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もう愛を夢にみない  作者: 藁の家
自由な人
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後日 2

 カチュアへの報告が終わり、リーシアは窓の外を見下ろした。

 警備員の服を着た女性が、寮から少し離れた場所に佇んでいた。

 リーシアは彼女が不審人物として声を掛けられないか気になって未来を探った。

 彼女が不審に思われる事は少なく、怪しまれてもすぐに警戒は解けた。

 学園からの通達があり、王家の意向を示す証明を提示して説明している場面も視え、この短期間で根回しはほぼ終わっているようだとリーシアは感じた。


 警備の装いで近くにいる彼女は、やはりイシュテだった。

 イシュテは時によって装いを変えている。

 リーシアが授業を受けている間は用務員や教師のような装いで目立たない場所にいて、どこにいるのか分からない時もままあった。


 ルクレイスからは一度連絡が来ていた。

 リーシアがカチュアに語った未来に嘘はなく、ルクレイスの未来に破滅はない。

 少しの失敗もないとは保証しないが、影響を与えて変化させるのを避けたいとも伝えた。

 ルクレイスの未来はリーシアの力無しで切り拓いていけるものだ。

 もし流れが変わって危険が生じれば伝えるとも誓った。

 中には失敗が覚悟として身につく時もあるため、成功に繋がっている経過をあまり大きく変化させるのは良くない気もしていた。

 ミーヤの試験の失敗を話しているで、ルクレイスなら理解してくれるだろうと、リーシアは願った。 


 リーシアは名乗らなかったイシュテに、色々と知っているのを隠さずに話しかけた。

 話しかけたというには語弊があって、姿を現さない彼女にリーシアは置き手紙によって接触した。

 イシュテは眉を潜めたが、リーシアは他者の手に渡らないのも、イシュテが拾うのもしっかり確認済みである。

 イシュテとは少しづつ交流に似たものが生まれ、一月もすれば寮の外でなく、医師や寮の管理人などの振りをして、直接リーシアと話してくれるようになる。


 リーシア自身の未来はと言えば、ぼやけていて良く分からなかった。

 それは心配かけないようカチュアに知らせなかった。

 リーシアだけでなくヴィジット領もぼやけていた。

 雰囲気やいつかの一場面は視えるのだが、不明瞭だったりいつ起きるかが分からなかったりした。

 ゼオが近くにいるからかと、思い当たる理由が出来た事で、未来が確定しない事に対してのリーシアの内心は少し穏やかになった。



 リーシア自身と周辺の未来は概ね平和と言えた。



 リーシアは父母からの手紙の返事を待ちながら、ゆったりとした日を過ごしていた。

 もう悲観するような未来も視えなくなった。

 ユレアノとエイゼンは放って置いても結ばれるし、ルクレイスも諦めてくれて、宰相の攻撃もなくなった。

 後はジオとゼオについて父から説明を受け、自身の未来を考えなくてはと思っていた。


 その内に待っていた父母からの返信が届き、ジオ達を頼るよう書かれていた。

 手紙の中身は先に未来視で調べる事も可能だったが、他に確認する件が沢山あり、大きな危険も無かったため、リーシアは届くに任せていた。

 リーシアの心の中では既にジオ達を信用しているからでもあった。

 隠している異能を明かすなんて安易に出来る事でないし、読心で伝わってきたものも、同情や好意といった感情が多かった。

 敵と考えなくてはいけない方が、リーシアには不自然に思えていた。




 いつもの面子で集って外出について話した放課後、カチュアはリーシアに思いもよらない提案をしてきた。


「カイ様が外出申請、ですか?」

「そう。

 私もユレも行きたいけど、女が二人や三人になった所で男二人には勝てないわ。

 ならカイが上手く外出許可をもぎ取って付いていくのが一番安全だわ」

「それは……」


 リーシアはカイへ戸惑いを向けた。

 カイは眉を寄せていたものの、しっかりと自分の意思で頷いて返した。


「こいつからリーシアさんの外出の話は聞いてた。

 俺も女一人で知らない男二人に連れ出されるのは危ないと思う」

「お父様が信じた方々なので大丈夫です」

「知らない奴なんだろ?

 入学前に会った事ないような領地にいなかった奴で、親父さんも最近知り合ったばかりの。

 親父さんが騙されてたらどうするんだ?」

「それは……」


 無いとは言えない。

 リーシアも異能の関係や話した印象で信頼しても良いと考えているだけで、積み重ねてきたものはない。

 ジオは不審を抱かれぬよう読心によって上手く立ち回っているだろうし、未来が視えるゼオが一緒にいる。

 人を騙すとすれば、恐ろしい組み合わせだ。


「悪い方には、見えませんでした」

「リーシア様は優しいですから。

 時には自分のために人を疑う必要もありますよ」

「ユレアノ様……」


 カチュアはお前が言うなと呆れた目でユレアノを見た。

 カチュアも何があったのかは聞いていないものの、ユレアノは最近までじっと耐えて危害を加えてくる令嬢らと和解して親しくなろうとしていた。

 第三王子とも普通に親しくなろうとしていたし、エイゼンの嫁を探すと張り切っていた。

 無邪気さや人の善さではユレアノは誰かを責められない。

 

 リーシアは困ったように微笑んだ。


「私の家は人と人との信頼を大事にして参りました。

 それはただ無条件に相手を信用する事ではありません。

 私は父の目を信じておりますし、私も鍛えられておりますから」


 リーシアは両親を信じる娘を完璧に演じて、最後は自信に満ちた様子で締めくくった。

 ユレアノ達にはその自信がかえって心配に見えたものの、リーシアが父親に信頼を寄せているのは信用した。


 実際にはリーシアは両親が好きで信頼もしているが、二人が間違えないとは考えていない。

 リーシアの父は何度も、リーシア秘密をエイゼンの父である宰相へ打ち明けて相談しようと考えていた。

 その度にリーシアは自らを使い潰す未来を視て、父へとしがみついた。

 しかも宰相はリーシアがルクレイスと結ばれると、最悪の場合、ヴィジット領衰退させる攻撃を仕掛けてくる。

 ルクレイスとの未来さえ無ければ、宰相は息子とほ婚約を解消したリーシアに未だ優しく慈愛を注いでいる。

 ――その心の内はリーシアにも分からない。

 胸の内を見せない宰相ではあるが、彼を友として信頼している父の目を、心から信じられるかといえば難しかった。


 カイは溜め息をついた。


「まぁ……それはそれで良いけどさ、黙って見送って何かあったら嫌だし、断られても俺は付いていくぞ」

「カイ様……」


 マロッドはそれまで黙って聞いていたが、リーシアに微笑みかけてカイ達の後押しをした。


「私は足手まといになるから付いていかないけど、カチュアさんと一緒に根回しさせてもらうよ。

 カイ君がリーシアさんが外出する日に外出出来るように。

 だから最初から一緒に行った方が良いと思うよ」

「皆さんありがとうございます」


 リーシアは四人の優しさに頭を下げた。

 思いやりを嬉しく思いつつ、同時に困っていた。

 カイが付いてきてしまえばジオ達と秘密の話は出来ない。

 リーシアの将来についてだけでなく、未来視や読心の話、他国の異能者についてや、ジオ達の昔話なども可能なら聞いてみたかった。

 カイが加わればそういった話は難しくなる。

 そしてカイが付いてくると言う事は、カイを見張り守る人員が付いてくるという事だ。

 カイとユレアノは卒業までは監視・保護される立場だ。

 カチュアの狙いは恐らくそこであると、さすがにリーシアも気付いていた。

 カイを守る人員にリーシアを守らせる算段だ。

 そんな単純な裏を大人達が読めないはずはなく、大人達も女生徒を危険な可能性のある外出にあっさりと出したくないだろうから、利害は一致している。

 加えてリーシアにはイシュテがついている。

 イシュテか、報告を受けたルクレイスまで動くとすれば、カイの外出は簡単に成ってしまいそうに思えた。


「ありがとうございます。

 安全と分かるまで、どうかよろしくお願いします」

「任せとけ。

 どうせ俺の担当の人は護衛任務の実地練習とか言い出すだろうからな。

 座学より良いし」

「まぁ」


 カイの言葉には慰めだけでなく本音も窺えて、リーシアは淡く笑んだ。

 リーシアも一人きりでジオ達と出掛けるのに、全く恐怖が無かった訳ではない。

 心強いと礼を言い、リーシアは四人での外出を思い浮かべた。


 ――カイはジオやゼオと合うだろうか?

 カイが異能者だと御披露目されるのは卒業後だが、隠してはいない。

 ジオ達にはカイが異能者だと伝えた方が良いだろう。

 カイに二人が異能者だと怪しまれたりしないだろうか。

 カイに付いてくる護衛はどうなのか。


 不安を上げればきりがなかった。

 リーシアは解散したら早速予定を組んで手紙を書き、未来を視ようと決めた。

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