招待 4
ジオの説明が終われば後は内緒の話だ。
ゆっくりアクセサリーをみたいらしいとゼオがカイに説明して、この日に回る店は予定より減らしている。
ジオへ状況を伝え終えたらまた上手く誤魔化して、今度はジオとゼオが話してと、遠回りでもカイ達に不審を与えないように調節する予定でいる。
リーシアは細かな細工や使われている石を眺めながら、心の中で詳しい状況を思い浮かべた。
(元婚約者のお父様である宰相から休みの前に家へ訪問しないか誘いがありました。
おじさまは私が第三王子様と結ばれた場合、ヴィジット領を滅ぼそうとする方です。
けれど、現状では婚約解消はエイゼンが悪かったのではと心配してくれているような、私を可愛がってくれるおじさまです。
今のままなら敵にもなりません。
何がきっかけで――憎まれるのか、知りたくて……心を読もうと思ったら、未来が視えました)
視えたものを言葉にすれば良いか、リーシアは迷った。
しかし思い浮かべた事で、それはしっかりジオへ伝わった。
ジオはアクセサリーに夢中になる女の子の側で退屈そうにしている男のように振る舞っている。
たまにちらっとリーシアを見て、店内を見回して、興味なさげに近くのアクセサリーを見たりしていた。
「そろそろ決めないか?」
「まだ……」
「どれで悩んでるんだ?」
買う気で入ったのでないため、リーシアはジオの問に迷った。
それからアクセサリーの話ではないのかと考え直した。
しかしジオは苦く笑っていた。
「こういうの興味ないんだ?」
「……実は、あまり」
――飾っても無駄だったもの。
伝えたいからでなく、心が反射的に理由を呼び起こした。
そんな思いを抱いたと伝わってしまった事が切なく、リーシアは自己嫌悪した。
「……何で分かっちゃう俺を嫌わないかなぁ」
ジオの呟きは小さかったが、リーシアにはしっかり聞き取れた。
「ジオ様は悪くないですもの」
「オヤジさんから給料出てるし、お嬢様に感謝を込めて何か贈りたいって思ってたんだけど?
ゼオと二人で~になるけど」
伯爵様とは呼べないため、町中ではリーシアの父は『オヤジさん』と呼ぶようになっていた。
「むしろ二人に私が感謝を贈りたいですわ。
側に居てもらえて、とても心強いですもの。
私の卒業後のために、協力してもらえて」
「……シアにはその内に男心を教えないといけないな。
このままだと町に出せない」
「何か悪い事を言ってしまったかしら。
ごめんなさい」
しゅんと落ち込むリーシアから、ジオは視線を外した。
悪い事は言っていないが、勘違いさせる言葉をポイポイ吐くし、見栄を張りたい部分をへし折られて地味に辛かった。
「悪い事は言ってないが、このまま町に出ると悪い男に狙われる。
シアならかわせるだろうけど、わざわざ嫌な思いはしなくて良いだろ。
それは置いておいて」
リーシアはエイゼンに愛されないために絶望していて、そういった忠告が真の意味では響かない。
ジオは話題を戻した。
「シアは家に帰るような休みがあったりする?」
「え?はい。
もうすぐ帰省のための休みがあります。
学園に残る人もいますが、私はいつも帰って――いるわ」
リーシアは言葉遣いが戻っていたのに気付いて変えた。
「それ俺達は置いていかれるの?」
「ええと……いつも決まった方々に送ってもらっているの」
送迎や護衛専門の使用人がいると、どう言葉にすれば他人に聞かれても問題ないか、リーシアは迷った。
言いながらそういう話ではなさそうな気もしてきていた。
「ジオとゼオは案内の仕事でそれ以外は勉強しているのよね?
私が帰省している間はここで勉強になるのだと思っていたのだけど」
「えぇ……」
「ジオが帰省の話を聞いていないのなら、父もその予定だと思うの」
「そうかもなぁ……オヤジさん善意で勉強勧めてくるからな」
善意以外で奨める人がいるのか、期待は善意に含めて良いのかと考えるリーシアに、ジオは勧めると奨めるの微妙な意味合いの違いに変な納得をしていた。
ジオ達の面倒を見てくれる商人は、最低限学園からの評価に関わる点を別として、ジオ達がこの先どんな道を選んでも応用が効きそうなものを優先的に教えてくれていた。
「俺達が帰省とかに着いていったら安心しない?」
「お二人が?」
二人が一緒に来てくれる。
その言葉が染みた時、リーシアは未来が視えた。
ο ο ο
「そんな事、お願いするなんて」
「お願いされてない。
俺がやろうと考えてるだけだ」
「でも……」
ジオがいたずらっぽく笑い、ゼオが溜め息をつく。
「シアがやったとしてもジオは勝手にやる。
だったらシアはやらなくて良い。
慣れてるジオに任せれば良いよ」
「……」
「キモい奴もおかしい奴も出会って来てるからな。
シアが怖がるような事を考えてたって俺には怖くないだろうよ。
それに、単純に俺の方が使い慣れてる」
「……でも」
「結果を考えろ。
シアが怯えて不審がられるのが分かっている方法なんて得策じゃない。
俺がそのおっさんの心を読めば良い。
俺ならせいぜいしかめ面するくらいでシアより上手く探れる」
「……」
「よし決定」
ο ο ο
「……あ」
視えた光景に、リーシアは小さな呟きを漏らした。
リーシアもジオに頼るという手段があるのは分かっていたが、自分が恐怖するようなモノを代わりに見て欲しいなんて思わなかった。
「ごめんなさい……」
「大丈夫、俺がしたくてするんだから。
シアに頼まれた訳じゃない。
嫌がられても帰るのに着いていくからな」
リーシアは自分の頭の中で現実と未来が混ざっていたのに気付いた。
今ジオと話していたのは帰省の話で、宰相を訪ねる話ではない。
視えたものが伝わっているかも分からない、リーシアは動揺したが、ジオはいつになく優しい顔で笑んでいた。
大丈夫だと言うように。
「あの……」
「シアはゼオより感情豊だ。
あいつと一緒に居ても全く分からない時が多い」
茶化すように言われた意味を、リーシアはちゃんと受け止められた。
視えた未来で感情がリーシアの動いて、そこからジオはリーシアが視たものを読み取ったのだ。
ジオはリーシアの理解を肯定するように頷いた。
リーシアは読み取られた事にでなく、嫌な役回りを任せてしまう事に消沈した。
させたくない気持ちで動揺しているものの、決定したのだと理解していた。
ジオはリーシアの背を慰めようと手を伸ばし――触れてはいけない間柄だと思い出して引っ込めた。
男女が十把ひとからげに育つような場所で育った少女でもなく、気軽に触れて良いのは家族恋人なら、ジオが触れて良い理由はない。
会話が途切れた二人の耳に、カイの声が入ってきた。
「どうした?
何かあったか?」
リーシアもジオも、店の入口付近で待つカイとゼオの方を見た。
リーシア達は商品に向かうのをやめ、ゼオ達の方へ歩いた。
ゼオはちらりとリーシア達を見てから、カイへ首を横に振って返した。
「たまに立ち眩みがするんだ。
立ち眩んでも倒れない特技がある」
「特技とか言ってないでしんどいなら休んどけよ」
『特技』の言葉に、リーシアは思う部分があった。
「体調は悪くない。
癖みたいなものだから。
ありがとう」
「倒れる前に言えよ」
リーシアは小声でジオに呼ばれて、またゼオ達から少し離れた。
「アイツの特技だから。
シアなら分かってるだろうけど心配しなくて良いよ」
「大丈夫……なのでしょうか」
ジオのニュアンスからも、ゼオも未来を視ていたのだと、リーシアは確信した。
ゼオには何が視えたのか、この場でふらつくのはまずいため、リーシアは未来視で二人が同行してくれる日を今自分で確かめる事が出来ない。
ジオは困ったように笑った。
「シアは心配しすぎるな。
大丈夫だ。
帰省の事も気にするなよ?
――俺もゼオもちょっとは頼り甲斐がある男だ。
二人でじっくりと勉強して行くさ」
それまでの会話からも、リーシアの内心にも違和感のないジオの言葉に、リーシアの未来への怯えは和らいだ。
ジオなら何とかしてくれそうで、ゼオが一緒に未来を視てくれているのも嬉しかった。
リーシアはじわりと涙が滲んで、慌てて思考を追い出して感情を整えた。
貴族令嬢としても、エイゼンを騙そうと演技してきた経験からも、こうした切り替えをこなす自信はあった。
こうした時にリーシアは失念しがちだが、その繕う感情の動きもジオには筒抜けだった。
ジオも止まれぬ事態でないのに読み続けるのには葛藤があった。
しかしリーシアはジオが心を読んでいると思い込んでいる上に嫌悪がない。
ジオは最初、そう思わせるように誘導した部分はあった。
リーシアの人柄を探り信用に足るか試すためだったが、全て読める訳でも、常に読んでいる訳でもないと訂正する機会を逃してていた。
また気になる相手の心は気になるので、読みたい欲があり、もし読むまいとしても力が反応してしまっていると分かってもいた。
ジオは状況に流されているかのように、リーシアの心を読み続けている。




