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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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訪問 1

 リーシア達に特に大きな異変もなく、町への外出や手紙で相談や打ち合わせも順調に進み、帰省が許される時期になった。


 ユレアノはリーシアと離れるのをひどく寂しがったが、普段通りだ。

 エイゼンにまつわる傷がまだ痛むので、リーシアの方は会わない期間が嬉しかった。


 宰相を訪ねる件でカチュアとマロッドは心配したままだった。

 リーシアはカチュアには悪い予感はしないとは告げた。

 カチュアは疑念を残しながらも納得をした。

 マロッドは元々悪意や悪い可能性を考えるのが苦手なので、リーシアの『大丈夫』をそのまま受け入れた。





 リーシアのヴィジット領は王都から遠い方で、他の生徒らより早くに学園を出た。

 学生らが一斉に帰省すれば混雑が起きるため、帰省先が遠い生徒から時期を調節して長い休みが組まれている。

 効率や防犯を考えた処置だが異能者はこれにあたらず、離反や失踪・誘拐の可能性がないよう手配され、他の生徒とずらした日程で組まれている。


 ルクレイスにはばれているものの、リーシアは一生徒なので異能者の縛りは受けていない。

 ただいつのまにかイシュテがリーシアの専属侍女としてヴィジット領の使用人として控えている。

 それ以外の使用人は知っている者達ばかりで、ジオとゼオも居て、特に引っ掛かる点はなかった。

 リーシアはイシュテの関連だけ気になって未来を視てみると、知らない男性と連絡を取っているのが視えた。

 少なくとも一人、隠れて帰省するリーシアを見ている人がいる。

 それはすぐにジオへと伝わり、ジオはゼオに合図で伝え、これで三人は迂闊な言動を取らないよう警戒出来た。




 リーシア達はエイゼンの父である宰相の屋敷へと向かった。

 宰相は婦人を伴って笑顔で出迎え、二人ともリーシアとの再会を喜んだ。

 エイゼンはまだ学園から帰ってきておらず屋敷には居なかった。


 もう何度も訪れている場所で、普段なら護衛や侍女は別室で休み、リーシアだけが宰相夫妻やエイゼンと話したりしている。


 今回はリーシアからジオとゼオの同席を頼んだ。

 宰相も二人と会って話してみたいとすぐに了承した。

 この訪問が問題なく終わると知っていてもリーシアの不安はゼロにはならない。

 ただ読心後のジオから告げられる内容を視ないままで話し合いに挑むのはそこまで難しくなかった。

 知りたい感情に知ってはいけない理性が勝ったのは、納得出来る説明と二人への信頼感からだ。

 問題なく終われる未来から外れないようにと、そもそも未来を視ないよう念を押された。

 無理に最善を目指せば体調を崩す可能性があるし、心配なだけでなく、体調不良で倒れればこれも未来を変える可能性に繋がる。

 特に未来視で危ないのは、読心後のジオが告げる内容を知って、宰相訪問時に平静を装えない事だ。

 ――ジオとゼオが伝える内容を取捨するために、本人に未来視でそのための会話を知られたら困るという理由があることには、リーシアは気付いていない。



 案内された部屋、リーシアは座る前に宰相夫妻にジオとゼオの紹介から始めた。

 二人は友人かつ使用人として紹介するものの、この場では使用人として、挨拶が済めば近くで立って控える。

 緊張しているし練習にもなるからと言えば、宰相夫妻は友人を立たせたままの状態を不審がる事もなかった。

 玄関で顔を会わせた時に軽く紹介しているが、リーシアは改めて紹介しなおした。


「――父がヴィジット領を訪れた二人と知り合って、私の我が儘に付き合って貰えるように頼んでくれたのです。

 二人とも町の暮らしに詳しくてとても勉強になります。

 頼りになる兄のような方々ですの」


 リーシアの言葉が終わるのに合わせて、二人は少し荒さが目立つ礼を見せた。

 紹介はここで終わり、宰相夫妻は二人に簡単な言葉をかけ、リーシアと宰相夫妻は対面になるソファに座った。

 二人がこの場に居てもリーシアと宰相夫妻との会話になる。

 二人の話題が出ても、二人は使用人として掛けられた言葉に応えるだけに留めると決めてきた。

 その対応を自然に見せるためにも背後に控えて立つ方が都合良かった。


 リーシアの紹介は打ち合わせ済みの内容で、礼は二人とももう少し上手く出来るようになっていたが、『それらしさ』のために雑にした。

 代わりにジオは顔を引き締めているし、ゼオは暗く見えないよう服装を整えてきた。

 不出来な礼に、婦人はにこにこと、宰相は苦笑して二人を見た。


「聞けば短い期間なのに頑張って覚えたのね。

 これならすぐに仕事を覚えて相応しい侍従に成れるわ。

 ヴィジット様は良い子達を見つけたのね」

「彼の人を見る目は飛び抜けているからね。

 けれど二人とも侍従になるのかな?

 護衛ではなく」

「私はどんな形でも良いと思っております。

 ただお父様はお二人を無理には引き留めないと、また旅に戻っても良いように支援しておりますわ」

「……そうなのか」


 それは本当に些細だが、リーシアは宰相の反応に違和感を覚えた。

 特に根拠のない、自分の知る姿との差による違和感だ。

 今未来視を発動して予定が大幅に狂うと怖いので、リーシアは力が発動しないよう気を引きしめた。


「町や村で暮らす民には貴族の生活は堅苦しくて不自由に感じるとも聞きますもの。

 安定した給金で引き止めるより、本人が満足出来る道を応援したいそうです」


 無論相手によるものの、二人に対してリーシアの父はそう示している。

 宰相は二人へ視線を移し、リーシアもそれに倣うように振り返った。

 リーシアは心を読んでいる予定のジオを心配していたが、視線を集めたジオはへらっと愛想笑いを浮かべた。

 リーシアは『雇用者』として諌めた。


「ジオ、笑う時は上品に。

 練習させて貰っているのですから真剣に」

「ごめ……じゃなかった、すいません」

「申し訳ございません」


 より丁寧に訂正したリーシアの言葉をジオは大人しく復唱した。


「申し訳ございません」

「ふふ、こうした事がついて回るから、使用人にはなりたくないと言う人も多いの。

 表に出ない職なら、領内なら気にしなくても良いのだけど」

「はい」


 ジオは微かに苦い笑みを浮かべて、短く返事だけした。

 ゼオはこの間ずっと、表情を動かさず静かに立っていた。

 リーシアは宰相夫妻に向き直って頭を下げた。


「おじさま、おばさま、ありがとうございます。

 二人が先を選ぶのに、今日は良い経験になると思います。

 少しの間違いでも大きな処罰を与える方もいるそうですから」

「そうだね。

 私も予め話を聞いていない状態で今の彼らを連れてきていたら気分を害したかもしれない。

 作法にうるさい名家なら首で済むか分からないな」

「リーシアちゃんはもう立派な淑女ね。

 使用人を叱り育てる事も出来るようになって。

 本当に、娘になって欲しかったわ。

 エイゼンと結婚しなくても良いから家へこない?」


 婦人は明るく微笑みながら口にした。

 その微笑みは優しげで、全く裏が感じさせない笑みだった。


「ごめんなさい、おばさま。

 エイゼン様のように素敵な方なら、私よりもっと優れた女性の方が良いと思いますの」

「エイゼン『様』だなんて」


 幼馴染兼婚約者として、リーシアとエイゼンは今まで呼び捨てにしあっていた。

 様をつけて呼んだ事に、婦人はショックを見せた。


「良いのよ、今更様なんて付けなくて。

 二人は仲の良い幼馴染なのだし、今まで通りに呼んであげてちょうだい?

 ……ところでリーシアちゃんはエイゼンとの結婚にそんな事を考えていたの?」

「自分の体調にも自信がありませんし、淑やかさに欠けている自覚もあります。

 エイゼン様は――けじめですので、敬称を付けさせて頂きます。

 エイゼン様は素敵すぎますもの。

 きっと私、隣に立とうとして無理をしてしまいます。

 私、体も心も自分の足で立てる強さを身に着けたいと思っているんです。

 結婚すると相手方にも迷惑がかかりますし、甘えてしまいますわ。

 だからしばらくは結婚したくないのです。

 特に役人になる方は早い段階での結婚が推奨されていますので、エイゼン様と私は一緒にならない方が良いと思いましたの。

 今は町で暮らしたり仕事をしたり出来たらと考えていて、実はとても楽しみなんです」

「リーシアちゃん……」


 婦人は悲しそうにリーシアを見つめ、ハンカチで自分の目元を拭った。


 リーシアが宰相夫妻に話したのは、相談して決めていた理由だった。

 体調や能力を前面に出しすぎれば面倒をみるから気にしないでと引止められる。

 リーシアの我が儘だと、望んだ事だと話した。


 宰相は困ったように微笑んでいた。


「エイゼンを高く買ってくれてありがとう。

 息子の幸せを願うならあのまま結婚してくれた方が良かったが――これ以上リィを困らせてはいけないな。

 その話はやめよう。

 学園での話を聞かせてくれるかな。

 友達や勉強はどうだい?」



 それから話題は完全に変わり、リーシアは宰相夫妻に学校での事や、実家との手紙のやり取りなど、様々な話をした。


 リーシアは友達の名前を出さないよう気を付けた。

 二人の記憶に残り、いずれエイゼンがユレアノを連れてきた時、『親友の元婚約者を奪った』イメージになるのを恐れたためだ。

 しかし全く出さないのではまるで仲が悪いように見えそうで、リーシアはその加減に苦労した。

 見た目上はまるで、娘が中の良い両親に学校での出来事を聞いてもらっているような和やかさがあった。



 暫しの歓談の後、宰相婦人は席を立った。

 これはいつもの事で、気分を害したからだとか、疲れたといった空気ではない。


「私はそろそろ席を外しますね。

 あなた、あまりしつこく聞いて疲れさせては駄目よ。

 リーシアちゃん、この人にとっては可愛い娘との憩いの一時なの。

 付き合ってくれると助かるけど、くどいようなら叱ってあげてね」

「こらこら、変な事を言うんじゃない」


 くすくすと笑いながら婦人は部屋から出ていった。

 部屋の中に宰相の家の使用人はおらず、婦人はいつもこのタイミングで、扉の外に控える使用人にお茶やお菓子の追加を指示している。

 普通なら同じ部屋の中、客人とその使用人二人に対し、家の主が一人で向かうなんて事態は防犯上ない。

 リーシアは宰相と面識のない二人を連れてきて初めて、宰相のリーシア一家への扱いが行き過ぎていると気付いた。

 今までリーシアは宰相夫妻と話す間に、ヴィジット家の使用人をわざわざ部屋の中に控えさせたりはしなかった。

 もし必要がある時は、配慮としてヴィジット家に長く仕える者を選んでいる。

 だから宰相が寛容過ぎると気が付かなかった。

 けれど今回同席を求めたジオとゼオは雇い入れたばかりの、いわゆる『信頼に足るか分からない使用人』と言える。

 特に宰相と言えば国の重鎮であり、その身に何か起これば国政に影響を与える可能性だってある。

 扉の向こうや近くで控えている者がいるといえ、その二人を同席させたまま、室内に婦人と二人、もしくは宰相一人で残るというのはおかしい話だった。

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