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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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招待 3

 未来視でカチュアから聞かされた話を考えたまま、リーシアがまた町に出る日が来た。


 リーシアはジオやゼオとは徐々に親しくなり、元より少なかった二人への疑いはなくなっていた。

 二人への信頼もあって、リーシアは読心の魔石を遠ざけていた。

 町へ出る時は忍ばせているものの、ジオから言われた時しか使っていない。

 人の心まで読むのは気が引けて、学園で練習もほとんどしていない。

 ただでさえ無断で人の未来が視えるのに、道具を使ってまで心を読むには気持ちが上手く処理できなかった。



 一緒に何度も出掛ける間に、カイもジオと昔ながらの親友かのように気を許す関係になっていた。

 リーシアがジオやゼオと三人揃って話せる時間は取れないままだったが、気軽に二人で話せる時間は確保できるようになっていた。

 カイはジオの方が話が合うため、リーシアとゼオが二人で話す場合が多かった。


 相談したかったために、リーシアは町の暮らしや仕事の勉強より、観光に近い予定を組んでいた。

 ヴィジット領の一般家庭の収入を元に、遊びに出かけて自由に使っても良い金額を握りしめ、リーシアは町で必需品と嗜好品を見比べる勉強をする――と言う建前の予定だ。


 リーシアは散策の最中の休憩として、広場に出ている店で飲み物を買って、ゼオと一緒に近くのベンチにかけた。


 学園のある町やヴィジット領では当たり前のようにある休憩所だが、そう言ったものがない場所の方が多い。

 ベンチを設置するのに費用はかかっても直接の儲けはない。

 福祉にしろ経済への投資にしろ、そういう方向性を支持してお金を払う誰かが必要になる。


 カイとジオは二人から離れて周囲へ警戒しているはずが、気を抜いて雑談に集中していた。

 今まで何も事件が起きなかったためか、カイは気が緩んでいるようだった。

 今ではリーシアの護衛に来ているというより、学園生活の息抜きに来ている節もあった。

 リーシアは帰ってから怒られるカイの姿が視えたが、これはカイにとっては実習訓練なので、先を知ったからと口を出す気はない。


「元婚約者の家に招待されたって……大丈夫?

 修羅場……?」


 ゼオの反応もカチュアやマロッドと似た方向性で、ヴィジット家の方が特殊なのだと実感させられた。

 頭では理解していても、リーシアにとっては交遊を続けてきた相手だ。

 自分の見えている姿が本当の姿とは限らないと、リーシアも教えられてはいる。

 また同時にそれらしく見えたものが本当とは限らないとも教えられている。

 事態を一般化して考える事は重要だが、全ての事態が『一般』に当てはまるとは限らない。


「憎まれてはいないはずです。

 ……私が何から逃げたのか、どこまで知っていますか?」


 カイとカイの教官が付いてくるため、リーシアは未だ明確に二人と深い話をしていなかった。

 しかしリーシアはジオに心の内は筒抜けだと思い込んでいて、ジオとゼオが情報を共有しているのは当然だろうとも考えていた。


「……詳しくは知らないけど、信じていた人が敵になるとか」


 ゼオはカップを口につけて小さな声で言った。

 傍目にはただ飲んでいるようにしか見えない。

 リーシアは自分も買った飲み物を持っていたのを思い出した。

 自分達の話を聞かれていないか、秘密の話をするのに不審さを醸し出していないか、警戒するのも忘れていた。

 リーシアは落ち着くために、不審にならないためにも、飲み物に口をつけた。


「ここで全てお話するのはもしもが怖いので、ジオ様に読んで貰えると良いのですが。

 でも、できたら……相談させて欲しくて」

「知られるのは良いの?」

「良いというか、隠しごとは出来ないですよね?」


 不思議そうに首を傾げるリーシアに嫌悪感は見えず、ゼオは苦笑した。


 ゼオはジオが心の全てを自由に読めるわけでないと知っている。

 逆にジオが読もうとすれば大抵の隠し事は暴かれ、読もうとしなくても不意に聞こえてしまうとも知っている。

 ゼオは心を読まれるのを歓迎してはいないし、嫌になる時も腹が立つ時もある。

 それはジオも同じで、ゼオに自分の未来を知られるのは良い感情だけでない。

 ただお互い様で、どうにもならないと理解していて、危険回避などの救いになった経験もある。

 親しさと信頼からの許容だ。

 二人はリーシアほど気負いなく相手の力を当たり前のように受け入れて過ごせない。


 ゼオはジオの読心を少し羨ましく感じた。

 リーシアの本心を知りたいと欲し、同時に読まないで済むから力がなくて良かったとも感じた。

 力があれば読んでしまっていただろうから。


「ジオとどこかでカイの引き留めを代わるよ。

 その後でシアがカイを引き付けてくれれば詳しく聞けると思う」

「ありがとうございます。

 ジオ様を呼ぶために装飾品の店を見ようと思っています」

「分かった」


 リーシアもはっきりとは説明されていないが、ジオとゼオはあえて対照的な容姿を演出しているらしいとは察していた。


 ゼオは元々派手な衣装は好まないものの頓着していないという。

 リーシアと会う時は地味な装いばかりだが、本来は色もサイズも気にせず選ぶ。

 選ぶというより近くの服を手に取る。

 ジオがしばらく着ない服を放置するため、一番上に近くにあるものを着るらしい。

 つまり他人の服も気にせずに着る。


 ジオも暗い色の服は元々得意ではないらしい。

 しかし着ている頻度の高い、目立つ派手なタイプの服は好みではないらしい。

 見た目を際立たせつつ同じ服を着ないようにすると、選択肢が無くなっていくため、派手な服も着まわしに入るらしい。


 リーシアと会う時に二人が印象を固定しているのは意図的にである。

 理由は幾つかあるが、その内の一つはリーシアがどちらかと話したいと理由付けするのが簡単だからだ。

 常識や本の話題など硬い話はゼオへ、装いやお菓子など娯楽の話はジオへ。

 そう振る舞って、少なくともカイはそれを不審に思わないし、隠れてカイを見ている教官も興味を示さないという。

 実際、ゼオは流行りには興味がなくジオは娯楽に強い。

 しかしジオの世間一般常識面などの知識は広く、ゼオはお菓子を好み読書にはあまり興味がない。

 もし二人の性質をしっかり知っていれば、話題と選ぶ相手の組み合わせは正しいとは言い難いが、見せかけとしては適切な印象を与える。


 リーシアが飲み物を飲む間に、ゼオはジオ達を呼んでこの後の予定の調整をした。

 調整と言っても大きな変更はなく、行く場所を入れ替えるだけだ。

 大きな変更や予定外の場所への訪問はカイからストップがかかるようになった。

 もしカイが止めないと、帰った後でカイが教官から注意を受ける点が増える。

 指示に従い怒られる行動を避けるのは、評価を気にしてではなく安全を考えての選択だ。


 リーシアに近い位置で話していた三人は、話し終えたようでジオだけがリーシアの隣に歩いてきた。

 ごく自然に隣に座るのを見て、リーシアは何の深い意味もなく、慣れているのだと感じた。

 この国の貴族社会では、異性と距離も開けずに真横に座るのは家族か婚約者だ。

 友達でもしないし、ゼオも一人分より広い位の距離を空けていた。

 ゼオが気を使っただけで町中では普通なのかもと、何の気無く考えた、その程度だった。


 ジオは驚いたように目を見開いて、距離を空けて座り直した。


「悪い、つい気が緩んだ。

 俺とかある程度の付き合いがある奴はうっかり隣に座るかもしれないけど、親しくない野郎やニヤけた野郎がこんな距離に座ったら叩いていいぜ」


 ジオは自分の頬を平手で叩く振りをしながら言った。

 つい座ってしまってハッと気付いた、で不自然ではない範囲だ。

 リーシアは口元を手で隠しながら小さく笑った。


「人を叩くなんて出来ませんわ」

「そうですかね、お嬢様」


 何回も共に出掛ける内に、ジオはリーシアの口調が普段に戻ると、『御嬢様ごっこ』をしているようにおどけてみせるようになった。

 ごっこも何もリーシアは御嬢様で、所作からただの町人でないと気付く人は気付く。

 しかし冗談めかしたジオの行動で、『丁寧な物腰の少女が友達と御嬢様ぶって遊んでいる』程度に見える面も確かにあった。

 それにはジオが言葉と共に、わざとらしいまでの『執事っぽい行動』をするためでもあった。

 実際の執事がしない動きなのに、執事を見慣れない人にはそれらしく見えるという。

 他人の感覚を把握して狙い通りに振る舞えるジオはすごい、とリーシア心の中で称賛した。

 ――リーシアは読心の魔石を使っていないので、婚約者の距離間に嫌悪がない事や、心からの称賛などに対して、ジオが内心では悶えたいほど照れているのには気付かなかった。


「アクセサリーが見たいわ。

 お小遣いで買えるような物が欲しいの」

「買ってやる――って言えれば良いんだけど」

「買って貰う理由がないもの」


 冗談だと信じこんで笑うリーシアに、ジオは冗談に見えるように笑って見せた。

 ジオにはリーシアの言葉が偽りない本心だと分かってしまうため、うっかり漏れた本心を口説きに繋げる事は出来なかった。

 楽しそうに笑うリーシアを、離れた場所で見つめる友がいるためでもある。


 ジオは内心でがっくりと落ち込みながら、表に出さずにリーシアを案内した。 

 入ったのはこじんまりした店で、可愛らしいデザインが多い装飾品店だ。

 リーシアはさりげなく店内を見回し、近くの商品を眺め、ジオに小声で話しかけた。

 

「お小遣いで買うには少し……?」


 リーシアの言葉が足りないのはうっかり店員に聞かれる場合を考慮してだ。

 店員は聞こえる距離にはいないものの、その意図も、省略された言葉もジオには全て伝わっている。

 伯爵の家族として飾るには安く、町の女の子が遊ぶ小遣いで買うには高い金額だった。


「貯めて買うの」

「貯めて?」

「シアのおやじさんも一気に終わらせられない仕事は何年計画か立てて少しづつ金を出したり、何かあった時のために貯めてる金があるんじゃないか?

 生活のためのお金は確保しておいて、別で金を貯めて買うんだ。

 生活に必要じゃないものは何ヶ月も貯めたり。

 まぁ、収入によるけど」

「家ですと衣装や装飾用は経費がありましたが、お話しされたい事は分かると思います。

 用途を分けて積み立てたり収入の見込みを立てて支払いの計画を立てるのですね」

「……お嬢様ってそんなコトまで勉強するの?」


 リーシアの頭には例になりそうな領の経理が思い浮かんでしまった。

 ざっと思い浮かべた領の収支や事業などの計画はジオに丸見えだ。

 そう言っても学園に入る前までの情報がほとんどで、かつ未来の話も混ざっていて、時系列はよほど詳しいものでないと読みとけない。

 ジオに知らせてしまったのは勿論意図的でなく、リーシアはあっと口元を隠し、困ったようにジオを見つめた。


「家によるそうです。

 家を継ぐ方でも学ぶ女性は少ないそうですが。

 私は、興味がありましたので」

(力の関係で知識が多い方が役立つと思い領の状況なども学びましたし、事業は計画の段階で先を視ております。

 どうか、今聞こえた事は内密に)


 リーシアは口では言える範囲を、心で言葉に出来ない部分を思い浮かべた。

 身長差もあり、頼んでいるため、見上げるような角度になっていた。

 学園内や貴族に対しては気を付けているので行わないが、今は町中で気を許した相手だ。

 全く他意はなく、真剣な頼みごとのため、ただ見つめているだけだ。

 

「わざとなら、あざといって笑えるんだがなぁ……」


 ジオの呟きにリーシアは首を傾げた。

 返事が無いがジオは得た情報を悪用しないだろう、と疑いもしないリーシアの感情が、ジオにはしっかりと伝わっている。

 ジオは深い溜息で、恥ずかしさを紛らわせた。

 

 

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