは分かりませんけど、シアの……お嬢様には平和な未来が訪れます」

「シアかぁ……その呼び方は初めて聞いた。

 娘を取られるみたいでちょっと悔しいね」


 唐突に親バカを挟まれ、ジオの気が抜けていく。

 最初から警戒はしていなかったが、そういう面を見せてしまうほど気が抜けた。

 一方でゼオは先程確認したばかり、ほぼ同じ反応のニ回目を見ている。

 視た流れが無駄にならないよう、あまり反応を変えないようには気を付けていた。

 ゼオは普段から大きな反応をしないようにしているので、こうした時に困らない。

 

「町で万が一があると困るので、慣れやすく普段は使わない呼び方をお嬢様と考えました。

 話したい分はお嬢様が自分からお伝えすると思うので、気になる事はその後の方が良いかと」

「ゼオ君はやっぱりあまり動じないね。

 狼狽えてくれたらと思ったのだけど」


 一度目に言われる未来視の中ではもう少し動揺していたが、ゼオはそこまではなぞらなかった。

 未来視で表面に出たのも多少だったので誤差だと切り捨てた。


「リィもあまり感情を大きく動かさない子でね。

 昔はそうでも無かったんだが。

 感謝や喜びは大きく伝えてくれるが、驚いたり悲しんだりを見せることがない。

 貴族の中では無い方が良いのだけれど、何も目新しい事が無いのかと思うと、ね」

「俺のは性格です。

 普段から頻繁には視てないですし、知っているから感動が少ない訳じゃないです」

「そんな風にリィを解放出来れば良いのだけれど……」


 聞いただけではゼオにはアドニスの言う意味がピンと来ない。

 せいぜい平民になりたい希望を叶えられないのかと考える程度だ。

 ただジオには分かっていて、心を読むジオが応えた未来を知っている。

 ゼオは流れにのってジオに委ねた。

 ジオは眉を寄せて苦い顔をしていた。


「それ……」

「何か聞こえてしまったかな。

 ……貴族に生まれてしまって、優しく育ってしまった。

 自分を許せないのは自分なんだよ。

 だからリィは何もかも忘れて幸せになるのは無理かもしれない」

「……」


 ジオはゼオに視線を向けた。

 会話の意味を理解しているか確認するものだと、ゼオは何となく察してはいる。

 しかし理解していると答えて会話の流れが変わるとまた初見の事態になりかねないので知らぬ振りをした。

 こう言う事があっても二人の間に騙す、騙したといった感覚はない。

 互いに事態に見合うと思った行動を取っているだけだからだ。


 ゼオの内心はうまく読めないので、ジオはゼオが知らない前提で動く方を選ぶしかなかった。


「シアが領地に関わってるのは分かってたけど、そこまでかよ……」

「嫌な未来が視えれば放っておけなくて、相談して、自分でも勉強して、何度も見直して、少しづつでも変えていた。

 元婚約者の彼との未来より、よほど領地のために尽くしていたと思う。

 私達が失敗する事業を企画してしまった時や、間違いを選んでしまった時も……私がもっと優れた人間であれば、娘があれほど身を削らずとも済んだ。

 せめて政治を動かせない家に産まれていれば、何も出来ないと諦めもついたのかもしれない。

 学園にいる間は自分の未来に集中するよう説得したけれど、卒業すればまたヴィジット領のために力を使い始めるだろう。

 王族からも内密に連絡を取れるようにと話が来ている。

 国の未来まで背負ってしまえば、あの子は本当に身を削ってしまうかもしれない」

「……穏やかな生活をしている未来は視えています」

「それを聞いて、少し安心出来た」


 安心出来たと言いながら、アドニスの笑みは苦かった。

 先程ゼオがリーシアに平和な未来が訪れるといった時も、アドニスはまっすぐには喜ばなかった。


「あの子は演技がうまいんだ」

「みたいですね」

「学園では婚約者を騙そうと芝居を打って、それを楽しみに観ていた子達も居たらしい」


 アドニスはふっと息を吐いた。


「前もって分かっているからだろうね。

 私達が心配するような事はしないし、話さないし、教えてくれるのは協力が必要な事や終わった後だ。

 辛い思いをしていたかもしれないと分かるのは終わった後なんだ……」

「幸せそうな未来が視えたとして、幸せとは限らないって?」

「そうだ。

 未来が視える力が存在するのは信じられる。

 ゼオ君が嘘を言っていないのも、信じられる」


 アドニスは言葉を区切ってゼオを見つめた。

 その視線や表情に偽りは感じられず、まっすぐ向けられる信頼にゼオは居心地悪さを感じた。


「だが娘の平気な振りに君が騙されていないかはあまり信用出来ないんだ。

 親の私達ですら騙される時があるからね」

「……だからって、その選択は大丈夫なんですか?」


 ジオは動揺を隠せないまま尋ねた。

 会話にでなく、アドニスの心に向けた問いかけだった。


「勿論、強引に命令しようだなんて考えてはいない。

 とても魅力的だけど、私達はそれをしてはいけないし、手段が目的に合致しなくなる。

 だから君達は保身は気にせずに自らの意思で選んでほしい。

 これから先もリーシアの側で助けるために働いても良いか、もしリーシアが望んだ時、夫婦という形になっても良いか」

「……」

「逆に選ばれず他の誰かを愛するリーシアを支えてくれる気はあるか、あるいは」

「俺達のどちらかがシアと引っ付いて、もう一人が祝福出来るか?」

(わたし)に先に気持ちを教えてくれるのかい?」

「分かってて煽ってたじゃないすか。

 どこから聞いたか知らないけど、俺らがシアをどう思ってるか知ってて――ああぁくそ恥ずかしいな」

「まぁまぁ、両思いになった時は親公認と言う事だよ。

 ただし候補は他にもいる。

 娘は貴族として残るつもりはないというし、娘が選ぶ人を認めたいと思っている。

 娘の支えになってずっと大事にしてくれるなら、身分や職は可能な限り口を挟まない」

「経歴のない移民でも良いってか……」

「幸い二人とも目立つ容姿ではないし、異なった風習に固執している雰囲気もない。

 リーシアは後継から外れているし、溶け込むのは難しくないね。

 周囲も極度に警戒することはないだろうから問題はないよ。

 ジオ君の方は相手を挑発しがちだけど、状況を見て動いている。

 ゼオ君は大人しすぎるけど、ジオ君に合わせて黙っているだけだよね?

 行動が読みづらくて怖いのはゼオ君の方だけど、悪い子には見えないし。

 どちらもここに慣れてくれば上手くやってくれそうに見えるよ」

「……」


 ジオは隣にいるゼオを睨んだ。

 ゼオは心を読めないためどういう意図か正確なところは分からないが、後で『心構えが欲しかった』と愚痴られるとは知っている。

 まさに今そう思っているのかもとは考えたが、ゼオも未来を視ていなかったのだから心構えなど出来ていなかった。

 ゼオも後で『分かる』事だが、アドニスの言葉に嘘はないらしい。

 少なくともそう聞かされる未来を、ほんのつい先程ゼオは視ていた。


「さて、こんな話をしてしまったけど、二人は平気かい?」


 アドニスはからかうように尋ねた。

 ジオには意図が伝わっている。

 ゼオは視て知っているが素知らぬふりをした。


「何についてですか」

「リィに贈ったブローチだよ。

 今までもだけど困ったりしなかったかい?」

「お嬢様はブローチを滅多に使わないので」

「……そうか」


 アドニスは苦笑した。

 その笑みには、どこか安堵しているような、悲しんでいるような、様々な感情が織り混ざっていた。


「他の魔石は熱心に勉強していたんだけどね。

 なら二人ともリィに気持ちを気付かれてはいないのかな」

「……シアは」

「気付かれてはいないです」


 ゼオはジオの発言を遮った。

 調子を狂わされているジオが何を言うか、ゼオは知っている。

 リーシアは自分が誰かに愛されると考えられなくなっている。

 それを両親に知られたくないはずなので、ゼオは迎える予定だった会話を変えた。


「俺達は友達としか思われてないですし、それは超えられないと思ってました。

 超えても良いという言葉、本気にしますけど」

「ぜひ本気にして欲しい。

 君達は娘が望まない事はしなさそうだし」

「嫌われたくないですから。

 それに俺達は互いに良い監視者になってしまいますし」

「それはそれで発展しなさそうで心配だなぁ」


 声を出して笑い始めたアドニスに、ゼオはその反応をどう受け止めるべきかジオへ視線を向けた。

 ジオはゆるく横へ首を振った。

 アドニスだけが楽しそうにしていた。


「一応娘には内緒だよ。

 私達はリィの幸せを願っている。

 先が視えるばかりに、あの子は子供らしく在れなかった。

 だからこれからは気持ち安らかに自分の幸せを探していって欲しいんだ。

 元婚約者は卒業するからもう少しで会わなくて良くなる。

 領地の問題は私達の仕事だ。

 どちらもひとまずのキリは着いている。

 ――国に仕える身としては、ひどく勝手な事をしているけどね」

「正直、表に出ない方が良い力です」


 ゼオがぽつりと呟いたのは本心だった。

 異能者自体、力が大きい上に数が少なくて、本人も周囲も多大な影響が出る。

 その上でゼオやリーシアの未来視やジオの読心は、隠す事が可能で、かつ権力と相性がとても良い。

 悪く使おうと思えば卑怯な手段や犯罪にもとても便利に利用出来る。


 アドニスは柔らかく微笑んだ。


「二人に出会えた事をありがたく思うよ。

 では今後の話に切り替えようか。

 二人はどうしたい?」


 顔を見合わせる二人に、アドニスは『まだ決められないでも良いよ』と救いを与えた。

 

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