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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
94/124

心の底 ジオの聞いたもの

①おそらくカッコが読みづらいです



②人の表裏 罵倒 侮蔑 異常

 人間関係

 たぶん他にも


対した表現はありませんが、

そういったものが苦手な方は飛ばしてください

 リーシア達が到着し、宰相夫妻が笑顔で出迎えた時――




 迎えられた玄関で、リーシアは宰相に挨拶し、ジオとゼオを軽く紹介して練習や経験のためにと同席を頼んだ。

 宰相と話してみたいとすぐに了承した。


「リィの友達に私が罰を与える訳がないからね。

 どうぞ、会談に付き合う従者の雰囲気を味わってみると良いよ」

(可愛いリィを助けるために彼が送った二人か)


 するりとジオに聞こえてきたのはそれだけだった。

 簡単に聞こえるのは表層の思考や感情だ。

 その奥に潜む感情や思考は深く絡み合い、ほどいて覗き見るには難解そうな人物だった。

 意識して踏み込まないと読めそうにないものの、宰相の隣に寄り添う婦人が気になって、その場では止めた。


「ふふ、新しいお友達なのね。

 リーシアちゃんは本当に誰とでも仲良くなるのね」

可愛い息子(エイゼン)との婚約を解消して従者(べつのおとこ)と仲良くするなんて、本当にはしたなくて嫌な()だこと)


 婦人の感情も複雑に何層にも絡んでいて、侮蔑の奥に何かあるのにジオは気付いたが、こちらも簡単には読めなかった。

 人の良さそうな優しい微笑が偽りであるのだけは十分に読み取れた。

 心を読めなければ分からないほどに、婦人の表情は完璧に作られていた。




 案内された部屋で、リーシアは宰相夫妻にジオとゼオの紹介から始めた。

 名前から始り、別の国から来た事、貧しくて教育は受けておらず旅暮らしだった事、出身国も曖昧だと、身元不明で確認出来ない事をさりげなく混ぜながらリーシアは話した。


「――父がヴィジット領を訪れた二人と知り合って、私の我が儘に付き合って貰えるように頼んでくれたのです。

 二人とも町の暮らしに詳しくてとても勉強になります。

 頼りになる兄のような方々ですの」


 リーシアの言葉と感情は大体一致していて、心が温かくなるような信頼がジオに伝わってきた。 

 リーシアの紹介が終わるのに合わせて、ジオとゼオは少し荒さが目立つ礼を見せた。

 不出来な礼に、婦人はにこにことして二人を見た。


「聞けば短い期間なのに頑張って覚えたのね」

(練習にしてももう少し覚えさせてからでしょう)

「これならすぐに仕事を覚えて相応しい侍従に成れるわ」

(この(オンナ)にはお似合いだけど)

「ヴィジット様は良い子達を見つけたのね」

(あの夫婦は本当に憎らしい(読めない)わ。

 この二匹に裏切られて没落すれば良いのに)


 ジオは人の心の闇を読み慣れているが、この見た目と中身のギャップのひどさは久々だと感心すらした。

 婦人は母親が幼い子供が見つめるような、慈愛に満ちた優しい表情をしていた。


 宰相は苦笑して二人を見た。


「彼の人を見る目は飛び抜けているからね」

(夫婦揃って素晴らしいからね!)

「けれど二人は侍従になるのかな?」

(それとも婚約者候補として近くにやったのか)

「護衛にはならないのかな」

異性(おとこ)を付けるなら同性(おんな)ではない理由があった方が良いが。

 後々(リィ)の側に常に控えさせるなら納得出来る理由は多い方が良い)


 ジオが不気味に感じるほど、宰相の思考と感情は穏やかで優しげだった。

 そして違和感を忘れかけるほど、宰相は当たり前のように頭の中でリーシアを『娘だ』と考えていた。

 女の子という意味ではなく、実子という意味でだ。


「私はどんな形でも良いと思っております。

 ただお父様はお二人を無理には引き留めないと、また旅に戻っても良いように支援しておりますわ」

「……そうなのか」


 ふと、ジオはリーシアが何かに違和感を覚えたのに気付いた。

 宰相の心の声も途絶えた。


(おじさま……?

 いけない、未来を視てはダメ)


 リーシアの自制の声を聞き、ジオは宰相の心の奥に踏み込むタイミングだと、力付くで強引に入り込んだ。


〔この二人に先に出会えいれば彼らに認めて(ほめて)貰えたかもしれない。悔しいな。国外から来たのではさすがに先回って知り合うのは無理だったが。彼らがそこまで目をかける特別な何かがこの二人にはあるはずなのに、私にこの二人の特別さは何も見えてこない。早く彼らに追い付いて彼らの仲間になりたい。せめて彼らのお気に入り(このふたり)を私の派閥(なかま)にして、もっと彼らとの繋がりを深められれば。この二人が私と親子のように親しくなれば。リィを娘に出来なかったのは残念だが、私と親子のように親しい男をリィの夫に出来れば、それはもう家族だ! 私も含めて家族と言える! この二人を挟んで、いや本当は挟みたくない、けれどこの二人を挟んで家族になれるなら、この二人がもしリィの夫になるなら、どうやってでも信頼を得て、好感を得て、慕うように仕向けないと。ヴィジット家ともっと親しく、もっと深く、もっと特別に〕


 宰相のリーシアへの好意の下にあったのは、執着とも言えるヴィジット家への強すぎる好意だった。

 宰相の見た目の様子は全く変わりなく、かわいがっている知人の娘を出迎えた優しいおじさまのままだ。

 宰相は狂気じみた思考と感情を当然のものとして抱き、狂気を表面に出さず冷静に生活している。

 ジオは狂った人だなと距離を置きたくなった――ジオにとってはそれくらいの『異常』だった。


 一方で、リーシアが宰相へ向ける好意は、両親の友人に対する親しみだ。

 優しくて、可愛がってくれる素敵なおじさま。

 大好きだった元婚約者のお父様。

 申し訳ない迷惑をかけてしまい、負い目を抱いている相手。

 ジオが今まで読んできた人達と比べれば、好意や信頼は深い方ではあるが、『常識』の範囲内だ。


 双方の重みが釣り合わない好意は恐怖に変わる事もある。

 ジオはこれまでに様々な人の心を読み、狂気を読む機会もあった。

 既知だから自分は流せるだけで、こういった感情を我が身に浴びせられれば、普通は恐怖するものだとも知っている。

 突然常識外な過度の愛情を自分に向けられれば、『変質者』『異常者』だと嫌悪して逃げ出しても仕方がない。


 ジオは一旦深く探るのを止めた。

 読心自体は数秒だが、理解するには秒で済まない内容が圧縮されている。

 引き出しすぎれば目の前の会話を聞き流したり、自分の思考が混乱する。

 抜き出した感情か推測か目の前で音に変化している会話なのか判別出来なくなる。

 リーシア達の会話はまだ続いているので、ラグがない程度に抑えるた方が良いと、ジオは判断した。


「町や村で暮らす民には貴族の生活は堅苦しくて不自由に感じるとも聞きますもの。

 安定した給金で引き止めるより、本人が満足出来る道を応援したいそうです」


 宰相は二人へ視線を移し、リーシアもそれに倣うように振り返った。

 ジオはへらっと愛想笑いを浮かべた。


(ジオは大丈夫?聞こえているかしら。

 辛ければ無理には読まないで下さいね)


 力で強引に覗かなくても伝わってくる、リーシアからの純粋な心配(好意)は心地よかった。

 宰相夫妻の毒が中和される錯覚をした。


(無理はしないでくださいね。

 今は『雇用者』として叱りますので、このまま話を合わせて退室しても大丈夫ですよ)


「ジオ、笑う時は上品に。

 練習させて貰っているのですから真剣に」

「ごめ……じゃなかった、すいません」

「申し訳ございません」

「申し訳ございません」


 より丁寧に訂正したリーシアの言葉をジオは大人しく復唱した。



「ふふ、こうした事がついて回るから、使用人にはなりたくないと言う人も多いの」

(カイ様も言っていましたもの)

「表に出ない職なら、領内なら気にしなくても良いのだけど」

(それでも良いから残って欲し……聞こえていたかしら、これは聞かないで)

「はい」


 ジオは微かに苦い笑みを浮かべて、短く返事だけした。

 リーシアの思いやる気持ちが清涼剤のように染みた。


 会話の間ずっと、ゼオはジオの横で表情を動かさず静かに立っていた。

 ゼオはジオにとっては戦友と言える。

 いざとなれば能力を駆使して、ジオとリーシアを助けてくれるだろうという、味方を得ている安心感があった。


 リーシアは宰相夫妻に向き直って頭を下げた。


「おじさま、おばさま、ありがとうございます。

 二人が先を選ぶのに、今日は良い経験になると思います。

 少しの間違いでも大きな処罰を与える方もいるそうですから」

「そうだね。

 私も予め話を聞いていない状態で今の彼らを連れてきていたら気分を害したかもしれない」

(そんなことはありえないが、もし害するとしたら――もし新しい婚約者だと連れてこられたら、どう感じていたかわからないな。

 第三王子との接点は増やしていたんだが、リィがまだあちらを選ぶ可能性もあるだろうか)

「作法にうるさい名家なら首で済むか分からないな」

(可愛い家族(リィ)の前でそんな真似は絶対にしない)

「リーシアちゃんはもう立派な淑女ね。

 使用人を叱り育てる事も出来るようになって」

無知な子供の癖に(こむすめが)大人ぶって、無様だわ)

「本当に、娘になって欲しかったわ。

 エイゼンと結婚しなくても良いから家へこない?」

(今なら泣き悔やんで謝れば許してあげるのに)


 婦人は明るく優しげに、裏を感じさせない微笑みを見せた。

 しかし思考の方向性が変わり、ジオは今度は婦人の心の奥へと踏み込んだ。


〔この子は生まれながらに恵まれているわ。うらやましい(にくい)。だから簡単に私の可愛い息子(婚約者)を手放すのよ。夫がこの子を可愛がるのは小児趣味があるからなのかしら。私と夫婦になっても、ヴィジット夫妻ばかり見て。ヴィジット婦人(あのおんな)()噂があった(好きだった)のだもの。あの女を諦めきれないから娘を? 汚らわしい。……でも、リーシアちゃんは可哀想だわ。息子(エイゼン)を捨てたのは憎らしいけど、病弱で、(この人)に執着されて、婚約のために後継者からも外れて、解消したのにそのままで。市井に下りるだなんて、義弟に遠慮しているのかしら。本当に可哀想(あわれ)ね。可愛い息子(エイゼン)を捨てた女に幸せになってほしくないけど、不幸にはなって欲しくないわ。ちょっとだけ痛い目を見れば良いのよ。それで許せるのに〕


 婦人の心の内はリーシアを憎みきったものではなく、同情や心配、気遣いも見られた。

 内側を知らないリーシアは婦人の外側に答えた。


「ごめんなさい、おばさま。

 エイゼン様のように素敵な方なら、私よりもっと優れた女性の方が良いと思いますの」

「エイゼン『様』だなんて」

(嫌味かしら)


 リーシアがエイゼンに様をつけて呼んだ事に、婦人はショックを見せたが、内面の怒りと憎しみが増していた。


「良いのよ、今更様なんて付けなくて。

 二人は仲の良い幼馴染なのだし、今まで通りに呼んであげてちょうだい?」

(呼び捨てにしたら許さないけど)

「……ところでリーシアちゃんはエイゼンとの結婚にそんな事を考えていたの?」

(そうよ、この子では頼りないわ。

 子供(後継ぎ)すら産めないかもしれないもの)

「自分の体調にも自信がありませんし、淑やかさに欠けている自覚もあります。

 エイゼン様は――けじめですので、敬称を付けさせてください」

(まぁ! 逆らうなんて本当に生意気な()

〔でも、これが本心なのだとしたら、可哀想な子ね〕

「エイゼン様は素敵すぎますもの。

 きっと私、隣に立とうとして無理をしてしまいます」


 ジオは惹かれるままに、別の男を褒めるリーシアの心に力を向けていた。

 表層に現れないよう抑え込まれた部分で相手をどう考えているのか、知りたい衝動に抗えなかった。


〔美容も勉強も、作法も頑張ったわ。

 振り向いてほしくてずっと頑張り続ける未来もあった。

 何をしても、振り向いて貰えなくても。

 頑張るのはもう無理なの〕

「私、体も心も自分の足で立てる強さを身に着けたいと思っているんです」

〔期待して愛されたいと思うから駄目なのよ。

 一人で生きられるようになれば良いの〕

「結婚すると相手方にも迷惑がかかりますし、甘えてしまいますわ。

 だからしばらくは結婚したくないのです。

 特に役人になる方は早い段階での結婚が推奨されていますし、エイゼン様みたいに優れた方は是非思うままに頑張って欲しいのです。

 足枷になる私は一緒にならない方が良いと思いましたの。

 今は町で暮らしたり仕事をしたり出来たらと考えていて、実はとても楽しみなんです」

〔私は思い合う二人の足枷になるのだから。

 私は一人でも、町に出てきっと楽しく生活出来るわ。

 今は穏やかな未来に続いてるのだもの。

 そのためにも頑張って慣れなくては。

 一人で(だれかの)生きられる(愛を期待しない)ように〕


 ジオはリーシアの心に伸びている自分の力を止めた。






 婦人は悲しそうにリーシアを見つめ、ハンカチで自分の目元を拭った。


「リーシアちゃん……」

(こんな事、こんな年で考えているはずがないわ。

 きっと台本があるのよ。

 きっと、貴族の暮らしに不満を抱いて平民に憧れているだけよ)

〔でなければ憎めないじゃないの〕


 婦人の推測通り、リーシアが宰相夫妻へ説明する内容のほとんどは事前に相談して決めていた。

 けれど騙すために大きく偽っている場所はなかった。

 ――夫妻の息子が将来別の女性に心を移してしまうと、伝えられない事を除いて。


 宰相は困ったように微笑んでいた。


「エイゼンを高く買ってくれてありがとう。

 息子の幸せを願うならあのまま結婚してくれた方が良かったが――これ以上リィを困らせてはいけないな。

 その話はやめよう」

(私の(リィ)は本当に良い子だ。

 これ以上困らせては可哀想だ)

「学園での話を聞かせてくれるかな。

 友達や勉強はどうだい?」

愛娘(リィ)が決めたのなら、それを尊重するのが良い父だろう)

(リィ)と息子との結婚は諦めれば良いが、愛しい娘の信頼は諦められない〕


 それから話題は完全に変わり、リーシアは宰相夫妻に学校での事や、実家との手紙のやり取りなど、様々な話をした。




 見た目上はまるで、娘が中の良い両親に学校での出来事を聞いてもらっているような和やかさがあった。

 暫しの歓談の後、宰相婦人は退室を口にした。


「私はそろそろ席を外しますね。

 あなた、あまりしつこく聞いて疲れさせては駄目よ。

 リーシアちゃん、この人にとっては可愛い娘との憩いの一時なの。

 付き合ってくれると助かるけど、くどいようなら叱ってあげてね」

(――二人きりにすればいつかこの子に手を出しそうだけど。

 そうなれば夫の責任で離婚をちらつかせて私は有利になれるのに)

〔ただの嫉妬からくる妄想だってわかってるの。

 リーシアちゃんをそんな目に合わせたい訳じゃないわ。

 二人にして、大丈夫なのかしら。

 大丈夫、今日は未熟でも従者がいるし。

 大丈夫、大丈夫、大丈夫……〕


 婦人の内心は相反する感情が渦巻いていた。


「こらこら、変な事を言うんじゃない」

(可愛い娘と二人きりで会話させてくれる良い妻だ。

 素晴らしい、良い家族だ)


 くすくすと笑いながら、夫人は部屋から出ていった。

 去る夫人の背中に視線が集中し、部屋にいる者達の浅い部分での思考が止まった。


 上部だけの静けさに包まれた後、ジオが一番に拾い上げたのはリーシアの疑問だった。


(おじさまは普段から私や両親には警備も置かないけれど、屋敷や部屋の外にはしっかりと配備しているわ。

 おじさまに何かあれば国政に影響を与える可能性があるのは分かるもの。

 もっと警備を整えてもヴィジット家(わたしたち)は何も不快に(悪く)思わない。

 気付かなかっただけで今までの信頼も行き過ぎだったわ。

 そして雇用年数の短い(信用に足りない)男性二人と同室で、護衛を置かないのは……

 どうしてなのかしら。

 おかしいわ……)


 三人になり、宰相は立って控える二人に視線をやった。


「君達は立ちっぱなしで疲れないかい?

 若いから大丈夫かな」

(愛娘と二人きりで話せる機会だ。

 二人は空気を読めるかな)

〔だがどちらかが義理の息子(リィの夫)になるなら私が追い出すのは得策じゃないな。

 むしろ引き留めた方が印象が良いか〕

「お気遣いありがとうございます。

 疲労はまだありません」


 ゼオが答え、リーシアはまた後ろを振り向いた。


(ゼオ様は平然(堂々)としているのね。

 ジオ様がもし返答に迷って読んでいるならこれ以上答えなくても大丈夫です。

 回答に困る話へ繋がると怖いですから)


 宰相はゆっくりと大きく頷いた。


「このまま立って会話を聞いているだけでは暇かと思ってね。

 これは練習だし、別の部屋で控えている者達と合流して飲み物でも飲んできたら良いのではと思ったんだ」

(リィと二匹はどうでるかな。

 二匹の調査は続けるとして、今後この二匹には接触していく必要があるかもしれない)

「ありがとうございます、おじさま。

 でも二人は今日はこの空気をよく味わって貰うのが仕事なんです。

 今後を決めるためにも」


 リーシアは柔らかい笑みをうかべ、宰相はいたずらっぽく笑った。


「父親の気分で可愛い娘と二人で話をしたいと思ったんだけどね?」

(君もそう思うだろう?)

「ふふ、ありがとうございます。

 私もおじさまはお父様みたいで大好きですわ」


 リーシアの笑みはぎこちなく、そのまますぐに視線を伏せた。


「本当ならお義父様と呼ぶはずだったのを、拒んだのは私はですけれど」

(いけない、恐れが出てしまったわ。

 隠さないと)

「リィ……そんなに気に病まなくても良いんだよ」

(私の言葉がリィを傷付けてしまうなんて。

 ()しい事だ)

「エイゼンとの事はちゃんと分かったから」

(そんなに気にしなくて良いんだよ。

 息子と結婚しようがしまいが私達は家族になれるんだ)

「ただリィの事はこれからも応援させて欲しい」

(婚姻なんてなくても、私達は家族だ)

「応援ですか……?」

「そう、君の助けになりたい」

(二人目のお父様と呼んで欲しい)

「困った事があれば頼ってほしい。

 困ってなくても訪ねて来てほしい」

〔もし来なければ、来たくなるように誘導してあげよう〕

「勿論私はこれからも君のご両親に会いにヴィジット領に遊びにいくよ」

(君達家族が大好きだからね!)

「どうか嫌がらずに今まで通り、おじさんとお話してくれないか」

(可愛いリィなら当然そうしてくれるだろうが)

〔そうしてくれないなら彼ら(わたし)の娘ではないな。

 彼らの娘(リィ)がそんな酷い訳がない。

 そんな事をするような娘に育ったなら排除しなければ。

 家族(彼ら)のためにも〕

「おじさま……

 ありがとうございます。

 これからもよろしくお願いします」


 宰相の笑みは優しく、リーシアはふわりと信頼仕切ったような笑みを返した。


(優しいおじさまを疑うだなんて……私が視た未来がおかしかったのだわ。

 そんなはずないのに。

 ——今はそのまやかしに浸かりましょう。

 その方が普段通りに振る舞えるもの)

〔目に見える優しさが信じられない。

 それほど私は醜いのだもの。

 現在(いま)が昔視た未来(いま)と違っていても、やっぱり私は醜いままなのね。

 エイゼンが呆れて、お父様にもお母様にも見捨てられる——そんな私だもの。

 本質は変わらないの、汚い〕



 リーシアと宰相の会話は、そんな風に互いの闇を刺激しながら、表面上はただ穏やかに親しげに時間が流れていった。


 帰る時にはリーシアはお土産として宰相夫婦にお菓子をねだった。

 宰相夫妻は遠慮せず甘えて貰えれば嬉しいと、満面の笑みを見せて土産を用意した。


(図々しい()ね。

 遠慮しないでを真に受けるなんて)

〔そんなに信頼して好意を向けてこないで!

 憎みたいの、嫌いなのよ、嫌わせて。

 悪い子になれば良いのに〕


(もっともっと甘えてくれて良いのに)

〔リィは私と彼らの娘なんだから。

 お菓子なんて言わず、金でも宝石でもねだれば良いのに。

 それをねだらないからこそリィであり彼ら(わたし)の娘なんだ。

 あぁ、愛しい〕



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